王国の野望⑧共同戦線
攻め込まれるミンタシア
戦いを優位に進めるデレンマレーノ軍
ミンタシア独立軍とは言えゲリラ組織の共同体のようなもの。
あまり連携が取れていないうえ、武器も防具も正規軍のようなものはない。
「もうすこし武器もしっかりしたものがあればなぁ・・・」
「そうだなぁ。そうすれば俺たちだって、ここまでヤられることはないんだが」
独立軍の兵士たちはいつもそう思っていた。
「ゲルハルト、どうだろう、お前アバンツオへ使者に立ってもらえないか?
お前ならシャリエ女王と旧知の間柄だろうし。どうだ?」
「兄上の指示なら、どこへでも参ります」
「では頼む。俺たちは本拠地をもうすこし南へ持っていくつもりだ」
「それではデレンマレーノ軍の格好の標的になりはしませぬか?」
「いや、それこそ俺たちの思うつぼさ。やつらにはこの土地を支配するだけの
実力はない。ただ単にあの帝国を復活させたいだけ。そうすれば俺たちも
お前たちも以前のように圧迫搾取されるだけだ。
俺たちが標的になって、兵力を集中させれば、ほかの部隊が活発に動き出す。
そうすれば兵力を分散させるしかないデレンマレーノを打ち破る
きっかけになるかもしれないからな」
「上手くいくといいですね」
「なぁに何とかなるって!」
ゲルハルトは家臣を連れてアバンツオへ向かった。
「じゃあ俺たちは本拠地を南部イセリヤへ移す。いいな」
いまの拠点からイセリヤまでは丸2日。
移動している間にも何度かデレンマレーノ軍の攻撃に晒されているが
「もうすこしだ耐えろ!」
「おおう!!」
ようやくイセリヤに到着すると
「待ってたぜ!イスマエル」
「カトリーヌ、久しぶりだな。ゴメスも元気だったか?」
「あいよ!お前らが来るのを待ちわびてたぜ!」
「ちょっとあんたら、口の利き方気を付けなさいよ」
「なんだよシャルロット!それにステファンまで・・・なんなの?」
カトリーヌとゴメスを傍らに呼び、耳打ちしているシャルロット。
「えええ!!!!!イスマエルが?うそでしょ?何かの冗談だよね?イスマエル」
「本当さ。いままで悪かったな、騙したわけじゃないんだけど」
「ま、まぁまあ、なんかそういう雰囲気があったし、もしかしてとは思ったけど」
早速作戦会議が開かれた。
「イスマエル、ああごめんウルリックだっけ?どうするの?」
「イスマエルでいいよ。それでだけど、ここからデレンマーまでどのくらい?」
「そうさなぁ、丸3日ってとこかな、途中の山道を無難に越えられればだけど」
「どういうこと?」
「アミヨンって峠があるけど、ここにデレンマレーノ軍の精鋭部隊が駐屯してる。
デレンマーへ抜ける道はここしかないが、迂回路はあるから問題はないと思う」
「その迂回路なんだが・・・」
「どうしたゴメス」
「最近の大雨で土砂崩れがあったらしいんだ。通れるらしいけど・・・」
「まぁ迂回路だし仕方ない、アミヨン峠は馬車がすれ違えるくらい広い道だよな」
「ああ、そうだ。峠からやや下がったところの眺めが良くてなぁ・・・
ちょっとした店があってさ。休憩するにはもってこいなんだわ。
そこをデレンマレーノ軍が陣取っているんだな」
「でも、迂回路使って進めば何とかなるだろう?イセリヤのメンバーは問題ない?
だろうけど、ほかから来た連中はどうだ?」
「大丈夫だよ、あたしらが先導すっからよ」
「じゃあ頼むわ、カトリーヌ。ゴメスもな」
「解ってるよ!俺たちに任せな」
一方そのころアバンツオ王国の王都アバンツオについたゲルハルト国王の一行。
「ようこそお出で下さいました。さぁこちらへ」
シャリエ女王の執務室の隣にある大広間で、ゲルハルト国王は謝罪していた。
「この度、貴国への武力侵攻については国王として、部下を指揮監督できていない
ことにより発生したものであり、デレンマレーノ王国の国王として謝罪します」
「宣戦布告状を見たときに、あなた様の筆跡と微妙に違うことが分かりました、
そこからあなたの国で何か発生したと感じていました。
だから今回、デレンマレーノ王国の皆さまが来られると聞いて、
これからのお話を聞こうと思っておりました」
「ありがたいお言葉、では早速」
「では元帥殿と参謀長も、あ、あとメイド長も」
「承知しました」
フィッシャー元帥、メレイ参謀長、メイド長のミリア・アーノルドが集合
「ミリアは、国王陛下御一行の接待をお願いします」
「かしこまりました。では皆さまこちらへ」
部屋で旅装を解き、くつろぐ国王一行。
「シャリエさまはあのように言っておられるが、本心は怒り心頭なのかもしれん
こちらとしては誠心誠意、今回の出来事を謝罪するしかない」
「それでよいかと思います。話をすれば分ってくれると思いますよ」
「そうだな爺よ。そなたは私の様な未熟者に良く仕えてくれた、
あらためて礼を言う」
「何をおっしゃいますか。ここにいる家臣たちはみな、あなた様の味方ですぞ。
なんなりと要望を伝えてください。それを実行するのが私どもの役目。
そうではありませぬか?」老臣も若いものも皆、涙ぐんでいる。
「陛下、ご準備が整いましたので、こちらへどうぞ」
女王執務室には
シャリエ女王をはじめアバンツオ王国のトップたちが居並んでいる。
フィッシャー元帥もメレイ参謀長も、メイド長のミリアたちは壁際に並んでいる。
「まず、今回の帰国への武力侵攻について謝罪いたします。
誠に申し訳なく、本来ならばこのような場に出席できるものではありませんが
女王陛下のお計らいにより、謝罪の場を設けていただき、有難く存じます」
「一言、わたくしからも」
陪席していた家臣の一人、ジャネット・ハリス財務卿が
「今回の事件で受けた損害は賠償しますので、被害状況をお教え頂きたく」
「それは無しにしましょう」とシャリエ女王
「なぜです?我々の失態で貴国には多大な被害を蒙ったはずですが」
「済んだことをいつまで言っていても始まりませんから」
「しかしそれでは私たちの気が済みませぬ。何なりと申しつけ下さいませ」
「ではお気持ちだけお受け取りしましょう」
「しかし、それでは・・・」
「では、こうしましょう。デレンマレーノ軍に鉄槌を下したいのです。
無論、あなたがたの失態というよりも、あの帝国の残党どもに対してです」
「そのため、あなた方の持っている帝国の残党どもの情報が欲しいのです。
知っている限りで構いませんが、可能ですか?」
内務卿を務めるアルフレート・ヴァーグマンが
「ベルケルという男が取り仕切っていて、常時いるのは数人。
このベルケルは元帝国の重臣だったマンフレート・ゲットマイヤーです。
とにかく口がうまくて、どんな高位の人物の元にも入り込む事が出来、
それが国王陛下の元にも・・・」
「そうだ、あいつの口のうまさは私が過去出会った誰よりも上手でした。
だから容易く受け入れてしまったのです。家臣や国民に申し訳ないと」
「なるほど、その男さえ消すことが出来れば、良さそうですね」
「ただその取り巻き連中も多くて。それをどうするか。困ったものです」
「解りました国王。あなたがたはしばらく此処にいることが良いと思われます
国に戻るのは危険ですしね。心行くまでお寛ぎくださいませ。
実際に戦闘が始まれば、その場に出ることも考えておいてください」
「承知しました。ベルケル一派さえ消せれば何とか国を立て直すことも
出来ましょうし、帝国の残滓を一掃できれば、この大陸にも平和と安定が
もたらされるでしょう」
ゲルハルト国王とシャリエ女王の話し合いで、
ミンタシア独立軍とアバンツオ軍が連携してデレンマレーノ軍へ鉄槌を下す。
そのために通信魔道具=通信石をアバンツオ側とミンタシア側で共同使用可能な
状況にしたものを配布することとしたアバンツオ軍参謀本部。
「これを使えば我々といつでも連絡を取り合うことが可能です。
いままでのモノよりも高性能だとおもいますよ。小型でシンプルに作りました」
参謀本部防衛研究部部長であるレアンドル大佐が部下連れで会議に参加していた。
レアンドル大佐はかつて第8軍ベルガー少将の部下だったが異動していた。
「やっと俺のやりたい仕事ができる!」
「よかったな、レアンドル大佐、しっかり研究に励んでくれ」
クララ・フォン・ベルガー大佐(当時)から激励を受けて赴任異動していたのだ。
「この通信石を今、ロマーニ商会に発注しているので追加分ももう間もなく、
ミンタシアに発送できると思っています」
「おお!それは朗報!!ミンタシアは案外通信状況が思いのほか悪く、
いままでのモノでは音声が途切れることが良くありまして・・・」
「そうですか、その点も改良していますから安心して使えると思います」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おい!国王たちはどこへ行った!」
「申し訳ありません。我々が少しの間食事に行った間にやられたようです」
「ぬぬぬぬぬぬ・・・どうしてくれよう」
「まぁ焦るなよ、俺たちの方が戦力は多いしミンタシアを制圧したら、
アバンツオを叩き潰す!大丈夫、俺たちの計画にはいささかの狂いもない」
「本当か?なんかヤバい気がするんだが」
「問題ない!気にするな国王がいなくなっても大丈夫だ」
ベルケル一派は国王がいなくなっても計画に狂いはないと思い込んでいるようだ。
だがミンタシア侵攻中のデレンマレーノ第5,8軍は予想外の苦戦を強いられていた。
すでにミンタシアの確保した16州のうち12の州を奪還されてしまっていた。
だがイセリヤを含む4つの州でミンタシア独立軍は第5,8軍の大軍を向こうに回して
善戦しており、その大軍を完全に足止めしていたのだ。
「これでは先に進めんぞ!」
「さよう、このイセリヤの連中は頑強です」
「いち早くこの戦線を突破するのだ!」
何度も突撃を繰り返すものの、その都度多数の戦死戦傷者をだして撃退されて・・
「早くここを突破せよ!さもなくばお前らを斬る!」
そう言われて突撃していっても過半数は帰ってこない・・・
「ダメだ。ここはあきらめて北上しよう。その方が手っ取り早い」
部隊のほぼ半数を失った第5軍はそのままイセリヤ正面で独立軍と対峙したまま
第8軍はそこから北上し、クリナルガン州で独立軍を襲撃することにしたのだが・・
すでにここでは第2,7軍が激闘を繰り広げている。
優位にあるものの、独立軍も勢いを取り戻しつつあったから戦況は好転しない。
ここへきてデレンマレーノ軍の破竹の勢いは完全に失われた。
アバンツオ王国軍の支援を受けたミンタシア独立軍の反撃が始まった。
「ミンタシアの後ろにはアバンツオがいるんじゃねえか?」
「そうだろうなぁ・・・普通に考えればそうだけどな。
どうすっか、アバンツオへ再侵攻か?むこうも用心してるだろうし」
「そうだ!アバンツオを打破しよう!そうすれば戦況も好転するかもしれない」
「そうか?俺はそれほど簡単にはいかないと思うぞ。
ミンタシアとアバンツオが同時に反撃開始となったら、おそらく持たない」
「そんなことはない。今この時点でもミンタシアを押し気味に攻めているし
兵力だってまだまだ30万以上は存在している、最精鋭の近衛軍はまだまだ
温存していてこの状況だぞ。大丈夫だって!アバンツオを攻撃しよう!」
宣戦布告の日から1週間。
ついにデレンマレーノ軍はアバンツオ打倒に向けて進発したが・・・
完
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