王国の野望⑨開戦の日
運命の8月1日を迎えた。
アバンツオ王国軍がにらみを利かすアンバル、ランブランズ、グラモントの砦から
王国軍参謀本部への異変の通報は未だない。
「警戒を十分に行うように指示せよ」
「はっ!」
メレイ・シャルパンティエ参謀長からの指示が飛んでい参謀本部。
「不意の襲撃に気を付けるようにも指示するよう」
ミンタシアへの攻勢はさらに強くなっていたが・・・
アバンツオの支援をうけた独立軍は頑強に抵抗している。
クリナルガンや南部のイセリヤを中心に、侵攻してくるデレンマレーノ軍を迎撃し
各所で勝利を収めているミンタシア独立軍。
「いいぞ!この調子だ。
カトリーヌ、ゴメスはこの先、デレンマーへ逆侵攻の先陣に立ってもらうぞ!」
「任せとけって!俺たちはいままで奴らに負けたことねえんだぞ!」
「あんな腰抜け連中なんぞ、一蹴よ!」
「近衛軍は手ごわいから気を付けろよ」
「解ってるって。じゃあ行ってくるぜ!」
イセリヤ部隊がデレンマー攻略へ向けて動き出したころ。
グラモント砦の近郊にデレンマレーノ軍が姿を現したとの通報が入った。
だが、そのまま駐屯したままで動く気配はなかった
「威圧行動だな、あれは」
グラモント砦を守備する第1軍司令官リナ・マツモト大将は見ていた。
「ジョンソン大尉、キミはこれから手勢を率いて、敵の様子を見てほしい。
行ってくれるか?」
「お任せください、私の部隊は偵察専門と言ってもいいではないですか!
みな、喜んで出発します!」
「では頼む」
ジョンソン大尉は部下を引き連れひそかに砦を出た。
夜陰に紛れ、深い森に隠れ、すこしづつ敵に近づいていく・・・
「やつらやる気ねぇな・・・」
「大尉殿、私らもうすこしそばへ寄ってみます」
「おう、気を付けろよ!」
「了解」
二人の兵士が敵に近づいていく。
行った先で揉めるような声が聞こえている。
(大丈夫か?あの二人・・・)
やがて二人は何事もなかったかのように戻ってきた。
「何かあったんじゃないのか?」
「いえ?斥候兵が4人襲ってきたので、瞬殺してやりましたよ」
「気づかれたのでは?」
「ああ、その点は問題ありません。口をふさいで死体は見えないところに・・・」
「やはりお前たちに行ってもらって良かったよ。とりあえずゆっくり休め」
「司令官閣下」
「ジョンソン大尉か?ご苦労だった」
「はっ!何人かに偵察を行わせましたが、敵軍はおよそ2万程度、
しかしそのほとんどは徴集された兵ですね、だからあまり士気がないのかも
しれません」
「1万程度と見ていいな。実際戦闘に出されるのは」
「そう見ていいと思います。徴集兵はやる気がなさそうですし、こっちから襲撃
したら即逃げ出す感じに見受けられました」
「では、逆にこちらから打って出よう。敵に大打撃を与えるのだ」
「はっ!それでは作戦準備にかかります」
「頼む」
「では今夜夜襲を行う。
東の砦からレイモンド大佐、西の砦からはクリスティーヌ大佐が
それぞれ指揮を取れ。作戦開始は午前0時、一気呵成に攻めろ!指揮官は必ず
捕虜とせよ。以上だ!」
そして午前0時
「行くぞ!!」
中央の砦からはリナ・マツモト大将自ら先頭に立ち城門を出た。
「私に続け!敵を葬るのだ!」
「おおおおおお!!!!!!!」
青みがかった黒い鎧に黒いマント、漆黒の大剣ではなく今回は長槍をふるって
群がる敵兵を次々に突き伏せていく。
東の砦からも西の砦からも、一気呵成に攻め込むアバンツオ第1軍
「なにごと!夜襲か!」
「すでに前線は崩壊しております!いち早くこの場から離脱を!」
「ならん!指揮官が逃げ出したとあっては末代までの恥!!
敵と刺し違えるのだ!!」
意気込みは素晴らしいけれど、その剣術はリナの足元にも及ばず
ズバッ!
うっ・・・
利き手である右手を斬り落とされた指揮官は、すぐに取り囲まれ・・・
「貴様がデレンマレーノ軍の指揮官だな。私たちと一緒に来てもらおう」
「くそ・・・こんな小娘に・・・」
縄をかけられ、猿轡をされた指揮官を連行していくジョルダン中尉。
「中尉、気を付けろよ。この男は何するか分らん」
「承知しました」
「地下牢へぶち込んでおけ!」
指揮官を失ったデレンマレーノ軍は右往左往するばかりで最早軍隊の体を
なしていない。
戦いは半日で決した。
戦場にはデレンマレーノ軍の戦死体が転がっている。
それに対してアバンツオ軍の損害は戦死2名、戦傷18名で極めて軽微だった。
「みな、ご苦労だった。また襲ってくるかもしれない。警戒は怠るないように
警備隊以外は全員休むように」
「レイモンド大佐、クリスティーヌ大佐は私と一緒に来てくれ」
「はっ」
副官たちを含めて地下牢へ降りていくと・・・
すでにあの指揮官は拷問を受けてぐったりしていた。
「お前の名前は?」
「・・・」
「言え!言わぬか!」
リナがみずから鞭を振るって指揮官を責める。
「閣下、それは私どもが・・・」
「いや、この男も指揮官である以上、同位の私が行うのが筋だ」
「承知しました」
しぶとい指揮官はまだ口を割らない。
「よし、こいつを逆さに吊るせ!」
天井から逆さづりにされた男に水をかけ、鞭で責め・・・
ややしばらくすると
「解った・・・言う・・・言うから降ろしてくれ」
「降ろせ!」
床に座らせ
「お前の名は?」
「俺はデレンマレーノ軍第8軍司令官ジェイソン・リードだ」
「今回の作戦のすべてを言え!」
ジェイソン・リードは自分の知っていることをすべて話し始めた。
「解った、ではこの男を医務室へ連れていけ」
「何故です閣下?」
「この男から聞き出すことはすべて聞いた。だからあとはケガを治療し、
こいつのやりたい様にしてやれ」
「解りました。看護兵!」
待機していた看護兵は担架を持って現れた。
ジェイソン・リードをのせた担架は医務室へ向かった。
翌日
「アンドレア曹長、わが軍の幹部将校をすべて集めよ」
「はっ」
「今回の戦いはあくまで前哨戦である、今後参謀本部とも連携して敵地へ乗り込み
デレンマレーノ軍を殲滅する。今まで以上に厳しい戦いが続くことを認識せよ」
将校たちはあらためて自分たちの任務の重さに顔を引き締めていた。
同じようにクロエに第2軍、チェンバレンの第3軍も同様の訓示を行っていた。
それもすべて参謀本部メレイ参謀長、そしてフィッシャー元帥からの通信石により
全軍に伝えられたのだ。
「この通信石は本当に便利だなぁ・・・」
「そう、これを作ったレアンドル大佐は素晴らしい」
クロエ率いる第2軍と共同作戦を行う第7軍はアンバル砦よりも
さらに北方、海沿いの街リツローネの郊外に新たに駐屯地を建設し駐留していた。少将に昇任していたフランツィスカ・アルスマイヤーがクララの後任として
指揮している。
「閣下」
「どうしたメアリー大尉」
「はい、海岸沿いにこのようなものが」
メアリー大尉が持ってきたものは、小さな樽。
中には海水に濡れてはいたものの判読可能な手紙が入ってい、それを読むと。
【第7軍を攻撃せよ。海から例のあれを使って】
「これは私たちを攻撃せよという命令でしょうか?」
「そのようだな。しかし海からの”例のあれ”とは何だろうか」
「解りかねます」
「参謀たちを集めよ」
「この手紙を呼んでくれたまえ」
参謀たちに手紙を読ませても・・・
「あれとはなんでしょう?」
「海からの攻撃は分りますが・・・」
「真意は分りませんね」
「よく解らない以上、海からの攻撃に備える様に」
「はっ!」
その日から海岸沿いの警備がより厳重なものになった。
数日後、
「あれはなんだ?」
帆船が2隻、航行しているのを発見した。
この辺りは海上交通路でもあり、帆船自体もの珍しいものでは無いのだが・・・
この2隻の船は異様なほど黒い船体で、見ただけでもある種の威圧感があるのだ。
「どうも怪しい。司令官閣下に報告だ」
と警備の兵隊が動き出した次の瞬間に
ドッカーン!!!と大きな物音がして警備の詰所が破壊されてしまった。
「おい!なんだこれは・・・」
「詰所が・・・」
「早く報告に行け!」
「おう!」
報告される前に、駐屯地司令部でもその物音は聞こえていた。
「なんだあの音は」
「なにか爆発したような音がしましたが・・・」
「それに建物が揺れましたね。海岸警備詰所の方からですね」
「様子を見てこい!」
複数の兵士が司令部を出ようとしたときに、
警備兵が転がり込んできた。
「詰所が破壊されました!」
「なに?どういうことだ」
「帆船から発射されたものが爆発しました」
「司令官閣下へ報告せよ」
「あの音は何だ?」
「調べてまいります」
副官のところへ警備兵がやってきて「詰所が破壊されました!」
「なんだと!それでけが人は?敵は?」
「けが人はおりません。敵は帆船でやってきました」
「海からの攻撃ということだな。すぐに参謀本部へ連絡するのだ!」
連絡を受けた参謀本部では新たな脅威への対応を検討し始めていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「よし、これでいいだろう。すこし様子を見てみよう。奴らの出方を」
この帆船はデレンマレーノ軍のものだ。
占領したミンタシア最北端の街、ユスタンスは漁港として賑わっている。
そこにある造船所で作らせた2隻の帆船。それが今回リツローネの駐屯地を
攻撃したものだ。
「ずいぶんと黒い船だな。これで何するんだ?」
「それはお前らには言えない」
「んだよ、だからデレンマレーノの連中は嫌われるんだよ!」
その船が完成に近づくと黒い金属製の太い筒がある機械が据え付けられた。
「これ何?」
「言えない」
「教えろよ!この船作ったの俺たちだぞ!」
「言えない!」
「ったく」
出来上がった帆船はいずれともなく忽然と姿を消した・・・
その帆船が次に姿を現したのが、今回のリツローネ基地襲撃でのことだ。
「しかし敵はいつの間にあんなものを作ったのだ?」
「解りません。あの2隻だけなのか?もっとあるのか?調べましょう」
「頼むぞ」
アルスマイヤー少将は、不安に思いながらも対応策を考えていた。
次に2隻の帆船が姿を現したのは、ナライ公国の沖合だった。
その帆船はナライ公国の港に無理やり接岸すると、降りてきた兵隊たちが
公国をあっという間に占領してしまった。
ナライ公国大公警備隊もなすすべなく、全員捕虜となってしまう。
「俺たちはデレンマレーノ王国の者だ。貴様たちはこれから俺たちの配下となって
アバンツオ王国攻撃に参加するのだ!わかったか!」
「それはできません!私たちはアバンツオ王国のシャリエ女王の配下です!
あなたたちといっしょに行動することは許されません!」
そういった隊長は・・・
ズサッ・・・
あっさり斬り殺されてしまったのだ。
「これは大変なことになったな」
「俺たちをアバンツオ王国攻撃に使うなんて・・・」
「隊長・・・」
「なんとか、このことをアバンツオに知らさなければ」
夜
静かになった兵舎
見張りのデレンマレーノ軍の連中は寝てしまっている。
「こちらナライ公国大公警備隊。デレンマレーノ軍の捕虜となってしまいました」
「アバンツオ攻撃に参戦せよと強要されています」
ナライ公国からの通報を聞いたアバンツオ王国参謀本部は
ハチの巣をつついたかのような騒ぎになっていた。
「ナライ公国が陥落した!」
「挟み撃ちか?」
「参謀長閣下は?」
その報告を受けた
フィッシャー元帥もメレイ参謀長も、シャリエ女王とお茶を楽しんでいた。
「解りました。ナライが陥落したのですね、対応は出来ています」
「安心しなさいよ。ナライはすぐに戻りますから」
「そうです。私たちに任せなさい」
3人とも余裕の表情をしているのは、報告した兵士も不思議に思っていた。
「では行きましょう」
シャリエ女王が立ち上がると、元帥も参謀長も併せて動き出した。
そして
完
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