アバンツオ州侵攻作戦⑤アンバル砦攻略の前哨戦

「クロエ隊長」

「なんだ?」

「アンバル砦まではどの位なんですか?」

「そうだな、あと2日と言ったところか」

「まだまだあるんですね」

アンバル砦へ向かうクロエ隊は200名の大隊が4つ存在し、1000名近い大部隊。

今の魔王軍の中では最大兵力であるのだが・・・

(まだ少し練成する必要があるな・・・)

魔王リコからは、無理強いはしない。ただ必要なら強襲も可能だと言われている。


ならば


アンバル街道の途中にあるベルデユと言う集落の裏山にある小さな砦。

帝国騎士団の旗がはためいているのが見える。

(無視しても良いが・・・よしここを襲うことにしよう)

「全軍停止!」伝令兵に部隊長に集合を指示し、やがてやってきた4人の大隊長。

「如何されました?」

「あそこの山に小さな砦があるのが見えるだろう?この砦を攻撃することとする

 理由は我々の移動の安全を確保することと、隊員の練成を兼ねての事だ」

「承知いたしました」


まず様子を見るために斥候を出し様子を探らせた。

「この砦には20名程度の守備兵がいる模様。規模も小さくすぐに落とせましょう」


ところが・・・

この20名は帝国騎士団の中でも精鋭とされる「深紅の騎士団」の一部隊だった。


「お!なんか来たぞ!」


時の声を上げて丘陵を駆けあがり突進してくる魔王軍。

「んだよ魔王軍かい・・・そんなもん一蹴じゃあ!!弓隊射撃用意!発射!」


ブシュ!

グサッ!


バタッ・・・ドサッ・・・・・

突撃を仕掛ける魔王軍の軍勢は守備隊弓士たちの格好の”餌”となってしまった。

次々に斃れる魔王軍・・・

「隊長!突撃した第2中隊が全滅しました!!」

「なに!全滅だと!次の部隊を出撃させろ!」

だが第3中隊、5中隊も壊滅してしまう大損害を被ってしまった。


「これは・・・練成のつもりが・・・攻撃中止!撤収だ!」


「おお!魔王軍が撤収していくぞ!やったな!勝鬨を上げろ!!」


ベルデユ砦を陥落させるどころか、損害を被るとは・・・

この戦いで第2大隊は損害が大きく、以降の戦いに出ることは無かった。


「クロエはどうしたのだ?まさか小さな砦を落とせないとは・・・」

転移装置でテレポートして来た魔王リコと参謀メレイ。

「も、もう、申し訳ありません!大事な戦いの前にこのような失態!  

 魔王さまのご意向に沿えず、この場で死んでお詫びいたします!」

と短剣を喉元へ着きつけるクロエだが・・・

「待て!まだ先がある。死んではならん!この先の戦いでその汚名をそそげ!」

「魔王さま!もったいなきお言葉。このクロエ必ずや汚名を雪ぐことに全力を

 あげる所存にございます!」


「メレイ、クロエ隊の救援にチェンバレンの部隊をと思うがどうだ?」

「魔王さま。チェンバレン殿の麾下は戦いに出たくてうずうずしていると聞きます

 すぐにでも出陣させましょう」

「頼むぞメレイ」


魔道具を使ってブーランジュ砦の指揮官チェンバレンに連絡、すぐに出陣せよと。

「いよいよこの時が来た!ようやく出陣の時が来たぞ!皆準備を怠るな!

 明日朝に出動だ!」「おおおおおおおーーーーーーーー!!!!!!!!」


チェンバレンの部隊は300名ほどだが、戦慣れした連中ばかり。

馬車に分乗しクロエ隊を追いかけるチェンバレン。

(お待ちください。わたくしが助けに参りますぞ!)



ようやくクロエ隊の最後尾が見えてきたのが2日後。


「クロエ殿!」

「おお!チェンバレン殿、いかがされた?」

「魔王さまからあなたさまをお助けせよとの命令がありまして」

「魔王さまが・・・なんと慈悲深い・・・承知しました。

 ではこれよりアンバル砦の前にベルデユ砦を陥落させ全軍の士気を上げたい!

 ご協力願えますか?」

「はっ!承知しました。では我々の一部隊を砦の背後に回します。

 合図とともに全力で攻撃しましょう。この程度の小砦は一蹴です!」


チェンバレン隊の一部が草原に隠れながら、砦の背後に回った。

魔道具で着陣を確認したクロエとチェンバレンは・・・

「よし、向こうは魔王軍を撃退した安心感から、のんびりしている筈。

 そこへ奇襲をかければ、あっさり陥落するでしょう」


ひゅぅぅぅぅ~~~~~ん!どっぱぁぁぁぁん!!!!!

花火が揚がったのを珍しがる砦の守備兵。


それは奇襲攻撃の合図だった。


背後からも正面からも魔王軍が攻撃してくる。

完全に虚を突かれた形の守備隊は、たちまち総崩れとなり、

数名の守備隊を残して殲滅されたのだ。


「よかった。こちらの損害が無くて・・・」

「この砦を制圧したことで全軍の士気も上がったことですし、先へ急ぎましょう」

「チェンバレン殿!まことにかたじけない!私は今日の失敗で自決を考えました

 でも魔王さまの慈悲深いお言葉で、立ち直ったのです」

「そうでしたか。これからは共同してアンバル砦を制圧しましょうぞ!」


クロエとチェンバレン。

ダークエルフと人間。

まったく相容れないはずの二つの種族。

それが、馬を並べて楽し気に進んでいく。


いくつかの川を越え、集落を制圧しつつ進む魔王軍。


そしてついに。

「あれがアンバル砦ですか?」

「そうです。あれをこえると隣接するとなりの州、チウイに入ります」

「チウイとはどんなところですか?」

「聞くところでは人口は少なく、農産物が取れるわけでも地下資源もなく、

 この国の中では裕福なところではなく。少数民族が居住する程度だそうです」

「そこを取っても、あまり得策ではないようですね」


ルーリシルの街を制圧すると、アンバル砦は目の前。

山脈の鞍部、谷になっている場所に築かれた比較的大きな砦には守備隊1000名に

帝国騎士団精鋭部隊「深紅の騎士団」も500名の兵力で駐屯しているという。


「この砦を落とすのはなかなか難しいですな」

目の前に広がるアンバル砦。巨大な壁の様になってクロエたちの前に立ちはだかる。

「しばらくはこの地にとどまり、周辺の索敵を行いましょう。作戦計画はメレイ殿が 

 ここへ来たのちに策定しませんか?」「それで行きましょう」


索敵を行う小部隊をいくつか編成したのち「では行ってこい!必ず生きて帰れ!!」


「チェンバレン殿、ちょっとよろしいか?」

「如何なされた?クロエ殿」

「その・・・実は・・・・・うーん・・・すみませんまた来ます」

頭の上にはてなマークが、いくつも点灯しているチェンバレン

「常に沈着冷静なクロエ殿・・・どうなされたのか」


戻って来た斥候の話をまとめると

①守備隊は1000名で二手に分け、中央には深紅の騎士団500が駐屯している。

②砦への突入口は左右と中央に1カ所づつ。3つ存在している。

③中央の入り口正面は湿地帯であり大部隊の移動は不可能だ。

④いま魔王軍が駐屯している場所から砦までは1キロほど

⑤何らかの手段で砦からおびき出すことができれば、湿地帯に追い込み

 弓士隊による射撃で制圧する。

⑥戦慣れしている深紅の騎士団は最初に潰しておかないと後々厄介な存在になる。


ドン!


テレポートして来た参謀メレイが現れた。

「なるほどなかなかの難敵ですね。

 今日はこの連中を連れて来ました。こちらへ!」

上下真っ黒の衣装は布製品なのか?随分身軽ではあるし顔?は目しか見えず、

頭の上から足先まで真っ黒。何だろうこの人たちは?クロエもチェンバレンも

不思議がって真っ黒軍団を見ている。

「この方たちは異世界から召喚してきたニンジャと言われる方々でして、

 暗闇での隠密的行動が得意で、敵地潜入や要人暗殺などはお手のもの

 そういう方々です。この方々にまずはアンバル砦へ潜入させ、何らかのデマを

 流し内部を崩壊させてから、攻撃に移っては?と思い連れて来ました」

「なるほど。ではその方々はいつ潜入させるおつもりですか?」

「早ければ明日の夜にでも。今日は様子を見させようかと思います」


次の日の夜

ニンジャたちは夜の暗闇の中、アンバル砦へ潜入すべく出発していった。


その効果はすぐに現れた。











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