アバンツオ州侵攻作戦⑥アンバル砦の激戦
「只今帰参!」
砦に潜入していたニンジャたちが続々と戻って来た。
その報告を聞くメレイ。「うんうん。そうかそれは上出来。戻って休め!」「はっ」
「クロエ殿、チェンバレン殿。砦の内部が解ってきました」
①深紅の騎士団は砦の中で孤立している。
守備隊と騎士団は互いに連携が取れておらず、さらに騎士団は優遇されていて
それが互いを離反させているようだ。騎士団は守備隊を盾としか見ていない。
②それゆえ、守備隊は一部を除いて周辺集落から徴発された人たちで、
まともな訓練を受けておらず、士気も上がっていない。何かあれば逃げ出すような
感じだ。
夜
アンバル砦正面を警戒する数名の守備隊の前に、一人のマントとフード姿の少女が。
何も食べていないのか、バタッと倒れてしまった。
「おい小娘、どうしたのだ?」
「はい、昨日から何も食べておりませんで、この近くの親類を頼って来たのですが」
「砦の傍なのか?」「そうです・・・」
「おい!何か食べさせてやれ」
「じゃあ中に入れてやろう。来なさい」
「ありがとうございます」と言った瞬間、フードを外した少女の、
その手に現れた魔法紋を頭にかざすと、青い炎が現れ守備隊の方へ投げつけると・・・
ぎゃぁぁぁぁぁぁ
あついあつい!!!!
焼け死ぬ!!!!!!!!!全員が焼き殺されてしまった。
この少女こそ、クロエ隊の魔術師の一人、チェルシーだ。
彼女は魔王軍の中でもトップクラスの魔術師であり、騎士団からも誘われた逸材。
「騎士団はキライよ!プライドばっか高くてさ、いけ好かない連中なんだもん!」
だから魔王軍に加入したんだそうだ。まだ13歳だとか・・・
騒動を聞きつけて来たのか、3つの扉のうち左右の扉が開き守備隊が出てきた。
チェルシーをはじめとする魔術師たちが一斉に、彼ら守備隊の方へ手を向け、
【イモビラス!】守備隊はその場から動けなくなってしまった。
そこへクロエ隊のダークエルフたちが一斉に弓による遠距離攻撃を開始したから
たまらない・・・そのほとんどが射殺され、残っていても【アローレイン!】で
掃討されてしまう。
初動は魔王軍のペースで戦闘は進むものの、
その様子を見ていた騎士団が動き出す!
やはり帝国騎士団最強の「深紅の騎士団」は少数でも、圧倒的なパワーで
クロエの部隊を蹂躙する。
次々に斃れていくゴブリンファイターやナイトたち。
援護に駆けつけるチェンバレン隊にも襲い掛かり、数名の兵士が斃される
「いったん退避!退避!」
これ以上損害が増えるのは得策ではないと判断したメレイ。
「では次の策に移りましょう」
左の扉からチェンバレン隊、右からはクロエ隊が砦内部に突入し、
外へ出ていた騎士団を挟み撃ちにするというものだ。
正面から逃げ出そうとすれば湿地帯に足を取られ射撃隊の格好の標的になるはず。
「チェンバレン殿は左から、クロエ殿は右から、それぞれ突入してください」
「承知した!では参りましょう!」
左側の扉から乱入したチェンバレン隊の攻撃により、左翼守備隊は大混乱に陥り
援護しようと移動して来た右翼隊にはクロエ隊が襲い掛かる。
砦の内部は大混戦、混乱の中で守備隊は同士討ちを始めてしまうありさま。
ぎゃっ!
うわぁ・・・・
逃げろ!!
この攻撃で大多数の守備隊は周辺に逃げ去ってしまった。
残るは深紅の騎士団のみ。
左右から挟み撃ちにするのだが・・・
「くそ!こいつら強すぎる!」
「そこは死守しろ!一人も逃すな!」
じわじわとその包囲網を狭めていく魔王軍。
あちらこちらで火の手が上がるアンバル砦の中は、大混乱。
チェンバレンもクロエも自ら剣をふるい、騎士団を切り伏せていく。
中央の扉を開いて逃げ出そうとする騎士団。
だが湿地に足を取られ、そこへ遠距離射撃部隊から放たれる弓により
斃されていく騎士団。
ギャッ・・・
グサッ・・・
ぐわっ
そのころ砦内部では。
「貴様!人間のくせに魔王軍に身を売るとは恥知らず!」
「なにを!俺はな、この腐りきった国を立て直したいんだ!だからこそ魔王軍に
身をゆだねている。そしてお前たちをこの世から抹殺するのだ!」
「意気込みはいいが、所詮は魔物の集まり!そのうちお前も利用されて終わりだぞ
俺たちのところへ来ないか?」
「いやだ!お前らの様な腐った連中とかか?ごめん被る!」
「では行くぞ!」
チェンバレンと一騎打ちは、騎士団の隊長であるテオドロ・ボルモリーニ。
カンカン、キンキンと剣を打ち合う音。
スッ・・・
うっ・・・チェンバレンの左腕が斬られた。
「ふっ、身の程知らずが!思い知れ!」
ボルモリーニが上段に構え、突進してくるのと同時に、
チェンバレンがその剣を突き出す!
グサッ・・・あ・・・・うっ・・・・・・・
ゴホッ
口から大量の血を吐き、その男はそのまま斃れた。
男の首を切り落とし、剣先に刺し、砦へ向けて「騎士団長を討ち取ったぞ!」
残り少なくなった、守備隊と騎士団が激しく動揺している。
逃げろ!
こっちだ!
そこはダメだ!
うわっ・・・
ぎゃっ!
逃げ出そうとする守備隊だが魔王軍に阻まれ、逃げ出すことが出来ない。
「かくなる上は!」と反撃に出る。
魔王軍のゴブリンナイトが何人も斃される、だが守備隊の死者も増えている。
扉付近で、両軍の戦死者が折り重なっているほどの激戦と化したアンバル砦も
火の手が広がり、炎は砦全体を覆い尽くすほどの勢いになっている。
湿地帯でも魔王軍の遠距離射撃部隊の強弓によって
逃げ出す守備隊をつぎつぎに射殺していく。
騎士団隊長が戦死し、騎士団は全滅した。
守備隊も、少数が激しく抵抗しているのみだが、それも時間の問題だ。
多くの守備隊は、逃げ出した少数をのぞいて殲滅された。
「近くに隠れている奴らが居るかも知れない。そいつらを捕獲せよ!」
チェンバレン隊のアントンと言う兵士が
「ここに誰かいる雰囲気が・・・」
草むらをかき分けると、そこには守備隊長の男が身をひそめていた。
「おおい!ここにいるぞ!」
駆けつけてくる魔王軍の前に引き出された守備隊長は、
魔王軍の襲撃と同時に、自分だけ助かろうと逃げ出したのだった。
「きたねぇ男だな、それでも隊長かよ!」
「何とでも言え!生き残って総督閣下へ報告するのだ!」
アントンはその男を袈裟懸けに斬って捨てた。
戦いは終わった。
アンバル砦とその周囲の小さな砦も、魔王軍の手に落ちたのだ。
「全軍集結!」
クロエ隊もチェンバレン隊も、大きな損害を受けたにも関わらず、その士気は
いささかも落ちていないようだ。
「我が軍の勝利である!勝鬨を!」
魔王軍の勝鬨が周囲の山々にこだまし、それは万単位の大部隊に聞こえた。
砦の焼け跡を巡視する。
魔王軍のも守備隊も多くの戦死体がそのままになっていた。
「このままではあまりに可哀そうだ。どこか葬ってあげましょう」
砦の傍の小さな丘に、両軍の戦死者を埋葬し、戦いは終わったのだ。
「魔王さまへ報告を。チェンバレン殿、すまないが連絡役を数名選抜して下さい。
いまから私が報告書を作成しますから、それをもって行ってほしいのです」
「承知しました。では我が部隊の足に自身のある者を選抜します」
「残った全員でこの砦を清掃し、使えるように復旧させる!
明日は一日休む。明後日から行うから準備せよ!」「はっ!」
魔王軍でアンバル砦を復旧させ、軍事拠点化することとしたのだ。
反対側の山並みに日が落ちていく。
美しい夕日は激しい戦いのあとだけに、心に染みるものになった。
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