リンカ・アメル大尉の物語②新天地へ

リナ・マツモト隊長のもと、鍛錬に励むアメル

毎日毎日、剣をふるい自分を鍛え、新しい環境にもいち早く溶け込もうと

懸命な日々を過ごしていた。


「どうだ?アメル。魔王軍の居心地は?」

「はっ!みな良くしてくれています。隊長殿」

「そうか、では剣の鍛錬に一層励みなさい」

「はい、ありがとうございます」

常にリナ隊長に目をかけられていると思うと、もっと強くならなければと思う。


たまには魔王軍が支配している地域の警備に数人の仲間と出動することも。

「どうだいアメル。みんな生き生きとした表情だろ?」

「昔なら、こんなに大勢の農民が畑で働くこともなかったんだぜ」

「そうなの?」

「そうさ、いくら小麦や野菜を作っても、あの総督が雇ったチンピラみたいな

 連中に持っていかれちゃうんだぜ」

「俺んちもさ、この先の村で野菜をいっぱい作ってるんだけど、

 チンピラだか役人だかわからないような連中に、納屋に保管していた作物を

 根こそぎ持っていくんだよ。家で食べるものまでさ・・・ひどいものよ」

「大変だったんだね」

そういえばと思い出していたのは、故郷の村でパパやママのところへ役人みたいな

連中が取り立てに来てたことがあった。パパは腕力あるから追い返していたけど、

ほかの家では、役人に殴られたり蹴られたりしていたのを思い出して・・・

「やっぱり総督はいなくならないとダメだね」

「そういうこと!だから俺たちは魔王軍に入ったんだよ」


そんなある日

仲間と巡視していると・・・

「お止めください。それまで持っていかれては飢え死にしてしまいます!」

「じゃあ、飢え死にするんだな!ハハハハハ!それやってやれ!」


複数の役人が高齢の農民から収穫物を奪おうとしている場面に出くわした。


うわっ・・・

蹴り倒された老人


それを複数のチンピラが蹴ったり殴ったりしている様子を見て、震える拳。


チンピラどもから老人を助け出すと

「おい!なにすんだテメェ」

「弱い者いじめは良くない!帰れ!」

「誰だと思ってんだ俺たちを!閣下に歯向かうのかお前は!」


ジリジリ詰め寄る3人のチンピラ

「アメル止めとけ!」

人数では上回るけど・・・

「このおじいさんをそのままにしとけっての?そんな事できないよ!」

「あたしだけでやる!」


「おーし、威勢のいい姉ちゃんだな!やっちまえ!」

チンピラたちが襲い掛かる・・・だが


ずさっ!

う・・・

ああ・・・・・・


どさっ!

アメルの剣さばきで、あっさりチンピラたちを撃退し・・・

「危ないところを・・・ありがとうございました。あなたたちは?」

「私たちは魔王軍のものです」

「ああ!魔王軍の方ですか!ほんとに魔王軍の皆さんには良くしてもらって」

「いえいえ。じゃあお気をつけて!」

「ありがとうございました!」


「アメルすごいな!お前ひとりでやっつけたようなもんだし」

「そうだよ、アメルすごいよお前は」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


彼女の心の中には、非業の死を遂げたジョシュアがいた。

(ジョシュア・・・あなたはいつでも私を励ましてくれたね。ずっと友達だよ)


その後も盗賊や山賊の襲撃を撃退したり、

総督閣下の手下どもが年貢を納めない農民への虐待などの対応をしたり・・・

だが、リナ隊長のもとアバンツオ州を制圧すべく行動を開始した魔王軍の一員

として各地を転戦していた。


時にはピンチに陥ることもあった。

だがその都度、ジョシュアを思い出し(こんなことで挫けるわけにはいかない!)と萎える気持ちを奮い立たせていた。



そして魔王軍はアバンツオ州の北と東半分を制圧し

残すは州都アバンツオへ突入し制圧することだったのだが。


「いよいよ明日の夜明けを期して州都アバンツオへ突入する。皆、覚悟は良いか」

「今宵は良く休むように。ただし警戒は怠るな!」


アメルは眠れなかった。

(ジョシュア・・・見ててね。かならず総督を倒すんだから)


そして夜が明けた。

リナ隊長の号令一下、全部隊が州都の中心にある総督官邸へ突入していく。


激しい戦闘がつづく、悲惨な戦場。

だがリンカ・アメル率いる隊は、騎士たちの攻撃をものともせず、突進していく。


その間にも多数のキズを負いながらも・・・


やがて目の前に大きな木製の門が見えてきた。

「リンカ・アメル少尉が一番乗り!」だが中からは矢が雨のように飛んでくる。

盾でそれを防ぎながら、しばし休息をとる一隊。

「アメル少尉!ここまで何とか来れましたが、これ以上進むのは危険です」

「ダメだ!この先へ進むのだ!それは私たちの役目だ!先陣は私たちだ!」


弓矢による攻撃が少々収まったところで、後詰の部隊といっしょになって

大きな木製の門を破壊しようとする。だがなかなか壊れない門をようやく破壊して

中へ突入するアメルたち。


騎士団も激しく戦っている

「ひるむな!前へ進め!突撃!!」


すでに総督はミチル少尉率いる一隊が生け捕りにしたという。


ならば・・・

「総督夫人を確保する!進め!」


敵軍の攻撃をはねよけながら総督夫人が住んでいる部屋へ一歩、また一歩。

近づいていくアメル隊だが、負傷する部下も増えていく。


「アメル!進むんだ!俺の事は良いから・・・」

キズを受けた兵士が叫ぶ。

「お前を置いていけない・・・」「俺にかまうな!!行け!!!!」

「すまん・・・」


ドッ!

うっ・・・


アメルの後ろにいたフィニーの身体が騎士の槍で貫かれた!

「フィニー!!!!!」

「アメルさん、あたしはもう・・・ゴホッ・・・早く!行って下さ・・・い」

一番かわいがっていたフィニーが死んだ。

「フィニー・・・・!!!!死ぬな!!!!!」

「あなたといっしょに・・・なれ・・・・て・・・・よか・・・った」

フィニーを突き刺した騎士を袈裟懸けに斬って捨てるアメル

「フィニー・・・・・フィニー・・・・・・・・・」

その死に顔は笑顔だった。


ようやく総督夫人の部屋のドアの前に立つ。

ドアを開けると、護衛の騎士に襲われるものの、それを退け。


「総督夫人ですね。私は魔王軍リンカ・アメル少尉です。

 あなたを安全な場所へお連れするように指示されてきました。どうかご一緒に」

「リンカ!ご苦労だった!ではわたしたちと。夫人ご同行願えますね」

「解ったわ。行きましょう」

後から駆け付けたリナ隊長とともアメルが周囲を護衛しながら総督の間へ。


やがて騎士団が全滅したと知らせてきた。


(終わったわ・・・ジョシュア!あなたにも見せたかった)




総督夫人は魔王さまの計らいで州都の町はずれで魔王軍の監視のもと

いままでにない、穏やかな日々を過ごすことになった。



アバンツオ州を制圧した魔王軍は

【アバンツオ公国】として独立することとなり・・・


「今回の独立には諸君の働きの賜物である!」


リンカ・アメル少尉は総督官邸一番乗りの功績が認められ中尉に昇進し

リナ隊長のもと中隊長に任命された。

「これからも私の部下として励んでほしい。たのむぞ!」

「はっ!」


その日の午後。

今回の戦闘で犠牲となった兵士の集団墓地に、リンカ・アメル中尉の姿があった。


「アンドレ、フィニー、ローランド、レスリー・・・ありがとう・・・

 キミたちの尊い命を・・・私は守れなかった・・・すまない」



「あなただけではありませんよ、アメル中尉」

気が付くとアメルの部下たちが来ていた。全く気が付かなかったアメル。

「戦死した4人はいつも私たちと一緒にいるのです。頑張りましょう!

 それが供養というものです」部下のエレノアが泣きながら言う。

「そうだな。4人はいつも私たちと一緒にいるのだ。彼らに報いるためにも

 これからも頑張っていこう」




アバンツオ公国は前総督夫人マルティーヌ・シャリエが即位し

名を【アバンツオ王国】として再スタートを切ることになった。


ある日

「中尉殿、隊長がお呼びです」

「なんだろう??」


「リンカ・アメル中尉。

 今回の新国王即位に伴いキミを大尉に昇任させることになった」

「わたくしがですか?」

「そうだ。キミは指揮官として優れている。だからこその今回の承認と思え」

「はっ!心得ました」

「それとキミに新たな任務を与える」とリナ・マツモト大将が重々しく話す内容は


「グラモント砦守備隊隊長を命ずる」

グラモント砦といえば、それまでの小砦を改築した大きな砦ではあるのだが・・・

「ここはダハール、モーダビア両州を監視する場所に位置する重要な場所だ、

 そこの守備隊を指揮し、もし万が一異変があった場合は即通報すると同時に

 敵軍と判断した場合には、その場で判断してよい。撃退する許可を与える」

厳しい任務になるとふんだ、アメルはグッと息をのむ・・・

「そのような重要な場所をわたしにですか?」

「そうだ、キミこそこの場所にふさわしいと考えるからだ。準備が整い次第

 出発せよ!」

軍隊である以上、上官命令は絶対だ。

「承知いたしました司令官殿!明後日には現地へ向かいます!」


「アメルっち、グラモントへ行くんだって?」

「そう。しばらく会えないけどね・・・」

「あーね、でも仕事だしね。頑張りなよ!」

「寂しいよミチル、シャロット・・・」

「泣くことなくない!うちら、ずっ友じゃん!」

「そうだって、アメルっちに泣き顔は似合わないよ!」

ミチルとシャーロットに勇気づけられたアメルはグラモント砦へ向かって出発した。






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