アバンツオ州侵攻作戦②国境封鎖作戦

「今日これから、みなはアバンツオ州侵攻作戦のために力を尽くしてもらう。

 傲慢で強欲な総督を駆逐し領民たちを救うのだ!そのために多少の犠牲は

 やむを得ない。だがみなは生きて戻るのだ!それがキミたちの仕事だ!」

「隊長たちの指示に従い、領民には一切危害を与えないように。総督たちだけを

 排除するのだ。場合によっては犠牲を伴うだろう!すべては領民と我々のため

 それが今回の侵攻作戦を行う理由だ。大義は我々にある!以上だ!」


メレイの指揮で

「ではこれより勝鬨を上げる!勝利を!領民のために!正義のために!

 エイエイオー!!!!」


魔王リコは第一線で戦う二人の指揮官を呼び。

「必ず生きて帰れ!無理はするな!正義、大義は我々にある事を忘れるな!」

「魔王さま、必ずやいい知らせをいたしましょう」

「絶対に勝って戻る!待っていてくれ!」


出陣する大部隊を見守る魔王リコ、メレイ、ミリア、そして親衛隊長となったレカロ

「行ってしまいましたね」

「・・・生きて戻れ・・・」


「レカロ。キミは配下を連れて南の国境警備隊を襲え。騎士は殺して良い。

 そうでない者は手を出すな。いいな!」

「解りました。では行ってまいります!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ブーランジュ村を抜けてしばらく進むと街道の分岐点に差し掛かった。

「ではクロエ殿、しっかりやってくれ」

「リナ殿も!武運を祈ります!」

「では魔王さまの下で会おう」


リナの部隊にはジャミーの魔術師隊の一小隊が加わっている。洗脳工作のためだ。


いくつかの集落を過ぎる。

これといった戦闘もなく、ピクニックにでも来ているようだ。

ただ魔術師隊は集落ごとに領民を集め洗脳魔法を施している。

その間、洗脳中の不意の襲撃に備え、周囲の警備を行っているのだ。


分岐点でクロエ隊とわかれて3日目、ようやく国境地帯へ入った。

この国境の街はボスニーという。国境警備隊には20名の帝国騎士団国境警備隊が

常駐している。街の規模はさほど大きくはないが200近い領民が住んでいるようだ。

隣国との交流の規模は小さく、一日に10名程度が行ったり戻ってきたりしている。



闇に紛れて国境管理事務所と隣り合っている警備隊詰所を襲撃することにした。

その前に・・・

「キミたちは国境の門が閉ざされた後、川から船などで逃げ出す奴らを見張れ!

 そして確保せよ。隣国へ逃げ出すようなことは許されないと心得よ」

「了解しました。では行ってまいります」

「刃向かう奴らは殺害を許可する」

「解りました!」


国境管理所に向けて火矢を放つダークエルフたち。

「あっ!火事だ火事だ!水を!!!」あっという間に詰所は火に包まれた。

その騒ぎを聞きつけた警備隊が外へ出てくると・・・

「展開!出来る限り生け捕りにせよ!刃向かうやつらは殺せ!」

「はっ!」

隊長リナの号令一下、ゴブリンやコボルトの部隊が一斉に騎士たちに襲い掛かる!


ギャッ!


うわっ!!

くそっ!


バタッ・・・ドサッ・・・・・うっ・・・うぅぅぅぅぅぅ

騎士のほとんどを制圧すると、騎士隊長エルヴィンが残った。


「出来る限り、お前は殺したくない。だが刃向かうなら斃す」

「お前に出来るか?俺は帝国騎士団にこの人ありと言われたエルヴィンだ!」

「そんなことは関係ない・・・」


剣を合わせる二人。


周囲では騎士たちの残党を掃討中。

住民たちを一カ所に集めて、魔術師隊が洗脳魔法をかけている最中だ・・・・


「貴様たちは何者だ!」

「お前に言う必要はない」

「総督閣下に報告するためだ」

「そうか。ならば言おう。総督をこの世から抹殺するのだ。それでよいか」

「それならばますます許せないな。お前を殺して、閣下に報告せねばな!ハハハハ」


男が一気に間を詰める。

サッと軽やかによけるリナ、その場から跳躍し男の背後に一瞬で回ると右腕を斬る。

ズバッ!

鈍い音とともに男の右腕は切り落とされた。

ぎゃぁぁぁぁぁ・・・

どうやら男の利き腕は右であるらしい。


「きっさまぁ!!!」

突進する男。

その勢いを利用して、漆黒の大剣を男の身体に突き刺す!


ぐわぁぁぁぁぁぁ・・・・

と悲鳴とも怒声とも取れない大声を発して男は仰向けに倒れた。


「く・・・くそ・・・おまえ・のよ・うな女・・・にや・ら・・れ・るとは・・・」

「男のくせに話し過ぎだな。死ね!」

と心臓に一撃!


止めどもなく真っ赤な血が流れる。


剣についた男の血を拭き払うリナ。



「隊長!住民の洗脳が終了しました」

「ご苦労だった。全部隊を集結させよ!」「はっ」


「みなご苦労だった。ケガをした者はいないか?」

「ダークエルフ1名とコボルト2名が怪我をしており、只今手当中であります!」

「そうか、では他の者は各々休め。食事をとることを許可する!」


数名の幹部隊員を集め

「明日は周辺の索敵を行い異変が無ければ数名を残して撤収する」

「配下の隊員に伝えよ!」「はっ!心得ました」


配下のコボルトの中でも一番力の強い奴とダークエルフを2名を残し

ボスニーの街を離れることにしたリナの部隊。

「クロエ隊の様子を確認せよ」「承知しました」

魔術師が持ってきている魔道具のなかに、電話の様な通信具を持っていた。


「クロエ殿か?」

「リナ隊長ですか?」

「そちらはどうか?」

「なかなか苦労しておりますが、そちらは?」

「国境は無事封鎖した。数名けがをしているのみだ」


このアバンツオ州はこの国の中でも穀倉地帯として知られており、

いくつもの食物が栽培されてはいるが、そのすべてが総督を通じて帝都へ流通する

ため地元では口にすることも叶わないと言うことだ。

「ますます許せないな。その総督と言う男は」


魔力を使う通信だけに、使った後は相当な魔力が喪失されてしまうのだ。


「隊長!息切れしているようですが、大丈夫ですか?」

「ああ大丈夫だ。この通信具は大事な時にだけ使用することにする」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そのころクロエ隊は

街道沿いの集落を制圧しつつ隣接する州境近くの街手前まで進出していた。

州境の街はルーリシルといい、比較的人口の多い街で、その数は1万人ほど。

「我々の部隊だけではこの街は制圧できん・・・」

「それに騎士隊も100人以上いるらしい」

街の規模が大きいとなれば簡単に住民を洗脳することも不可能。

「どうすればこの街を占領できるだろうか?」

クロエは幕僚たちと協議をしつつ、すこしづつ街へ向かって前進している。


そこへ魔王リコからの連絡が入った。

「いったん街を離れ、リナ隊と合流したのち改めて攻略せよ」

2つの部隊の合同作戦なら、この街を攻め落とすことも可能だと考えた。


数日後リナ隊が合流。

「ご苦労でしたクロエ殿」

「リナ殿も、おつかれのところ感謝します」


体勢を立て直した2つの部隊は、いっきに街を囲み、アリ一匹逃さないほどの

隙のない包囲網を構築し、逃げ出そうとする者が居れば容赦なく殺害したが

投降してくるものには安全な場所で保護することもしていた。


そうこうするうちに、街の住民の多くは投降し、残ったわずかな住民と騎士隊のみが

魔王軍に抵抗を試みるも、なんなく鎮圧されてしまい・・・


「自分はこの街の騎士隊長です。私の命と引き換えに住民たちの命はお助け下さい」

クロエとリナは幕僚を交えて協議の末・・・

「あなたは真の騎士です。命は保証します。私たちと同行してもらえませぬか?」

「悪い様にはしません」

しばし考える騎士隊長

「お気持ちは有難いのですが、皇帝陛下直々にこの騎士隊長に任命された以上、

 簡単にお返事は出来かねます。どうかお察しください」

「解りました。われわれは暫く休息ののち魔王さまの下へ戻りますので、お気持ちに

 変化が有りました場合は、私たちが野営しております郊外へお越しください」

「承知しました。必ずやご返事をいたしましょう」


クロエとリナはその場を離れ、郊外へ移動し休息をとることとした。

「そう言えばあの方のお名前を聞いておりませんでした」

「いや、もう聞かなくても良いでしょう。あの方は来ないと思います。真の騎士ですから」



リナが考えていた通り、彼は来なかった。



「では魔王さまの下へ帰還する!出発!」


帰還途中の集落ランブランズ村から西へ向かう街道がある。

これを西へ向かうと、州都アバンツオがあるのだ。

「クロエ殿、今後の事も考え、州都へ潜入し情報を入れておく必要がある」

「そのようですね。私も同じことを考えていました。魔王さまに献策しましょう」



魔王リコは戻って来た軍勢を留守部隊と共に出迎えていた。

その目にはうっすら涙も・・・










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る