アバンツオ州侵攻作戦①事前調査

アバンツオ地方の中心都市へ潜入捜査をしていたゴブリンの話では・・・


「総督の屋敷とかを見てきましたけど、本当にゲスなやつですね。

 周りの家は貧相だけど質素で慎ましやかな生活をしているのが解るんですが」

「あの総督の家とかを見てると正直、腹立たしくなりましたね。

 とんでもなく広くて豪勢な生活をしているようです。周りに聞いても

 評判は悪いですね。いけ好かないやつって言う感じですね」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

俺は総督だ!

この地方のすべての権限を国王陛下から受け継いでいるのだ!

なに?年貢の収め方が少ない?なら騎士隊を使って無理にでも生贄を連れてこい!

女は娼婦として男は奴隷として売り飛ばすんだ!そうすれば金はがっぽり入る。

世の中金だ!金しかないのだよ!


えっ?ブーランジュ村からの通信が無い?どういうことだ?

ちょっと調べてくるか?

「総督閣下、自ら行く必要はありません私どもが承ります」

「そうか?じゃあ頼むぞ」


う~~~ん、あいつらいつ帰ってくるんだ!遅いぞ!


なかなか帰ってこない部下を心配するそぶりは一つも見せない。

「ったく奴らときたら・・・遊んでんじゃねぇか?」

「閣下、もう少しお待ちいただいた方が・・・」

「ばか!お前も行ってこい!」

「しかし、今の仕事も・・・」

「何?俺様の言うことが聞けねぇってのか?上等だ!お前あすから来なくていい!」

「閣下・・・」


やっと帰って来たな・・・「お前ら何やってたんだ?今までよ!」

「閣下・・・何もございませんでした。領民はいつも通り生活しています」

「んだよ!何にもないんかい・・・」


だけど気にはなるな。

騎士団を派遣すっか。

「お前さ、騎士団行って来いよ!ブーランジュ村に行って来てもらえや」

「私がですか?」「他に誰が居るんだよ!」「解りました」


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制圧し我が手中におさめたブーランジュ村に総督閣下の部下が調査に訪れたことは

村を管理しているゴブリンナイトを通じて魔王リコたちにも伝わって来た。


「次に総督がどう言う手に出るかだな。その前に手を打っておきたいが」

魔術師ジャミーが「魔王さま、私共にご命じ下さい」「何か策が有るのか?」

「はい。武器で戦い相手を屈服させるだけが戦争ではありません。

 戦わずして勝つ。それこそが王の王たるものの戦い方であります」

「なるほど、では具体的にはどうするのだ?」

「我々の味方になれば、どれほど素晴らしい生活が出来るかを教えるのです

 ブーランジュ村で行ったことを、同じように行うのです。いわゆる洗脳です」

「洗脳魔術を使うというのか?」

「はい」

「集落に騎士団分遣隊がいたらどうする?」

「そいつらにも同様、魔術により手向かい出来なくします」

洗脳により、集落の人々を総督側から離反させ、自分たちの味方にするというのだ。

「いくつもの集落があるし、騎士隊だってそれなりの数が駐屯している筈だが?」

「はい、その点についても問題はありません。先にゴブリンたちが潜入調査しており

 どこにどんな街や村があって、騎士隊の存在も解っていますから問題なしと

 判断いたします」

「解った、ジャミー。キミに任せる。ただし期間は1週間後だ、出来るか?」

「お任せください魔王さま」

「では頼んだぞ」


リナ、クロエが指揮する戦闘団は日々訓練に明け暮れていた。

互いに模擬戦闘訓練を行うこともあり、帝国騎士団の精鋭と戦っても互角か

それ以上の実力を持つようになっていた。


「メレイ!」

「はっ!魔王さま、お呼びでしょうか?」

「時は来た!アバンツオ州を我が手中に治め、王国攻略の橋頭保とするのだ!」

「メレイ、キミには作戦計画を策定してもらう。配下の参謀たちと共に実行可能な

 作戦を起案し、私に示してほしい。期間は明後日まで。出来るか?」

「はっ!このメレイ身命を賭してでも完成させます!」

「頼む」

魔王リコはメレイに告げた通り、このアバンツオ州に侵攻し、力を蓄えた時点で

王国を崩壊に導き、自分たちが代わりにこの国を治める。壮大なプランだ。


「リナ、クロエ、部隊の錬成具合はどうだ?」

「万全の仕上がりと考えます」

「即出撃可能!」

「そうか、ではメレイの起案する作戦計画に基づき行動を開始する。

 そのつもりでいて欲しい」

「御意」


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ブーランジュ村に派遣されていたゴブリンナイトが報告のため戻って来た。

「村はどうなっている?」

「すこぶる順調であります。領民たちも今までより生き生きとしています」

時を同じくして宣撫工作に赴いていた魔術師部隊も戻って来た。

「いくつかの集落で工作を行いましたが、いずれの集落でも我々の洗脳魔術により

 魔王さまに敬愛の念を感じているようです」

「上出来だなジャミー。しばらく休め」

「はっ。有難き幸せ」


メレイとその部下が作り上げた【アバンツオ州侵攻作戦計画】をもって

魔王リコの部屋へやって来た。リナ・クロエとともにその内容を確認すると・・・

一隊はブーランジュ村から東へ向かう街道沿いの集落を攻略し国境沿いまで進出。

もう一隊は西へ王都へ向かう街道を進み、隣接する州境まで進軍し近隣一帯を

攻略占領する。ここまでの作戦期間は約1カ月。


ブーランジュ村から南は山岳地帯であり、人の出入りが難しいほどの峻厳な山々が

聳え立っているものの、集落はいくつかあり最南端の集落には国境警備騎士が

駐屯しているのだが、ごく少数であり親衛隊で攻略するつもりだ。

「レカロ、キミにも行ってもらうが良いか?」

「はぁ~~い!魔王さまの言う通りにしますよぉ~~~」


そして出陣の日を迎えた。

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