ターゲットは総督閣下

ある日

リコはミリアとクロエを伴って占領したブーランジュ村へ行ってみることにした。


「魔王さま、まだ危のうございます」

「メレイ、大丈夫だ。私は魔王であり統治者だ。統治の様子を見ておきたい」

「解りました魔王さま、お気をつけて。ミリア、クロエ頼みますよ」

「承知した」

穏やかな小春日和の小道を行く3人。

やがてブーランジュ村が見えてきた。

村人だろうか?周辺の畑で農作業をしている様子が見えた。


長閑だ。


現世でもそうだった。

よくおばあちゃんの家に帰省すると、一緒に畑で遊ばせてもらったものだ。

あ、あそこの畑に高齢女性と子供が戯れている。

昔の自分をその姿に重ね合わせて、涙ぐむリコ。

「如何されました魔王さま」

「いや何でもない。なんでもないぞ!さぁ行こう!」



「ここがブーランジュ村です」

こじんまりとした広場を中心に30戸ほどの小さな家が、肩を寄せ合うように

存在している集落の教会の隣に、あの騎士団分遣隊が事務所があった。


あった?


「村の責任者に命じて破壊させました」

そっくり空き地になっている、分遣隊の横には戦死した3名の騎士が眠っている。


見張り役のゴブリンファイターが村長を連れてきた。

「いまはこの方に村長をお願いしています。サンドラ?」

「サンドラです。村人たちは魔王さまを新たな領主として尊敬しています」

尊敬と言われても私は、魔王なんだが・・・

「今までは毎年の年貢の取り立てが厳しくて、騎士隊を使って脅すことも・・・

 ひどいと若い女性は娼婦として、男は奴隷として帝都へ送ることもしてました」

とんでもない領主がいたものだ。まぁそいつの始末は後でやるとして

「サンドラ、いま足りていないものはあるか?」

「今は取り立ててございません。あの・・・魔王さま?」

「なんだ?」

「いつまで領主としておられますか?私どもはずっとあなたさまに領主として

 いて欲しいと思っております」

「出来る限りのことをしよう」

「ありがとうございます」


魔王でありながら、尊敬される存在。

領主としていつまでもいて欲しいと言われているのは、有難いし嬉しいのだが。


「クロエ、お前はこの村を見てどう思った?」

「貧しいとは思いますが、人々はいきいきしている気がします」

「わたしもそう思うな。この生活を何時までも続けて欲しいと思うが」

「御意」

他にも同じような目にあっている集落があるやもしれぬ。

「今日は戻ろう。洞窟ではなく、外に屋敷を立てよう」

「解りました。配下の者どもにもご配慮いただければ」

「そうしよう」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「メレイ、リナ、来てくれ」

「この洞窟を出て外へ、私たちの基地を作ろうと思うがどうだ?」

「良いと思います」「仰せのままに」


「メレイとリナ、クロエ、ジャミーはその基地づくりを命ずる

 ジャミー、キミがリーダーとしてやってくれるか?」

「かしこまりました」


建築魔法を習得しているジャミーがリーダーだ。

「リナ殿、クロエ殿は配下の者どもの宿舎も必要だろうと思うのですが?」

「そうです」「いかにも」

「その宿舎や倉庫、馬も必要ですか?」

「移動手段として今後必要かと存ずる」「私たちは今のところ不要かと」

「なるほど、他には?」「お屋敷で一通りの生活をするとなれば食事空間や

 汚れた体を洗う設備、便所などは必須かと」

「解りました。ではすべてご希望通りになるかはわかりませんが、やってみます」



数日後、ブーランジュ村へ行く途中の小道の横にある広場に

ジェミーと魔術師たちが集まった

「ではこれから建築魔法を使って魔王さまのために基地を作る。構え!」


数十分後


「うん、これでよし。屋敷の中を確認せよ」

魔王の家、各部隊長の家、配下のゴブリンやダークエルフ、ダンピールが暮らす宿舎

台所、シャワー併設の風呂も出来た。武器防具を保管する倉庫や訓練施設。

打ち合わせなどを行う家など、多彩な建築物が出来上がった。


「おお!これはなかなか良いものが出来た!ジャミー!よくやったぞ!礼を言う!」

「はっ!ありがたき幸せに存じます!」


洞窟内はゴブリンやダークエルフたち、魔術師も増えたことで窮屈になってたし。

「明るいところで生活するのは気持ちのいいものだな」

「ああ、魔王さまには感謝だな」

「おうよ、足向けて寝らんねえな!ハハハハ」


ただメデューサのレカセだけは「あたしは洞窟が良いのよ」といってそのままに。

「彼女が良いというのだ、好きにさせてやれ」


「メレイ、打ち合わせをしたい。官舎へ来てくれるか」

「はっ」


まずブーランジュ村を制圧したはいいが、その先はまだ考えられなかった。

「まずは生け捕りにした騎士隊長を尋問しては如何でしょう?」

「そうだな、この国かどうか知らんが、おおよその事は聞けるだろう」


その夜

騎士隊長が洞窟奥の尋問部屋に連行された。

隊長はガンとして口を割らない「殺せよ!早く、何も言うことはねえぞ!」

「これでもか!」ダンピールに鞭打たれその体はミミズばれが無数に走っている。

「まだまだ!」

ピシッ!パシッ!


「どうした?まだ吐かないのか?」

「しぶとい奴です」

「よし、では縄を解き、天井から吊るせ!逆さにだ!」

天井から逆さづりにされた隊長・・・「くっ・・・くるしい・・・おろしてくれ!」

「ダメだ!私たちの質問に答えれば放す」

「・・・・」

「まだだ水をかけろ!」

ザバッ!バシャ!

ブハッ・・・


「わかった話すからおろしてくれ」


逆さづりから解放された男は椅子に座らされ、その前でミリアがメモを取る。

尋問しているのはメレイだ。



ようやく聞き取りを終えたメレイとミリア

「これでいいだろ?もう解放してくれるんだろ?」

「解放する!どこへでも行くがよい!」

洞窟の外へ出ようとした男を、入り口の影で見張っていたリナが

背後から襲い、袈裟懸けに斬って捨てたのだ・・・


「背後からはやりたくなかった・・・騎士として面目が経たぬ」

「気持ちは解るが、これは仕事だ。解ってくれ」

「リコが言うなら仕方あるまい」


男から聞き取ったことをまとめると・・・

ここは【デレンマレーノ王国】の一地方である【アバンツオ地方】であって

自分は【王国騎士団アバンツオ統括騎士隊ブーランジュ分遣隊隊長】と言うこと

【アバンツオ地方総督】は近隣の20ほどの村を統括する貴族だそうだが

その男はデーニッツと言うBクラスの騎士だとのこと。


【デレンマレーノ王国】の中心都市は【デンマリー】と言う街でここからは

馬車を使っておよそ3日間かかるところに有る。

王国の軍事組織は騎士団でその総数は約1万であり【アバンツオ地方】には

そのうち約1500程が駐屯しているということだ。


「まずはこのアバンツオ地方を制圧したいと考える」

「御意」

「そのためには何をすればよいか忌憚なく申し述べよ」

「魔王さま、いまのままで攻め込んでは簡単にやられます。規模も実力も

 であるならば、まずは対抗できる実力組織に作り上げなければなりません」

「クロエの言う通りだな。では?」

「わたしも同意見だ。一気に全体を攻めるのではなく徐々に圧迫していくのが

 良いかと存ずるが」

「メレイはどうだ?」

「はっ!リナ殿、クロエ殿のお考え通りかと」


部隊増強と編成を考えることにした。

「ジャミー。キミは即戦力となる魔物を召喚してほしいが出来るか?」

「はっ!魔王さまがお持ちのリストをお借りできれば可能です」

「おお、これか?ではそなたに貸す。有意義に使ってくれ」

「有難き幸せ。ではこれより」

「たのむぞ」


リナの部隊は近接戦闘部隊としてゴブリンのみが配置され、クロエは遠距離攻撃部隊としてダークエルフが配下にいる。

「別々にせず、一つの部隊に複数の職種が有った方が実際の戦闘場面に即していると

 思うがどうだろうか?」

「良いお考えかと存じます。

 場合によっては独立し、あるいは連携して敵を制圧することが必要かと考えます」


リコは一つの案として

1個戦闘団を作り

①第1大隊にゴブリンを中心とした近接戦闘隊

②第2大隊はダークエルフの弓矢を使う遠距離攻撃隊

③第3大隊は常に戦闘に立ち敵の攻撃を防ぐ防御隊

④本部として輸送、衛生、通信を行う部隊

独立して戦うことが出来る集団を作ることにした。


ジャミーの魔術師隊は若干の騎士を付属させ独立部隊として運用する。


メレイは参謀部として部下に同じ参謀を置き、作戦命令や指示を行うことにした。


「このような案を作ってみたのだが」

「さすが、魔王さま。これは素晴らしい!早速実現できるようにいたします」


「リナ、クロエ来てくれ」

「はっ!」

「キミたちはこれから戦闘団を率いてもらう事にする」

「御意」

「仰せの通りに」

「これからの戦いに備え、配下の者どもを訓練強化してもらいたい」

「心得ました」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


リナ、クロエが戦闘団長に任命され、訓練強化を行っている間。

【アバンツオ地方】の領主の男が舞い戻ってくるとのうわさが流れていた・・・


「そうか、それではその男とその部下を亡き者にすることにしよう」

「はっ!では作戦を策定いたします」

「よろしく頼む。メレイ」


メレイの参謀本部では部下の参謀たちが情報部員を駆使してアバンツオ地方内を

すみずみまで偵察し、地形、集落の数と人数。騎士隊の所在などをまとめ上げた。

これをもとに参謀たちが作戦を策定していた。


そして・・・


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