王国の野望⑫終わりの始まり
デレンマレーノ軍に包囲された
アルスマイヤー少将指揮の第7軍へ包囲網が徐々に狭められていく。
「如何されますか少将殿」
「いまだ参謀本部からの連絡はないのか?」
「まだありません」
「もう時間がないぞ!仕方がない。戦闘態勢に入れ」
駐屯地内がにわかにあわただしくなっていた。
「これは我らの要求を拒絶するつもりだな」
「では攻め込みますか?」
「いや、まだだ、夕方まで待て」
「これは参謀長閣下、お早いお着きで」
「テレポーションは便利だな。して現状は?」
「はっ!ただいま軍は敵に完全に包囲されておりますが、急ぎ防衛体制を
整えております」
「それでよい。ここへ来る前に第2軍の一部をここへ急派させる事とした」
「それはありがたい!で作戦としては」
「それだが。攻撃態勢を取ってもらいたいのだ。第2軍が到着次第一気に攻撃に出る
そして敵を挟み撃ちにし、逆に全滅させるのだ」
「なるほど、第2軍が到着するのは、いつごろでしょう」
「夕方前には着くはずだ。通信石に連絡が入ることになっている」
「承知しました閣下、では準備に入ります」
「そうしてくれ」
クロエ・ルメール少将の指示により第2軍の半分の兵力を率い、
包囲されている第7軍救援に赴いたマンフレート・ボルトマイヤー中将
「あれだな、それでは全軍、敵に悟られないように散開せよ」
「参謀長閣下、ただいま第7軍を救援するべく到着しました」
「承知した。そのまま指示有るまで待て!」
「はっ!」
「アルスマイヤー少将、いま第2軍の援軍が到着した。合図とともに打って出よ!」
「はっ!」
「そろそろ回答してもらう時間だな」
と第7軍司令部へ行こうとしていたデレンマレーノ軍の軍使。
背後から騒々しい物音が聞こえる。
「なにごと!」
「はいアバンツオ軍の攻撃が始まりました!」
「あ?なぜだ!援軍が来るとしてもそんなに早く来るわけがなかろう」
「しかし攻撃してきたのは紛れもなくアバンツオ軍です!」
そうしているうちに今度は、正面から第7軍が駐屯地から出撃してきた!
「まずいこれは挟み撃ちだ!撤退せよ!」
「敵は逃げる様だ!追え!一兵たりとも逃すな!殲滅せよ!」
「おおおおお!!!!!!」
敵は撤退を余儀なくされているが、一部の部隊が反撃を開始した。
「やるな!だがそれまでだ!」
駐屯地から打って出た第7軍の勢いは止まらず、敵を国境まで追い詰め、
第2軍とともに、あと少しで殲滅するところだったのだが・・・
追い詰められた敵が反転。
そのためアバンツオ軍にも多数の戦死戦傷者が出てしまった・・・
しかしその反撃もすぐに鎮圧され。
デレンマレーノ軍は多数の戦死体を残して極わずかな兵が逃れた程度での完敗だ
「良かったですな。参謀長閣下の指示が的確だったからこそですぞ!」
「いやいやみなの働きが素晴らしかったのだ。この戦死体を敵味方の区別なく
葬ってやってくれ」
「了解しました!」
こうして第7軍は窮地を脱したのだった。
作戦が失敗に終わったデレンマレーノ軍参謀本部では
「またもアバンツオの連中にやられたか・・・」
「もう打つ手がないぞ!どうするんだベルケル」
「いやまだ手はある」
同じころ、
アミヨン峠に布陣していた近衛軍がゲリラの攻撃により潰走したという連絡が。
「こんどは近衛軍がか?」
「ゲリラにやられたらしい」
「アミヨン峠はどうした?」
「いまはミンタシア独立軍が制圧しているようだ」
「それでは王都が危ないではないか!急ぎ対策を!」
ミンタシア独立軍はアミヨン峠を制圧し、王都デレンマーを窺う体制を取った。
「これで俺たちの作戦は大成功だな」
「このままデレンマーに突入するべきじゃねえのか?」
「いや、それは待て。いま弟たちが王都へ侵入しているようだから。
その回答を待つんだ」
「わかった」
その弟、ゲルハルト国王はアバンツオ軍の支援によりデレンマレーノ領に侵入し
王都を目指していた。
そのゲルハルト国王を補佐しアバンツオ軍を指揮している人物こそ、
ヴァネッサ・トンプソンである。
さかのぼること2週間ほど前。
ハルリパークに宿泊しているヴァネッサのもとにクララの副官カトレーン大尉が
やってきて「アバンツオ軍に加わってほしいと参謀本部から連絡がありました」と
彼女に告げた。
参謀本部に赴くと人事部長シュタイン大将と面接が行われた。
「あなたはデレンマレーノ軍で少将として軍務についていたそうですね」
「はい。そうです。デュロリカを占領したのは私の部下です」
「それは今は関係ありません。あなたをわが軍で採用したい。如何です?」
「ありがたいことです。よろしくお願いします」
「では、王宮親衛隊のミチル・ヤマモト少将のもとで第5軍付きを命じます」
「はっ!ありがたき幸せ!」と参謀長に最敬礼をした。
「あ、あたしがミチルっす。女王陛下の親衛隊もやってる。話は聞いてます。
よろしくっす!」
小柄で町娘のような話し方をする若い女性のもとに付くのは、不安だったが・・・
「ちょっと来てもらっていいっすか?」
「はい」
「剣あるっすよね?持ってきてくれます?」
司令部の中庭に出る二人。
「あたしと手合わせしてくれる?」
「はい」
小柄なこの人なら一瞬で片を付けられるわ!と思っていたのだが・・・
シュンシュン
パサッ!
ズン・・・
ミチルの剣裁きに全くついていけないヴァネッサ。
一瞬のスキをついて、ヴァネッサののど元に剣を突き付けるミチル
「ぜんぜん楽しくないんですけど・・・とりま今日は終わりっすね」
終わっても息一つ上がっていない彼女の実力はとんでもなくハイレベル。
「じゃあ、あとであたしの部屋来てくれます?」
「解りました」
なぜだか異様な雰囲気を持つミチルは、
ヴァネッサにとっては、初めて感じるものだった。
(この人は見た目と違って、とんでもなく凄い。だけどそれを悟られない・・・)
コンコン
「うぃ~~~っす」
「ヴァネッサ・トンプソンです」
「あ、来てくれました?
えーっと。参謀本部からある人の護衛を依頼されたんすよね。
それをヴァネちゃんに頼めないかなぁって話なんすけど。行ってくれます?」
「その、ある人って誰ですか?」
「あーそれね。ウチもまだ聞いていないんすよ。
明日ここへ来てくれるらしいんで、そん時でいいかなぁって。どうっすか」
「解りました。では明日」
「うぃ~~~っす」
(あの言葉遣いはなんとかならんもんかぁ~~~)
そして翌日。
「ヴァネちゃん!来たよ!噂の人!」
ミチル氏が呼びに来たんだが、なんだか友達が来たかのようだわ・・・
呼ばれて部屋に行くと
高貴な雰囲気を漂わす眉目秀麗な男子が一人と
その付き人のような男女が二人づづ。合わせて5人がただならぬ雰囲気を漂わす。
「こちらが今回皆様を護衛します、第5軍付きヴァネッサ・トンプソン少将です」
「よろしくお願いします。私はデレンマレーノ王国国王ゲルハルト・ツェルナーと
申します」
「え!あ!なんと!!国王陛下の護衛ってことですかい?」
「いやぁヴァネちゃんなら大丈夫だと思ってさ。こないだの剣合わせのときよ」
あれを見たんなら、自分の方が適任なような気もするのだが・・・
「え?あたし。あたしはさぁ女王さまの親衛隊隊長だしね。離れられないんだわ」
そっか、第5軍司令官であるのと同時に王宮親衛隊隊長でもあるわけだし。
仕方ない・・・護衛任務に行くか。
「では国王陛下の護衛に全力を尽くす所存にございます」
「頼みますよ。時にあなたはデレンマレーノ軍に勤務していたと聞きましたが」
(なぜそれを?)
「それはさ、あたしが話したんよねぇ」と悪戯っぽく笑うミチル。
一瞬殺意を覚えたヴァネッサだが「まぁまぁ過去は消せないからね」
「そりゃあそうだわ。しょうがねえなぁミチル氏は」
「で護衛作戦は?聞かれていますか。トンプソン少将」
「いえ、ミチル氏知ってるよね?」
「知ってる。これな」と『作戦命令第1011号』と書かれた文書を読むヴァネッサ
第5軍第51,54,55連隊を率いて国王陛下御一行を護衛する。
デレンマーの南10㎞にある街、チネラートでミンタシア軍と合流し王都へ突入
北からはアバンツオ第1軍とグラモント砦に移駐した第6軍が侵入する計画。
そして王都に立てこもるベルケル一派を追い出し、全員捕縛のうえ裁判にかける。
「なるほど、わかりました。私の任務は非常に重要ですね。失敗はないって事ね」
「ヴァネちゃんなら絶対できる!安心して下さいね陛下」
「頼みますぞ!トンプソン少将」
出発の日。
「じゃあ、ヴァネちゃん。よろしく頼むよ。あなたがこの戦いを終わらせる
その役目を担っているってことを忘れんなよ」
「大丈夫ですよ。任せてください。絶対任務を無事終わらせ帰ってきます」
「頼むよ!」
「全軍出発!」
新たな黒い鎧を着用したヴァネッサを先頭にアバンツオ軍が進発。
いよいよベルケル一派を排除する戦いが始まった。
完
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