王国の野望⑬野望が潰えるとき

デレンマレーノの北部から

リナ率いるアバンツオ最強軍団の第1軍とシャーロット率いる第6軍が侵攻開始。


その報は翌日ベルケル一派のもとに届いた。

「すぐ迎撃せよ!アバンツオ軍に打撃を与えるのだ!」


だが迎撃に向かったデレンマレーノ軍を一蹴した第1,6軍はさらに南下している。

南からはミンタシア独立軍とアバンツオ第5軍の連合軍が王都デレンマー突入を

今か今かと待っている。


その前哨戦ともいうべき小競り合いが王都の南で頻繁に行われていた。

数で勝るデレンマレーノ軍が逃げるミンタシア独立軍を追いかけていくのだが・・

それはヴァネッサの罠であった。


「おい!マズいぞ!あれを見ろ!」

追いかけるデレンマレーノ軍の背後にヴァネッサ率いる第5軍が退路を断つ作戦に。

「やべぇ・・・俺たち戻れねぇじゃねえか!」

必死の逃避行を図ろうとするデレンマレーノ軍を次々に斬り倒し、射殺し、

完膚なきまでに叩き潰した第5軍

「これでよい。ではゲルハルト国王の元へ戻る!」


南下してくる第1軍はもう、王都まで10km地点まで迫っていた。

そしてメレイ参謀長からの作戦命令が第3軍へ下令された。

「チェンバレン大将は東から攻め込むのだ!ベルケル一派を必ず捕らえよ!」

「はっ!かしこまりました」


北部から第1軍、第6軍、東部からは第3軍、南部から侵入する第5軍とミンタシア軍

完全に包囲され、身動きが取れなくなっていたデレンマレーノ軍に軍使が送られた


ミンタシア軍のトップ、イスマエルが第5軍へやってくる。

「兄上。これから二人で王宮へ入りますが如何でしょうか」

「解った、では俺とお前で行こう。護衛は不要だ!」

「いえそれでは・・・」

「ではキミだけ来てくれ」とヴァネッサが指名された。

「閣下・・・私も同行します」エリザベート大佐

「陛下、如何しましょう。私たち二人も同行しますが」

「解った。では二人来てくれるか?」

「はっ!」


「エリザベート。もし万が一陛下の身に何かあれば、私たちは敵と刺し違える。

 その覚悟はあるか?」

「はい、あなた様の副官となった時から、いつでもこの命をあなた様や女王さまの

 ために捧げる覚悟はできています」

「よく言った。では行くぞ」


王宮に入る

敵地に入るわけだから反撃があるものと当然思っていたのだが、

何も起こらない・・・

それもそのはず、兵士たちは傷ついたまま手当てもされず、横たわるだけ。

「これはひどいな」

中にはもう死んでいると思われる者もいた。


たまに剣を振るって立ち向かってくる兵士もいるにはいるが・・・

矢が飛んでくることもある。だがいずれも力なく、儀礼的な行為にしか見えない。


「どこにいるのでしょう?奴らは」

「国王執務室か?」

「では参りましょう」

複雑に入り組んだ王宮内は、照明もなく薄暗く先が良く見えない状況だ。


窓明かりしか頼れない明るさで、ようやく国王執務室の扉が見えてきた。


と、「ここから先は通さないぞ!」

大柄な騎士が数名現れた。「俺たちの親分をどうするつもりだ」「殺す」

「やっちまえ!」


カンカンキンカンキン

剣がぶつかり合う音がする

ヴァネッサとエリザベートが国王を守るように戦っている。


イスマエル=ウルリックがその拳で・・・


ぐわぁぁぁん~~~


どさっ!

一人の騎士を拳だけで斃してしまった。

「すごい!兄上。いつのまにこんな事が出来るようになりましたか?」

「う~~~ん。いつだろう?解らん」

「ははは、兄上はいつもそうでした。いつの間にか出来るんですよね」


ようやく国王執務室の前に着いた。

「では入るぞ!」

「お待ちください。私どもが先に入ります。何かあってからでは・・・」

「では頼む」


がちゃ


ドアを開けると、一番奥の執務室に髭ぼうぼうの男が座っている。

「貴様がベルケルか?」

「兄上、この男こそ今回の騒動の元凶。ベルケルです」

「そうか、ではお前をこれから一緒に来てもらう」

「断る」

「なぜだ」

「俺を処刑するんだろう?弁明もさせずに」

「その位はさせるが?」

「騙されないぞ!それ!お前たち!」

というと10人ほどの手下らしき男たちが出てきた。


ヴァネッサとエリザベートが立ち向かい、あっさり片づけると。

「お前たちはもう終わりだ。大人しくしろ!」

ベルケルののど元に剣を突き付け・・・


「解った。俺に縄をかけろ!早く!」


「陛下はここで戦後の処理をなされては如何でしょう?」

「それもそうだな。では兄上もご一緒に?」

「俺は考える。もう国王はお前なのだ。お前が全て決めるのだ」

「いや、それでは」

「大丈夫。もうお前は何でもできる。俺は・・・ミンタシアでのんびり過ごすさ」

「兄上・・・」


アバンツオ軍がデレンマレーノ王国に進駐することになった。

「それでよいのですか?ゲルハルト国王」

「構わぬ。いまはまず国土の復興が先だ。内務卿は国土の現状を知らせてくれ

 そのうえで復興にかかる予算をどうするか?それは財務卿に頼みます。

 外務卿はアバンツオに今後のことを調整してください。以上頼みます」

「なにか有れば、私へ随時連絡してください。よろしいですね」

「解りました」

国王はそれぞれが所掌する事務を指示していた。

「それでは私たちはこれで国へ戻ります」

「まだまだもう少し居てもらうことは出来ませぬか?」

「では国に報告したのち、陛下の元へ参ります」

「承知しました」


ヴァネッサは副官のエリザベートとともに第5軍司令部へ戻ってきた。

「ヴァネちゃん!おつかれ!エリーも良くやってくれたね!

 無事戻ってきてくれて、あたしうれしいよ」とミチルは泣き始めた。

小柄なミチルを優しく抱きしめ、「泣かないで。あたしはいつでも傍にいるよ」


「ありがとう・・・」


「じゃああたしたちは参謀本部へ報告に行ってくるよ」

「うん、頼むよ!」


エリザベート大佐をともなって参謀本部を訪れたヴァネッサ。

「本日、デレンマレーノ王国から帰還しました。参謀本部の作戦指示により

 無事任務を終えることが出来ましたことを報告いたします」

フィッシャー元帥とメレイ参謀長が出迎え。


「では女王陛下へ報告に上がりましょう」

「私はここで・・・」エリザベートがここで待つと言い出した。

「問題ありません。一緒に行きましょう」

「そうですか?閣下がそうおっしゃるのなら」


王宮の国王執務室には

マルティーヌ・シャリエ女王がその美しい佇まいで待っていた。


「ヴァネッサ・トンプソン少将。大変ご苦労様でした。

 国民に成り代わり、礼を言います。本当におつかれさまでした」

「もったいなきお言葉を賜り、身に余る光栄に存じます」

「これからも私たちの国の守りを頼みますよ」

「はっ!この身に変えてでも務めを果たします」



「元帥殿」

「はい」

「戦争も終わりました。この大陸からしばらくの間は争いは起らないでしょう。

 わが軍の兵士たちも疲れているでしょう。一時的に全軍に休日を与えては?」

「女王さまは本当にお優しいのですね。

 わかりました。では警備の兵をのぞいて全軍数日間休日としましょう」

「よろしく頼みます」

「それと。元帥殿もしっかり休んでくださいね」

「ありがたき・・・・この老人にまで・・・・うううううう」

あまりの感激にフィッシャー元帥は泣き崩れ・・・

「元帥殿、男なんだから泣くのはダメですよw」


「メレイ、あなたに一つ仕事をお願いします」

「どのような」

「王宮前の広場で戦勝記念式典を行いましょう。

 今回の勝利は軍だけではなく、この国の国民の支持があってこそのもの。

 そう考えれば、何か式典を行って、国民への感謝を表しても良いのでは?」

「なるほど。ではそのようにいたしましょう」


数日後

「アバンツオ王国!万歳!」の声があちらこちらでしている。

王宮のバルコニーには

美しいマルティーヌ・シャリエ女王が二人の子息と共に集まった群衆に手を振る。

フィッシャー元帥や参謀長のメレイ。後ろにはメイドと執事たちが立ち並ぶ。


背後の部屋にいたリコ

(これで良かった。みんな喜んでいる姿を見れて・・・)


やがてアバンツオ王国軍のパレードも始まっていた。



その後

王宮内で戦勝記念祝典が開かれていた。

各軍司令官や、行政官、裁判官などなど大勢の人々が祝杯を挙げている。


「今回、みなの働きによりこの大陸から邪悪な勢力は一掃された。

 改めて礼を言います。特にヴァネッサ・トンプソン少将の功績は非常に大きい

 よってあなたを王国軍大将に昇任させます。これまで以上に務めてくださいね」


「やったね!ヴァネちゃん!もうあなたはウチらを指揮する立場なんよ。

 今まで以上に大変だけど、ヴァネちゃんなら大丈夫。頑張るんだよ!」

「閣下。あなたさまに仕えることが出来て私も大変うれしゅうございます」


その時、

「女王陛下!このような場に突然申し訳ありません!」

デレンマレーノ王国のゲルハルト国王が家臣と共に現れた。

「ようこそ国王陛下。良く来てくれました!さあどうぞこちらへ」

「祝勝会の場にふさわしくない人物の来訪にも関わらず、申し訳ありませぬ」

「いえいえ、して今日はどういう?」

「はい、貴国と友好条約を結びたく思いまして。今日は法務卿と共に参りました」

「そうですか。ではサンダース法務長官はいますか?」

「はい、こちらに控えております」

「友好条約の件でお越しになりましたデレンマレーノ王国の法務卿と調整を」

「かしこまりました。では法務卿。こちらへ」


「そういえば兄上様は如何されました?」

「ええ、兄上は政治には興味ない!といってミンタシアの辺境の地へ」

「ふふふ、お兄様らしいですね」

「本当は兄上と共に国造りを!と思っておりましたが・・・」

「良いではないですか?いずれ戻って来られますよ」


「我々としてもデレンマレーノ王国の復興に微力ながらお手伝いしますよ」

「ありがたいお話。恐縮です」

「今日は遠路お出で頂きましたし、こちらでお泊り頂いても」

「いえお知らせせずに来ましたがゆえ、これで今日は戻ります。

 またしかるべき時期にお伺いしますので。その時ゆっくりお話しさせて下さい」

「解りました」


馬車に乗って帰るゲルハルト国王を王宮にいた全員で見送り。


「女王さま」

「なんでしょう?元帥殿」

「私ももうこの高齢です。そろそろお役を御免させてほしいのです」

「まだまだ、私についてほしいのですが」

「いえ、私はすでに後任としてリナ・マツモト大将を推薦したい。

 見識が広く、文武に秀で、組織運営にはまったくソツがない。人物としても

 非常に大きな方です。ぜひ元帥として王国軍総指揮官として十分に出来る

 リナ・マツモト大将を後任にお願いしたいのです」

「そうですか。でもあなたはまだ私の相談役として居て頂きたい」

「それは承りましょう。ですが軍務についてはお願いします」

「解りました。ではリナ・マツモト大将を元帥に昇格させ総指揮官にしましょう」

「ありがたき幸せ」


第1軍司令部で司令官執務室にいたリナのもとに通信石により

【至急参謀本部へ参られたし】との連絡は、女王と元帥の話があった日だ。


「何事だろうか?」

「なんでしょうか・・・私にもわかりかねます」

新たに副官としてジュリエット・クローブル大佐が着任していた。

黒髪のロングヘア、前髪を切りそろえ、丸い眼鏡が特徴的な長身女性士官だ。

「ジュリエット、キミも来てくれるか」

「はっ」


「リナ・マツモト大将、参着いたしました」

「おつかれさまでした。では早速王宮へ参りましょう」メレイ参謀長と共に

王宮の国王執務室へ向かうと、そこにはシャリエ女王が待っていた。


「遠路、ご苦労である。

 リナ・マツモト大将を本日付で元帥とし、アバンツオ王国軍総指揮官を命ずる」

雷に打たれたような衝撃を受けたリナとジュリエット。

「いえ、私はそんなレベルの人間ではありません。何卒その話は・・・」

「これは女王としての命令です。私は軍の最高指揮官ですよ。ふふふ」

そう言われてはどうしようもないと思ったのか、

「解りました、そのお役承ります。フィッシャー元帥は如何なりますか?」

「フィッシャー元帥は総指揮官を離れますが、私の相談相手になってもらう

 予定です。元帥のままですが」

「解りました、ジュリエット大佐は?」

「あなたは副官ですよ。リナ・マツモト大将のそばにいて補佐するのが

 役目です。ジュリエット・グローブル大佐は本日付で少将に昇任とします。

 よいですね」

「かしこまりました」


「ジュリエット、大変なことになったな」

「はい。しかしこれも軍人としては最高の名誉ではありませんか?」

「そうだな。これからも国のため、命を捧げる覚悟に変わりはない。

 キミもそうだろ?」

「はい。閣下にどこまでも付いて行きます!」


リナ・マツモトが副官ジュリエットと帰って行ったあとに

ヴァネッサ・トンプトン少将が入ってきた。

「このたび大将の昇任を頂きました。軍人として身に余る光栄なことです」

「トンプソン大将は第1軍司令官に異動してもらう」

第1軍と言えばアバンツオ王国軍最強軍団として知られている。

「私が第1軍をですか?対応できますでしょうか?」

「対応するのです。あなたにはそれができる能力があります。だからお願いするのですよ」

「解りました。異動はいつでしょうか?」

「本日付けです。異論有りますか?」

「承知しました。では異動をお受けいたします」

「よろしく頼みますよ」


(わたしが最強軍団の指揮官・・・大丈夫だろうか?)



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