Episode8

新しい国造り

「被告人ベルケルこと、マンフレート・ゲットマイヤーを死刑に処す」

デレンマレーノ王国最高裁判所でベルケルに下された判決は死刑だった。


そのベルケルに連なる旧帝国の遺臣たちや

ベルケルにそそのかされた連中はすべて捕らえられ、

そのすべてが極刑に処せられた。


判決が出た一週間後、

王都デレンマーから遠く離れたドニミクにある刑務所で

ベルケル一派の死刑が執行された。


これでコレルハウト帝国の遺臣は一掃された。


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ゲルハルト国王は、常に外へ出て市民たちと交わり要望を聞き、

出来る限り、住みやすい国づくりを目指していた。


そのデレンマレーノ王国にもアバンツオから輸入した通信石を使った連絡網が

構築されつつあり、「もうすこしほしいところだな外務卿」「さようで」

「アバンツオ王国へ連絡して検討してもらってくれるか?」

「は!さっそく」


「それと・・・」

ゲルハルト国王が悩んでいたのはミンタシアのことだ。

デレンマレーノ王国よりも広大な面積をもち、しかしながらこれといった産業も

農産物もなく、人口も少なく比較的貧しい地域が多いところなのだ。


「あのミンタシアは今どうなっているのだ?」

「はい、独立軍がそのまま支配している様ですが、なかなか上手くいかないようで」

「兄上がやっているんじゃないのかな?」


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そのミンタシアでは

「ウルリックよ。このままではこのミンタシアはジリ貧になるぞ」

「そうなんだよな。どうしたらいいと思う?」

「これといった産業もないし、農業も盛んではないし、人口も少ないし

 話にならんぞ」

「かといって、デレンマレーノ王国やアバンツオに頼むのもどうかと思うし

 自分たちでなんとかせねばとは思うんだよね」

「でもこうなったら、支援を仰ぐしかなくね?」

「そう思う?やっぱり」

「思う」

「そうか・・・じゃあ弟に支援してもらうか」

「話だけでもしてみ」


ゲルハルト国王は心配になってわずかな家臣を引き連れミンタシアに向かった。

「やはりここは以前と変わらない・・・これでは」

「さよう。住民も貧しい身なりですな。農産物が上手く出来ないのでしょうか?」

「うーん分らんな」


ミンタシアのほぼ中央部にある街、イトリア

ここに独立軍が駐屯していて、各所に指示を出している。

「兄上はおられるか?」

「おお!ゲルハルト。元気だったか?」

「兄上にもつつがなく」

「ちょうどいいところに来てくれたぜ。この国をお前たちの国のようにしたい。

 そのアドバイスをもらいに仲間を行かせようとしたところだ」

「そうでしたか。私も心配しておりました」


「ミンタシアは広大な大きさです。

 領地を隅々まで見て回り、どこにどんなものがあって、どういう農産物が出来るか

 検討していかなくてはなりません」

「そうだな、それで」

「その土地に合った農産物を植え付けて様子を見るべきかと思われます」

「なるほど」

しばらく考えたウルリック。

「では仲間とこの領地を見て回ろう。そこにあった農産物を作らせよう」

「それがいいと思います」


「ステファン、ゴメスいるかい?」

「おう!なんか用か?」

「それなんだが・・・」

「お前に自警団とかそんな組織を作ってほしいんだよね」

「あれか?警察とか憲兵とか、あんなの?俺やだなぁ・・・」

「なんでよ?」

「だってさ、俺ら以前は憲兵に追われる身だっただろ?それが今度は・・・」

「まぁ気持ち的には分るけどよ。お前が一番合ってるんだわ仕事的にさ。だから」

「・・・うーん分ったよ、やるよ」

いやいやながらでもゴメスとステファンが中心となって自警団組織を立ち上げる

ことになった。


ミンタシアの中心都市、セリンノムの東のはずれにある

【ミンタシア独立軍セリンノム支部】と書かれた建物のなかに

”資材部”と書かれた小部屋がある。ここにあのカトリーヌがいた。

「あたしゃこんな部屋で字を書くのとか苦手なんだよ!」

「まぁまぁそう言うなって。必要な事なんだしよ」

「だって!」

そこへ入ってきたのはビシッとしたスーツを着た男が入ってきた。

「だれ?」

「アバンツオ王国高等学院鉱物化学科教授クリストフ・エノーと申します」

「そんな偉い人が何で?」

「ゲルハルト国王から依頼がありまして、このミンタシア北部に鉱物が採れる

 山があると聞きまして、その調査に来たのです」

「そんなの聞いたことねぇけどな」

「俺聞いたよ。ここから5日くらい行ったところにローレノ山脈の中にある

 イリルネンていう街があって、その近くから金がたくさん採れるらしいって」

「それだ。そこへ一緒に行ってほしいのです」

「山賊とかもでるらしいぞ。ダイジョブか?」

「護衛に付いてほしいです」

「しょうがねえな、じゃああたしが行くわ。仲間も連れてくけどいいよな」

「頼みます」


エノー教授はカトリーヌたち護衛と一緒に馬車でイリルネンへ向かった。


その後エノー教授がゲルハルト国王へ提出した報告書には

【将来有望な金鉱山であり、向こう100年以上は採掘可能。

 ミンタシア、デレンマレーノの国家財政を50年以上は安定したものに出来る】


「これは凄いな、あの帝国が手放さなかった訳だ」

ゲルハルト国王は感心してしまう。

「アバンツオのシャリエ女王にも報告書を提出しておくように」



一か月にわたり領内視察を終えたウルリックは

「なかなか興味深い視察だったな。

 山が多くて谷も川も多いから、農産物の生産にはあまり向かないな」

「ほかはどうだった?」

「シャルロットは興味あるかもな。海岸沿いには温泉が自然に沸いているよ」

「えー!行きたい!どこそれ?」

「西の海岸沿いだね、ここから馬車で3日はかかる」

「行ってみたい!」

「じゃあさ、シャルロットにね、観光部長をやってもらおうか?」

「あーいいね!やるやる!!やり方教えて!」

シャルロット観光部長の誕生である。


「ウルリック、あとさ道路とか新たに作らないとダメだろ?」

「そうなんだよ。交通路がしっかりできれば、このミンタシアはもっと良くなる」

「それはそう。でもどう作るかだな」

「それはさ、アバンツオ軍に聞くと分るだろ?あそこには工兵って道路とか橋とか

 専門に作る部隊がいるらしいよ」

シャルロットが「なんでそんな部隊があるのさ?」と聞く

「軍隊が移動する時に道が狭かったり、無かったりしたら目的地に行けないだろ?

 川があって渡れないとか。船だけじゃ時間かかるしな」

「そのための部隊ってこと?」

「そういうこと。デレンマレーノにはないらしいんだよ。だからアバンツオに」

「じゃあ通信石使って話してみれば?」

「明日にでも聞いてみよう」



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「リナ。ミンタシアのウルリックから連絡があった。工兵隊に来てもらえないかと」

シャリエ女王が王国軍総指揮官のリナ・マツモト元帥と相談中。

「陛下、ただいま軍工兵隊はナライ公国との連絡道建設に邁進しており、

 余力はございませんが」

「そうですか。なにか手伝えることはないですか?」

「そうですね、こちらとしては工兵隊そのものを送ることはできませんが、

 独立機動師団にも工兵部隊がありますから、この部隊を派遣しましょうか?」

「いいですか?ではその旨、伝えておきます。いつ派遣できますか?」

「準備が整い次第ではありますが、明後日くらいには」

「では頼みます」

「はっ」


「リンカ・アメル少将を呼んでください」


「アメル少将、ただいま参着しました」

「ミンタシアから道路建設の依頼が来ている。キミの機動師団の工兵部隊を

 派遣してほしいとのことだが、どうだろう」

「かしこまりました。では準備に入ります」

「明後日には行けるか?」

「問題ありません」

「では頼む」


ダニエル・プロヴァンス工兵隊長がやってきた。

「少将殿、話は聞きました。いつでも出発可能ですが、どうします?」

「そう。派遣期間は長くなると思うけど問題ない?」

「はい、逆に早くやりたい!って言っているんですが」

「なら大丈夫かな?ではやり方とかは全て、プロヴァンス大佐に任せます」

「承知しました。では明日にでも工兵隊出発いたします」

「よろしく頼むよ」


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ゲルハルト国王による新たな国造り。

困難はあるものの、それは生みの苦しみというもの。


「財務卿、国家予算はどうなっているのだ?」

「はい、インフラ建設にかなりの費用が掛かっており、今現時点ではぎりぎり黒字

 という感じです」

「そうか、財務卿には苦しいところだが、国民の安定した生活のため、

 知恵を絞ってほしいのだ」

「かしこまりました、出来る限りのことをしたいと存じます」

「そうしてくれ」


「内務卿、国内の治安状況はどうだ?」

「はい今のところ、これといった事件事案は発生しておりません。

 帝国の残党もいませんが、この残党どもを支持する一部の過激的な青年が

 僅かばかりおりまして、たまに事件を起こしています」

「その残党どもを支持している奴らの存在は、将来的に禍根を残す。

 いまからでもその対策をしてほしい。必要があれば軍に出動を命ずるのだが」

「それには及びません、憲兵隊で対応は可能です」


国内には多少の問題はあるものの、すべては復興に向けていい方向へ行っている。


「あともう少しで元の王国に戻れるのだ!みな頼むぞ!」



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