Episode 3

戦いの余波①反乱は燎原の火のように広がる

アバンツオ州が魔王軍の手に落ちたことは

各州にも、また当然、王国首都にも伝わった。


首都デンマリーは、不穏な空気が流れていた。

「魔王軍がアバンツオを落としたらしいぞ」

「そうか・・・ここもマズいかもなぁ」

「でもここは騎士団精鋭【天空の騎士団】がいるだろ?大丈夫さ」

「なら良いけどなぁ」


この国【デレンマレーノ王国】のトップはウルリック・ツェルナー15世。

若くしてこの国を任された人物だが・・・その素質には少々問題があった。

温室育ちのボンボンで、わがまま気まま得手勝手。自分に寛大他人に厳しいとか

何かと問題のある行動で周囲を悩ませていた。

その所為か王室はともかく、国家運営にも問題が多く、わがままな性格ゆえ、

金遣いが荒く、正式な夫人が居ながら妾が数人もおり、隠し子までいるという

そのため王宮の出費もバカにならず、即位後はほぼほぼ毎年赤字財政が続いており

「陛下、そろそろ出費をお控え頂かないといけません」

「なに?金がないということか?どこからか調達してこい!」

「そうおっしゃられても、すでにアテがありません・・・」

「それを何とかするのが財務長官のお前の仕事だろ?仕事しろよ!ったくよ」


一事が万事このありさま。


隣国とも、即位後は緊張感が続いていた。

特に西隣の大国【コレルハウト帝国】とは、国境地帯で両国の小競り合いが頻発し、

そのうち大規模な紛争に繋がる危険性もあったのだ。



「このままではこの国は滅びてしまう・・・何とかせねば」と

重臣たちが考えるのも当然なのだが・・・ツェルナー国王は秘密部隊を掌握していて

なかなか反旗を翻すことも出来ず、重臣たちは悶々とした日々を過ごしていた。


「内務卿閣下」

「なにごとか?」

「アバンツオ州が魔王軍の手中に落ちたことはご承知と思いますが」

「知っている」

「他の州でも王国に反旗を翻すという噂が流れています」

「まことか?何処だ?」


【デレンマレーノ王国】は5つの州からなり、魔王リコが君臨するアバンツオ州。

他に、ダハール、マルリーチ、サーミユ、モーダビアがあり別に首都デンマリーが

存在しているのだが、そのうち、マルリーチ、サーミユの2州で反乱がおき、

騎士団があっさり、掃討されてしまい反乱軍に加わったと言うことだ。



「マルリーチはともかくサーミユまでもか?」

「はい、ダハール、モーダビアでもそのような不穏な状況下にある模様です」

頭を抱える内務卿・・・「国王陛下がお考えを改めていただかなくてはならんな」

「しかし内務卿。そう簡単に出来るものとも思えませんが」

「そうだな、しかしそれが出来ないとこの国は亡びるのだ。何とかせねば」

「いっそのこと、アバンツオ州を占領した魔王軍やほかの反乱軍と協議の場を持ち

 国王陛下に意見具申しては如何でしょうか?」

「うーーーーーん、どうしたものか・・・」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

王国内務卿が頭を抱えているころ。

魔王リコの下に、その反乱軍のトップが来ていた。


「私はキャンベル・ハンフリー、マルリーチ軍を率いています。よろしく」

「サーミユ州のドロシー・ジェンキンスです。お会い出来て光栄ですわ」


それぞれ副官と見える部下を連れている。

「きょうはよくお越しいただきました。では本題を」

「私たちでこの腐った国を立て直したい。そう思い魔王さまの下へ参った次第」

「そのお気持ちは私も同じですし、我が軍にも同じ思いを持つものが多くおります

 ではどのような国にして行きたいと思われますか?」

「ええ、私は皆が等しく平等に生活できる国を」

「私も同じ考えです。王国としてではなく、ゆるやかな連合体と言う考え方も

 あるかと思いますが、魔王さまは?」


「ハンフリー殿、ジェンキンス殿。

 私としては王国をそのまま存続させるのは、現時点では難しいかと考えます

 まだ、はっきりとした態度を示していない州も有りますし、地理的にお二方の州と 

 我らとは少し離れたところに有ります。全州が一致した時点で存続を考えても

 よろしいのでは?と考えています」

「魔王さまのお考えは、良く解りました。ハンフリー殿のお考えも解りましたし

 今は州の内部を安定させるのが優先かと存じます。それが終わった時点で再び

 会談を持ちたいと思いますが?」

「それでよろしいと思いますがジェンキンス殿は?」「良いと思います」


二人の反乱軍指揮官が帰っていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アバンツオ州に隣接するダハール州。

農作物もそれほど収穫できず、畜産もあまり盛んではないこの州は、

国内でも貧しい暮らしをしている住民が多く、王国への忠誠心も低いとされている。


そこへ魔王リコの指令のもとに・・・

シンイチ・チバを中心としたニンジャ集団が浸透していた。

さらに魔術師隊も入り込み、住民に対しての洗脳活動を繰り広げていた。


「さぁ今年の税を収めろ、今年のお前たち家族は10万グルニーだ」

「10万グルニー?とてもとてもそんなには払えません!今年は天候も不順ですし

 農作物もそれほど収穫できておりません。近所の農家もみな同じです」

「つべこべ言わずに収めるのだ、明後日まで待ってやる!」

「明後日ですか??無茶なこと言わないでください!」

バシッ!

農民を殴り倒す役人。

「何をなさいます!」「税金を納めないやつはこうなるのだ!」

バシッ!ビシッ!

「ひどいねぇ・・・いくら役人だからと言って・・・」

「まったくだ・・・」


「なに!俺たちに刃向かう気か?よーしお前たちも同じような目に合わせてやる」


同じような光景がダハール州のあちらこちらで見られるようになっていた。


「もう・・・我慢の限界だ!

 隣のアバンツオ州は魔王軍が良くしているらしい。アバンツオに逃げよう!」



州境のアンバル砦ではダハール州から逃げてくる住民が日に日に増えてきた。

「クロエ大佐、砦の北側に逃げてきた住民が大勢いるのですが如何しましょう」

「とりあえず、テントと食料を支給しておけ。皆が落ち着いたら身体検査を。 

 問題が無ければ我が領内で保護しよう」

「承知しました大佐。では早速対応します」「頼むぞ」「はっ!」



そのころ

アバンツオの政庁を接収し【アバンツオ州魔王軍本部】に改められた。

その一番最上階の部屋で魔王リコがクロエと。

「その話は聞いている。ダハール州は大変なことになっているようだな」

「ええ、取り急ぎ食料とテントを支給していますが・・・最終的には領内保護が

 妥当かと考えます」

「うん、それでいい。それにしても王国に腐敗は目に余る」

「そうです。ほとんどの王国民は国王に批判的だそうで、忠誠を尽くすのは騎士団

 でも最精鋭【天空の騎士団】のみと言った感じのようです」


最近ではアバンツオ州も安定してきており、住民たちも安心して自らの仕事をする様になっていたし、リコの提案で子供たちに学問を教える学校も作られていた。

税金も減らし州内に活気が出てきている。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アンバル砦の外に野営していたダハール州の住民たちに落ち着きが見られたころ。

「ではこれより身体検査を行うから一列に並べ!」

魔王軍本部から派遣された医師と看護兵が住民たちの身体検査をしていた。

同時に、魔術師隊が透視魔術を駆使し不良住民を摘発していると・・・


「その男と女は怪しい。別室で取り調べを行いましょう」

「承知した」


「おい!そこの男と一緒にいる女。こっちへ来なさい」

「なんですか?私たちは善良な住民ですよ」

「みずから善良ななどとは言わない。いいから来なさい」


騎士数名に囲まれた男女。

男に「服を脱げ!」

素っ裸になった男だが、何もおかしなところは見当たらない。女もだ・・・

「なにもないですよ!それともここでは善良な住民に罪をかぶせるのですか!」

「静かにしなさい!」


「騎士殿、服を確認してください」

脱ぎ捨てた服を確認しようとすると男女がいきなり慌てだす。


「ん?これはなんだ?」

男の上着の内ポケットに短剣が忍ばせてあったのを見つけた。

「これは?」

「ええ、調理用に」

「これで調理は難しいのでは?」

「いや、け、けっこう出来るものですよ」「怪しい・・・」「この男はダメだ!」

女の持ち物の中に怪しげな薬瓶が見つかった

「これは?」

「ああ、私用の便秘薬です・・・えーっと便秘気味なので・へへへへへ」

「この国では粉末状の便秘薬などないぞ!正直に言いなさい!」

「え、あ、ああ、えーっとこれは・・・・」「こいつも追い返せ!」


あとでわかったが、この男女は国王が派遣したスパイでアバンツオ州の様子を探り、あわよくば魔王を暗殺せよと指示されたと言うことだった。


保護した住民を一カ所に集め、

「私はこの砦の司令官であるクロエ・ルメール大佐である、

 ここで安定した生活が送れるように尽力するつもりだ。みな安心してくれ!」

ホッとした表情を浮かべるダハール州からの逃亡住民。

彼らはもともと働き者として知られており、アバンツオ州でも農家や職人のもとで

一生懸命働き、子供たちは学校に通い、成績が良ければ上位の学校へ通わせる措置も

取ることを許可されていた。


安定したアバンツオ州で安心して暮らすダハール住民。

少しでもいい暮らしが出来るようにと願うリコだった。



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