戦いの余波③王国軍と反乱軍のトップがご対面

サーミユ州を掌握しつつある、ドロシー・ジェンキンス率いる反乱軍

とはいってもわずかに300人程度の戦力しかなく・・・

「万単位の王国軍に到底太刀打ちできるはずもない。

 このままではせっかく反乱を企てても無駄に終わってしまう」

「そうですね。マルリーチのキャンベル殿も同じでしょう・・・如何されます?」

「座して死を待つのは得策ではない。逆に打って出ることは無理だろうか?」


そこへ

「ジェンキンス殿!お待たせしました!」

「あ!あなたは!」

ドロシーたちが頭を悩ませているところへ、「クロエ大佐!どうしてここへ」

「リコ大公からの指示です。あなた方を援けよとの仰せにより、こちらへ」

あまりの厚遇に泣き出すドロシー

「なんと心の広いお方だ、このドロシー感激しております」

「さっそくですが打ち合わせを・・・」

「キャンベル殿も交えたほうがよろしいかと」「そうですね」


次の日

屈強な部下を引き連れたキャンベルがやってきた。

「これはクロエ大佐!来援して頂けると聞きました。本当にありがたいことです」


クロエ率いる第2軍の斥候が報告によれば、

兵力およそ2万人ちかい大部隊のようなのだが・・・天空の騎士団が部隊の中核。


「しかし兵のほとんどは近郷近在の農民や職人たちで、

 それもまともな訓練をしておらず、むりやり徴用されているらしく行進も

 バラバラ。これも国王が王国民から支持されていないからでしょうね。

 本気で戦おうという感じじゃありませんし」

「天空の騎士団はどのくらい?でしょうか」

「およそ300名程度でしょう。ほとんどは徴用された人たちですね」

「その人たちを無暗に殺すわけにもいかないしな」


2日後

早くも王国軍の先頭部隊がサーミユ州の州境まで2キロの地点に到達した。


王国軍の指揮官は国王の弟君ゲルハルト・ツェルナー元帥

「兄上にも困ったものだ・・・もう少し自重して頂かなくては国が危うい」

「元帥閣下、サーミユ州境はすぐそこです」


「全軍停止!」

シルバーの輝く鎧にカーキ色のマント、馬上のその姿はギリシャ彫刻のような

ゲルハルト・ツェルナー元帥は、川向うの緑豊かなサーミユ州を眺めている。


「美しい風景だな。サーミユというところは」

「さようですな閣下。しかしながら反乱軍を一掃せねばなりませぬ」

「それは分っているが気が重いな」

「わたくしめも同じ気持ちにございます」

「そなたも分ってくれるか?ハーゲンベルグ」

「はっ」

「できることなら戦いは避けたいところだ。とりあえず向こうへ使者を送るか?」

「それも一つの手かと」

「クレメンスはいるか?」

「はっ、こちらに控えております」

「そなたに一個小隊をつける。サーミユ反乱軍のトップに会って話し合いを

 持ちたいと伝えてくれ」

「かしこまりました。さっそく」「頼むぞ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「なに?王国軍から使者が?」

「はい、一人の少佐の階級章をつけた者と小隊が来ております」

「少佐のみ入ってもらえ」


「私は王国軍次席参謀クレメンス・アーレント。

 派遣軍司令官ゲルハルト・ツェルナー元帥の指示によりまかり越しました。

 王国軍は無用な争いはしたくない。できれば平和的に収めたいとの意向です」

「お話の向きは分りました。ですが我々は王国に反旗を翻した身。

 平和的にとはなかなか参りません。マルリーチ州のトップも同じ考えです」

「あなた方の希望は何ですか?お聞かせ下さい」

「はい、王国はわれら国民に何故過酷な重税を課すのですか?農民は収穫した

 農作物の半分以上を年貢として納めよと指示されています。それだけでも

 非常に大変ですし生活していくのがやっとの状況です。

 国王はさらに兵役やら建設工事に我々を酷使しています。それがどれだけ住民を

 痛めつけているかわかりますか!」

話をしていくうちに激高するドロシー

「ま、まぁ、落ち着いてください。

 今回王国軍を指揮しているのは国王陛下の弟君です。私からも話しますから、

 ぜひご同行願えませんか?」


「ドロシー殿、これは罠です。同行したうえであなたを殺そうとしています

 おやめになったほうが・・・」

「いや、話だけでもしてみたい。クレメント殿、ぜひ伺いましょう」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ドロシーとキャンベル

王国に反旗を翻した二人が、王国派遣軍の幕舎に入る。

「ようこそお出で下さいました。私は派遣軍司令官ゲルハルト・ツェルナー。

 ぜひ、あなた方と一度お話したいと思い、無理を承知で来ていただいた次第」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

国王陛下の弟と反乱軍の二人のトップの話し合いは4時間にも及んだ。


「今日はありがとうございました。

 あなた方の提案は必ずや国王陛下にお伝えしましょう。

 私どもといっしょにより良い国にしていきたいと思います」


「キャンベル殿、どう思いました?話をしてみて」

「なかなか話の出来る方だと思います。国王にこちらの要望を伝えてくれる

 そう信じてもよい方だと思われます」

「そうですね、私も同感よ。しばらく軍事行動は控えましょう。

 州内を少しでも良くしていくようにしましょう」


「クロエ殿」

「おかえりなさいませ、ドロシー殿。話し合いはどんな感じでしたか?」

「はい、こちらの要望はすべて伝えました。しっかり話を聞いてもらえました。

 かならず国王に伝えると」

「それは良かったです。それで進軍してきた王国軍は?」

「このまま引き上げるとのことです」

「そうですか、では撤退したことを確認したのち、我々も引き上げましょう」

「ありがとうございましたクロエ殿」


クロエ大佐率いるアバンツオ公国軍第2軍は、サーミユ州の手前にある小高い丘から

撤収していく王国軍を、しっかり確認していた。

「あの軍と戦わなくてよかった。あれだけの大軍相手にしてはこちらも大けがを

 するだけだ」

「そうですね、大佐殿の言う通りかと存じます」

とはいうものの、王国軍の隊列は後ろになるほど乱れきり、

もはや行列ではなくただ三々五々バラバラに歩いているだけの敗残兵の集まりにも

見えるのだった。


「それではアバンツオに向けて引き上げる!出発!」




アバンツオに到着したクロエは早速、報告へ。

「そうか。それは良かった。戦わないのであればそれに越したことはない。

 ご苦労だった、下がって休むがよい」

「はっ!」


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首都アバンツオの治安を守る立場になったミチル・ヤマモト大尉は

馬上で隣に並んでいる同じ立場になったリンジー・マリア・シャーロット大尉と

警備兵を引き連れて共に治安維持に努めている。

「ねぇ、最近ヒマよねぇ」

「っすね。ヒマっす!」

「けどさ、うちらがヒマってのは、それだけ治安が良いってことじゃん」

「そうっすね。街中も落ち着いて、歩いている人たちもいい表情してるな」


そんなある日

街中を騎乗で警戒していると

「ドロボー!!!!」という声が聞こえてきた。

「なんだってぇ!」

「行こうぜ!」


警備兵を連れてその場へ行くと

薄汚い男が無我夢中で走ってくるのが見えた


シャーロットは下馬すると、その男へ向けて突進していく。

警備兵が後を急ぎ足でついていく。


「とまれ!」

「どけ!じゃますんな!」

「とまらぬと斬る!」

「斬ってみろ!どうせできねえだろ!」


いきなり、袈裟懸けに斬るシャーロット。


ギャッ・・・と言ったっきり、ばったり倒れた。

「じゃあ、縄かけてくれる?」

警備兵たちがたちまち縄でぐるぐる巻きにし、警備事務所へ連行して行った。


「んだよ!もっとやってくれると思ったのに・・・つまんねぇの」

「まぁそういうなって、これは誰んだ?」


「それはわたくしのでございます!」

麗しいドレスの貴婦人がメイドを連れて歩いてきた。

「これっすか?ずいぶん高価な感じすっけど」

「はい、これは亡き主人が遠い国で買い付けてきたものです。

 いまでは形見となってしまいましたが」

「そうっすか。じゃあ大事にしてな!」

「ありがとうございました」

貴婦人は帰っていった。

「うちらもあんなの持ちたいね。お高いんでしょうけど」

「そうっすね、結構すると思うんすよね」




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