戦いの余波⑤総督夫人のいま

「そういえば総督夫人は、今どうしているのだ?」

「は。夫人はいまこの街の市街地でお子様方と暮らしています。

 リコさまの指示により護衛兵をつけております」

「それでいい。メレイ。私はこの座を去ることにした」

「なぜです?あなた様がいたからこそ、この国は見違えるように変わったのです」

「それはそうだ。だがいずれ私はこの国が安定したら座を去ることにしていた」

突然の話に驚くメレイ。

「私は以前から、国が経済的にも住民の生活にも安定したなら、この座を去ると

 話をしていたはずだが」

「それはそうですが、まだ早くないですか?」

「いや、今この時が一番良いのだ」

王国の管轄下、疲弊しきった民と老朽化したインフラ、高い税金、年貢など

この州が王国に搾取されしきったのが、独立以前のアバンツオ州だった。


けれど、今はアバンツオ公国として強大な軍と上向き経済の下、安定した国家に

大きく変わった今、立ち上げたリコはこの際に身を引くことを前々から考えていた


「ですが、あなたの後継はどうなさるおつもりですか?」

「総督夫人に任せたい」

「なぜです?あの総督の夫人ですよ?このアバンツオが元に戻ってしまいます」

「いや、それはない。総督夫人は賢いお方だ。それはあの方の立ち振る舞いで分る

 それに国家顧問のフィッシャー殿もおられる。フィッシャーはその高い見識と

 博識で必ず、総督夫人をサポートしてくれるはずだ。

 そういう意味もあってメレイ、そなたの師匠として招いたのだよ」

「それは良くわかります。あなたさまには感謝してもしきれません。

 ですがそれとこれとは違うのではありませんか?総督夫人が国家を運営できる

 のでしょうか?」

メレイの懸念はこのアバンツオの民が死んだ総督がしてきた仕打ちを忘れていない

そうである以上、その身内である夫人に対する見方は変わらないのではないか?

「メレイの考えていることは良くわかる。さっきも言ったように、あの方は賢い

 かならずやこの国を発展させてくれると確信している」

「あなたさまは如何されるおつもりですか?」

「私は一人の市民としてこの国で暮らすつもりだ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

リコが座を去るという話は瞬く間に国中に広がった。


アバンツオ公国軍の幹部を集め

「クロエ、リナ、チェンバレン、そしてミチル、シャーロット。

 君たちにはいままで大変な苦労をさせてきた。ありがとう。

 私はこの際、身を引く。総督夫人にこの国のかじ取りを任せることにした」

リナ、ミチルはいままでの事を思い出し泣いていた。

「リコさま。それでいいのですか?残された私たちはどうすれば?」

クロエの問いに

「いや、お前たちはすでに自分たちのことは自ら考え行動しているではないか

 もう私がとやかく指示することはないのだ」

「私はあなたさまの慈悲深いお心に惹かれて、

 騎士団をやめ新たな国造りに参加したのです。あなたのいないアバンツオは

 考えられないのですよ」「チェンバレン、それは違う。お前は自ら信ずることを

 行動にしただけの話だ。だからチェンバレン、お前は信じる道を進むのだ」


そして・・・

「総督夫人、こちらへ」

「お久しゅうございます、リコさま、みなさま」

麗しく美しいドレスを身にまとった高貴な女性が現れた。二人の子供を伴い。

「マルティーヌ・シャリエ元総督夫人だ」

「あれ?あなたはあの時の!」ミチルとシャーロットは街中で泥棒に襲われた

美しい女性を思い出していた。あの時の女性だったのだ。

「あの時はありがとうございました。助かりました。夫の形見も戻りましたし」

「よかったですね。あなたがそうだったのですね」


「今後はこちらのシャリエさまが国王だ。お前たちは十分サポートするのだ」


「シャリエ国王の就任式は来週行う。

 フィッシャー殿にはそのための準備をお願いしたい。メレイとともに」

「はっ!かしこまりました」


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マルティーヌ・シャリエ国王の就任式が大々的に行われていた。

かつての総督官邸は王宮となり、そのバルコニーに二人の子供と共に立ち、

「私が新国王、マルティーヌ・シャリエです。

 かつて私の夫は国民みなに酷く接してきました。そのことをまずは謝罪します」

「私は、国民皆に十分に尽くしていくことをこの場で誓います」

王宮前に集まった群衆は、その美しい女王の姿を羨望のまなざしで見つめている。



就任式も無事に終わり、国王執務室で。

「シャリエ国王、これは私がいままで国を立てなおしてきたことを

 簡潔にまとめたものです。それとこちらのフィッシャー元帥があなたを

 完璧にサポートしてくれますから、安心して執務をお願いします」

「ありがとうリコさま。でもあなたも此処にいてくれますよね?」

「あなたが望むのなら。私はあなたにこの座を譲った以上、ここにいるのは本来の

 姿ではありません。この街のどこかでゆっくし過ごしたいと思っています」

「わかりました。では元帥殿。明日からしっかり仕事をしていきますよ。

 サポートをしてくださいませね」

「はっ。私のような老いぼれにそのようなお言葉を頂くとは・・・

 感謝してもしきれませぬ。余生は女王陛下にこの身を捧げましょう」



あくる日はアバンツオ王国軍の閲兵式。

全軍を目の前に「この度、キミたちを指揮する事となった。この国と民を守るため

私は諸君と共に立ち向かう覚悟である。私は君たちを全面的に信用する。

諸君も私を信じて、国の守りを確実にしていて行こうではないか!」


軍幹部を集めて

「リナ・マツモト大佐、クロエ・ルメール大佐、トレントン・チェンバレン大佐

 君たちを本日付で王国軍大将に特別昇格させることとした、今後もこの国の為に

 一層励んでほしい」

「はっ!」

「ミチル・ヤマモト大尉、リンジー・マリア・シャーロット大尉、

 ふたりは今日から王国軍少将に昇格だ。これからも軍務に励め!」

「かしこまりました」

「そしてヤマモト大尉、シャーロット大尉には特別な任務を与える」

「なにごとでしょうか?」

「こっちへ来なさい!」二人の子供が入ってきた。

「マリレーヌ・シャリエです」「ジョルダン・シャリエです」

「この二人をあなたたちに預けます。この子たちを立派な軍人に仕上げてほしい」

「私たちにですか?」顔を見合わせる二人

「大丈夫だ、君たちに助けられたときに分かったのだ。この人たちなら

 二人の子供を任せることができると」

「わかりました。マリレーヌどの、ジョルダンどのは私たちと一緒に来て下さい」

「はい!」


その後フィッシャー元のサポートのもと、

財務、外務、内務、文化、農業、商業、国防のトップを決め

正式にシャリエ女王新体制が動き出した。



そんなある日

マルティーヌ・シャリエ女王のもとへ、サーミユ州、マルリーチ州のトップが

護衛の兵と共に面会にやってきていた。

「ドロシーさま、ジェンキンスさま。初めまして新しくアバンツオ王国の国王に

 就任しました。よろしくお願いします」

若く美しい女王を目の前に、ジェンキンスはともかく、ドロシーまでもが

「・・・美しい・・・」とため息を漏らしていた。


「アバンツオ王国の国民がうらやましい・・・」

「何故です?」

「あなたのような美しい女王がいらっしゃるんですから」

「顔だけで政治はできません。すべてはこれからにかかっていると思っています」


サーミユ州とマルリーチ州との連携を確認したのち、二人の反乱軍指揮官は

連れ立って帰っていった。




「リコさま。私の夫はかつてこの国の住民たちに酷いことをしてきました。

 そういう過去がありながら、住民たちは私の就任を祝ってくれましたが、

 これは本心でしょうか?リコさま、フィッシャーさま、如何思われますか」

王宮の執務室でシャリエ女王とリコ、フィッシャー元帥と対面していた。

「なにを心配されているのですか?あの群衆を見ましたか?

 あれだけ熱狂的に祝ってくれたではないですか?それでも不安ですか?」

「女王陛下、わたしはあなたのご懸念が分かりかねます。国民多くは経済的にも

 自らの生活も安定し、生き生きした生活を営んでいます。それはあなたの国王

 としての存在が安心をもたらしているのです。何も心配はいりません」


シャリエ女王の心配は杞憂だ。


民心は安定し、経済は上向いている。

周辺諸国との交流の盛んだが、隣接する大国【コレルハウト帝国】の存在だけが

心配の種ではある。だが強力なアバンツオ王国軍は日夜訓練に励んでいるのだ。


デレンマレーノ王国が存続していることだけが心配といえば・・・






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