Episode5

強大な新たな敵①前哨戦

コレルハウト帝国との交渉は決裂した。


王都にあるアバンツオ王国軍参謀本部では連日連夜、対帝国戦を念頭に置いた

作戦計画の練り直しを行っている。


帝国軍の総兵力は公称50万もの大軍を擁し、この大陸では一番の軍事大国だ。

その帝国を相手に真正面からぶつかれば、敗北は確実だ。

「50万もの大軍が一気に押し寄せるとは思えない」

「それはそうだが万が一の場合も考えねば」

「個別撃破することができれば、我々にも少しは勝機が見いだせるのでは?」

「それもあるが、ではどうやって貴公は帝国軍を分断するのだ?」

「いまは何とも言えない」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「リコさま。交渉は決裂しました。

 私は国と国民を守るために最善と考えていましたが。

 今になって考えると、あれが妥当だったかといわれると疑問が残ります」

「女王さまが、自分の信念に基づいてされたことと思います、

 私はあなたの考えを尊重します。あなたはもう国王なのです。自分で何事も

 決めることができます。私や元帥殿はあくまであなたの考えをサポートする

 そういう立場から話します。最後は女王さまがお決めください」


「私が異世界から転生してきたことはご存じだと思います。

 それからいままで、元の世界に戻ることなく、この国の人たちを救いたいという

 気持ちになれたのは、何故だかわかりますか?」

「いえ」

「いままで出会った人たちが好きだからです。だからこそこの国の虐げられた人を

 なんとかしてあげたい。それは出会った人たちへの恩返しの気持ちからです」

「なるほど。リコさまのお気持ちは国民に、十分伝わったのではありませんか?」

「いえ、私はまだだと思っています。この国だけではなく、将来的には帝国までも

 変えていかなくてはならない。それがこの国、この大陸への恩返し。

 そう思っています」

「リコさま・・それほどにこの世界を思って下さる・・異世界の方なのに・・・」

「帰ろうと思えば、元の世界に戻ることは可能でしょう。でも今のままで戻る事は 

 この国の人たちを裏切ることにもつながります。だからこそなのです」


「リコさまのお気持ちは痛いほどわかりました。

 私は信念に基づいてこれから、行動していきます。ぜひ見ていてください!」

そういうとシャリエ女王は王宮へ帰っていった。

(女王さま・・・いつでも私はあなたの味方です。話をしに来てください)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「周囲の状況に変化はないか?」

「はっ!大尉殿、いまのところは変わったところはありません!」

「そうか!ではそのまま監視を続けろ!」

「はっ!」


コレルハウト帝国との交渉が決裂して1か月が過ぎた。

帝国が占領したダハール州には特に変化はなく、のんびりした空気が流れていた。



荒涼としたダハール州の光景にも、ようやく冬の訪れが見えるようになってきた。



「今日はやけに冷えるな」

「そうだな。そろそろ雪が降るかもしれんなぁ・・・」


砦の中は暖房が効いているものの、望楼の上では、その恩恵にあずかることが出来ないのだ。



数日後

雪が降り始めた。


赤茶けて痩せこけたダハール州の風景は、白一色に塗りつぶされた。



そんな寒空の中。

「おい、あそこがアバンツオの砦だな?」

「そうです大尉殿」

「夜まで待て。夜襲をかけるまでこの場で待つのだ」

白いコートを着た一団が雪景色に紛れて砦そばの森の中に潜んでいた。


その一団とは

コレルハウト帝国軍特殊作戦群第1大隊の100名からなる部隊だった。


望楼から監視していた兵士も

「そろそろ寝るか。じゃあ交代頼むわ」

「おうよ」


ザッ・・・ザザ・・・・ズズ・・・・ザズ・・・・


「おい!なんか音しないか?」

「そうか?眠いんだから起こすなよ・・・」


ザッ・・・・・・ザザ・・ザズ・・・・


「やっぱ、音してるよ。聞こえんだろ?」

「ああ・・・うん、何か動いているな」

望楼から外を見ると・・・


雪明りの中に人らしき多数の影が見える!

「敵襲!敵襲!」と叫ぶ声は隊長室へも聞こえてきた。「なに!」


だがあっという間に、望楼の直下へ帝国軍が殺到していた!

「敵襲だ!全員配置につけ!敵襲!!!!」


望楼付近他数か所に梯子がかけられて帝国軍が昇ってくる。

たちまち望楼が占領され、コレルハウト帝国の国旗が掲げられるのが見えた。


「なんだと!望楼が占領された?」

「その様子です。帝国軍はおよそ100名、ほとんどが特殊作戦群部隊のようです」

「特殊作戦群・・・」

帝国軍の中でも敵地潜入や要人暗殺、それに雪や強風といった悪条件下でも

容易に作戦行動を行い、後続部隊の橋頭保となる部隊のことだ。

それが砦にやすやすと侵入し望楼を占拠したとなれば、この砦にも大軍が

押し寄せることは容易に考えられる。


「望楼付近で敵を食い止めろ!その間に王国軍本部へ通報せよ!今すぐ!」


数か所から侵入を開始した帝国軍の一部は、背後から内部に突入してきた。

望楼からも、背後からも敵が続々と入り込んでくる。

王国軍も激しい迎撃戦を戦っているが、徐々に押されていく・・・


キンキン・・・

ガン


ぐさっ!

うわぁっ!


くそぉ~~~

徐々にその数を減らしていく敵軍。

リンカ・アメル大尉も自ら最前線に立ち王国軍を指揮している。



やがて敵軍も相当数が戦死し、死体をそのままにして引き上げようとする背後を

残った兵士で追撃に移る王国軍に激しく抵抗する敵。


残った敵は10数名。

それらを取り囲むように王国軍が最後の掃討戦に入ろうとしている。


「この者たちを生け捕りにせよ!」

アメル大尉の指示で捕獲しようとするものの、

捕虜になることを潔しとしない敵は、剣をふるって抵抗している。


うわっ!

あ!


グサッ

「大尉殿!私にかまわないで・・・ゴホッ」

コートニーという兵士は敵に斬りかかろうとしたときに、一瞬のスキを突かれ

横から槍を突き刺された・・・

「ありがとう・・・コートニー・・・」

アメルはその槍をついた敵を斬り伏せ「お前の仇は討ったぞ!」


結局100名で潜入した帝国軍は3名の捕虜と18名の逃亡者を除いて殲滅された。

だが、王国軍側もコートニーほか8名が戦死、40名ちかい負傷者を出してしまう。


死屍累々のグラモント砦。

翌日から敵味方問わず、戦死体を共同墓地へ埋葬し襲撃事件は幕を閉じた。


「帝国軍はどんな時でも、どんな状況下でも、目的を遂行する。これは肝に銘じておかねばならない。ミサ少尉、キミは今回の事件の報告書作成だ。出来上がったら

私に提出せよ。期限は明日だ。頼むぞ」

「はっ。かしこまりました」


大隊きっての頭脳派、ミサ・グレモント少尉の作成した戦闘詳報は微に入り細に入り、完璧なものだ。「さすがはミサ少尉。感服したぞ!」「ありがたき幸せ!」

「マーガレット少尉、クラリス曹長、トラス曹長は、この書類を王国参謀本部へ

 提出せよ。これから出発するのだ!」

「はっ!ではさっそく!」

「気を付けるのだ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ご苦労だった。下がって休むがよい」


参謀本部で報告書”戦闘詳報”を提出したマーガレット、クラリス、トラスの3人は

王都で久しぶりの休暇を楽しんでいた。

「早く帰らないとマズいのでは?」と生真面目なクラリスが言うと

「大丈夫、アメル大尉からは休暇を与えられているからね」

「そうだよ。久しぶりなんだし、ちょっとは休んでいいと思うよ」

「それもそうか・・・じゃああたし行きたいところあるんだ。また宿舎でね」

クラリス曹長が向かったのは・・・

「クラリス!久しぶりだな!どうしてここへ?」

彼女を迎えたのは騎士学校時代の同級生で一番仲の良かったスタンレイだ。

「隊長から休暇を与えられたんだよ」

「そうか、いつまでいるの?」「明日には帰るの」

「なら今日は俺が知っている美味しいレストランに行こう!」

「うん!」


王都は大いににぎわい、中心部の大通りには大小さまざまな店があり、

それぞれ着飾った老若男女がウィンドウショッピングをしたり、通り沿いのカフェではベランダ席で若い男女が楽しそうに話している。

「これも王国軍が強力だからこそさ。クラリスも頑張ってるんだってな?

 聞いたよ。あのグラモント砦で帝国軍の兵士を何人か斃したんだってな」

(そんな話が伝わってるんだ・・・実際は一人だけだけど)


「美味しいね」

「そうだろ?ここのパスタは王都で一番のシェフが作ってるんだって」

「そうなんだ。道理で美味しいわけね」

「なんでも王宮御用達だってさ。俺もその位になりたいな」

「スタンレイはどうなの?料理学校行ったんでしょ?お店持てた?」

「いや、まだまだ修行中だよ。でも師匠もいい腕だって褒めてくれたしね」

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい・・・

「じゃあね、また!」

「クラリスも頑張れよ!応援してるぞ!」

「ありがとう!スタンレイ!!」

手を振りながら宿舎へ帰っていくクラリスを笑顔で見送るスタンレイ。

(今度はいつ会えるのだろうなぁ・・・)


「ただいま戻りました」

「大変よ、クラリス!グラモント砦がまた帝国軍に襲われているって」

「えっ!急いで帰ろう!」

参謀本部から馬を借り、夜の街道を突っ走る三人。


やがて夜が明けると、

遠くに大きな、黒い煙が上がっているのが見えた。

それは、グラモント砦の方角だ・・・


グラモントの街を駆け抜けると、そこに・・・

「隊長!」

「おう!3人とも無事か?よかった・・・がグラモント砦が陥落した・・・」

「えっ!まさか・・・みんなは?」

「・・・くやしいのだが、われらの大隊の半分が失われた・・・」

「ミサ少尉もですか?」

「ああ、ただほかの士官は無事だ。だが兵士の半分が戦死してしまった・・・」


帝国軍の奇襲攻撃によってグラモント砦は陥落した。

守備隊は半数を失う大敗を喫した。だが隊長以下士官はミサ・グレモント少尉が

戦死した以外は、とりあえず無事だということだ


「いま参謀本部へ連絡したところだ。

 第1軍がリナ・マツモト大将と共に来援することになっているから、問題ない」


ただ、グラモント砦に付随する小砦はまだ王国軍が掌握している。

これを起点に本砦を占拠する帝国軍を粉砕撃破することを考えているという。


その間にも帝国軍は続々と砦の外に部隊を増援している。

「一刻も早く反撃に出るべきです。そうしないと」.

「マーガレット少尉、落ち着け!キミまでそのようではいかんぞ!状況を冷静に

 判断するのだ」

「申し訳ありません!大尉殿」


やがてリナ率いる王国軍最強の第1軍が来着した。












 




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