第036話 異世界ツアー(マル秘イベント付き)
王都にやってきた俺達はいつものように賑やかな町並みを歩いていく。
しかし、なんか兵士の数が多い気がする。
「何かあったんですかね?」
「さあの」
「殺気立っている感じはしませんし、危ない事件があったということではないと思いますが……」
ジュリアさんが言うように兵士は特に戦闘態勢に入っているわけでもないし、慌ただしさは感じない。
なんだろうと思いながらもカーティスさんの研修室に向かっていると、前方からそのカーティスさんが歩いてきた。
「あれ? カーティスさん?」
「おー、ハルトか! 良いところで会ったな!」
んー?
「どうしたんです? 今から本を返しに行こうと思ってたんですけど」
あと、火の国のこと。
「そんなことよりも事件だぞ」
事件?
やっぱり何かあったのかな?
「どうしたんです?」
「王都から西にちょっと行ったところに山があるんだが、実はそこにワイバーンが出たというのだ」
ワイバーンって何だっけ?
ゲームなんかの創作物でそういうモンスターがいるのは知ってるけど。
「ワイバーンとは?」
「ドラゴンの一種だ。亜竜とも呼ばれるドラゴンの低位種だな。とはいえ、こんなところでドラゴンが出るのは珍しいぞ。見に行かんか?」
「見に行くって……危なくないです?」
大丈夫か?
「実はワイバーンの目撃情報があったから陛下が騎士団に討伐を命じたんだ。私は魔物の生態に関する研究をしているからちょうどいいと思って、連れていってもらえるように頼んだんだよ」
そういやそういう研究をしているって言ってたな。
「じゃあ、討伐ついでに調べる感じです?」
「さすがに討伐が優先だから見るだけだな。国民の命がかかっているし、私の研究と民の命では比べるまでもない」
ホント、できた人だわ。
創作の悪徳貴族ならここで被害が増えるムーブをかます。
「俺達もついていっていいんですか? 邪魔では?」
「そこは問題ない。数人増えたところで影響はないしな。どうだ? 騎士団に守られた見学ツアーだぞ」
うーん……亜竜かもしれないが、ドラゴンは見てみたいと思う。
「サクヤ様は?」
「見たい」
即答か。
まあ、植物園よりドラゴンって言ってたしな。
「ジュリアさんは?」
「私も見たいです。それに何かあってもドラゴンでもハルトさんなら倒せると思いますし、もし、任せてもらえるなら私がやりましょう」
この子、あっちの世界ではぽわぽわしてるのにこっちに来ると、本当に生き生きしだすな……
うーん、まあ、最悪はサクヤ様の転移があるか。
「カーティスさん、一緒に行っても良いですか?」
「もちろんだとも。西門に兵が集まっているから行くぞ」
俺達は急遽、予定を変更し、カーティスさんについていく。
そして、西門にやってくると、数十人の兵士が整列しており、その前には白銀の鎧を着た若い男性が立っていた。
「ロバート、待たせたな」
カーティスさんが白銀の騎士に声をかけた。
「これはカーティス殿……まだ出発前ですよ。ところで、そちらは?」
ロバートさんちやらが俺達を見る。
「魔法ギルドに所属している友人だな。ワイバーンを見たいということで連れてきた」
「カーティス殿……さすがに部外者は遠慮して頂きたいのですが……」
やっぱりダメ?
「この者達はギルドでも評判の実力者だ。それに例の魔石を作った者達でもある」
「おー! あの魔法が使える魔石ですか! それは素晴らしいですな!」
あー、例の依頼か。
「今回の討伐に同行することでまた新たな魔法を思いつくかもしれんぞ」
「なるほど……そういうことでしたら許可しましょう。失礼……私はこの隊の隊長を務めますロバートと申します」
カーティスさんと話していたロバートさんが挨拶をしてくる。
「はじめまして。私は魔法ギルドに所属しているハルトです。それと妻のジュリアとサクヤ様です」
「よろしくお願いします。また、例の魔石に関しては大変感謝しております。我々は今回のように魔物退治などに駆り出されるのですが、非常に重宝致します」
「それは良かったです。一魔法使いとして嬉しく思います」
「立派な魔法使いのようですな…………カーティス殿、この方、貴族では?」
なんか内緒話を始めたぞ。
「知らんが、どこぞの当主らしいぞ。あと、魔法ギルドから絶対に無礼を働くなと釘を刺されておる」
そうなの?
「さようですか……まあいいでしょう。そろそろ出発しようと思いますが、大丈夫でしょうか?」
「うむ。行こう。ノロノロしているとワイバーンが逃げるかもしれん」
「わかりました…………出発だ!」
ロバートさんが大声でそう命じると、兵士達が門を出ていく。
そして、俺達もそれに続くように出発した。
「どれくらい歩くんですかね?」
街道を歩いており、前方に山が見えているものの、距離感がよくわからない。
「歩いて1時間といったところだな。あの山は良い石材が採れるんだよ」
カーティスさんが答えてくれる。
「それはワイバーンをどうにかしないといけませんね」
採掘する人が危険だ。
「そういうことだな」
「しかし、なんでワイバーンがいるんですかね? 珍しいんでしょ?」
「ワイバーンは群れるドラゴンなんだが、たまにはぐれたりするらしい。そういうやつだろう」
やっぱり研究してるだけあって、詳しいな。
「ワイバーンって強いんですよね?」
「まあ、亜竜とはいえドラゴンだからな。とはいえ、飛んでいるのが厄介なくらいでそこまでではない。ロバートなら単騎で狩れるだろう」
ロバートさんって強いんだ……
「戦っているところを見られるも貴重な気がします」
「ロバート、観客がいるから国の恥になるようなミスはするなよ」
カーティスさんが茶化す。
「問題ありませんよ。それにレディーの前では負けないと決めているのです」
かっこいいが、キザだな。
俺は言えない。
「頑張ってください」
「ははっ、優秀な魔法使いと聞きましたし、いっそハルト殿がやりますか? 倒せば素材はハルト殿のものですし、ワイバーンの肉は高級食材ですよ?」
食べられるの?
「そうなんです?」
「ええ。獲物は倒した者が所有権を持ちます。そして、ワイバーンは滅多に出没しませんし、高いんですよ。味も格別と聞いたことがあります」
「私は食べたことがあるな。昔、外交官だった時に接待で食べた。美味かったぞ」
普段からあんなに美味いものを食べているカーティスさんがそう言うくらいか。
「ハルト、やれ」
サクヤ様はそう言うと思った……
「私がやりましょうか?」
ジュリアさんも前のめりだな……
「ロバートさん、やってもいいです?」
「構いませんよ。我らとしてはワイバーンを排除し、民を危険から守れればいいのですから」
騎士様、かっこいい……
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