第079話 田舎あるある ★


 車を走らせ、組合に到着したので車から降りる。

 そして、組合のビルに入ると、エレベーターに乗り、2階の受付に向かった。


「こんにちはー」

「お疲れ様です」


 2人で受付にいる山中さんに声をかける。


「こんにちは。今日も2人?」

「ええ。一緒に来ました」

「うんうん、仲が良さそうで何より」


 山中さんが嬉しそうに頷く。


「はいはい。健診をお願いします」

「ちょっと待ってね。村田君と秋山さんを呼ぶから」


 山中さんは笑顔で頷くと、内線をかけた。

 しばらくすると、エレベーターから秋山さんが降りてくる。


「こんにちは。せっかくの休みなのに悪いわね。邪魔しちゃ悪いし、早速、上に行きましょう」

「はい。ハルトさん、また」

「うん」


 ジュリアさんがひらひらと手を振ってきたので振り返すと、秋山さんとエレベーターに入っていった。


「若いわー。初々しいし、恋人って感じがするわー」


 山中さんが頬に手を当て、おばちゃんみたいなことを言う。


「俺、30っすよ?」

「……そういえばそうだったわね。ハルト君って昔から知ってるっていうのもあるけど、すごく若く感じるのよね」


 それ、褒めているんだろうか?


「自分でもガキっぽいなって思いますよ」


 職場でも平均年齢が高いせいかまだまだ若者扱いだ。


「若く見られるのは良いことよ?」

「まあ、それはそうっすね」

「――何の話ー?」


 山中さんと話していると、村田さんが降りてきた。

 しかも、何故か階段で。


「俺がもう30歳っていう話です」

「早いよねー。この前まで学生さんだと思っていたらいつの間にか大人になって結婚しようとしているもんね」

「村田さんももうちょっとイケイケでしたね」

「山中さんも秋山さんもだよ……悲しいね。僕は健診で引っかかって階段だよ」


 それでか。


「俺はちゃんと身体を動かしていますのでエレベーターで4階に行きますね」


 そう言って、エレベーターの昇りボタンを押す。


「はいはい……あー、疲れる」


 村田さんが階段を昇っていったので俺もエレベーターに乗り込む。

 そして、4階で合流すると、近くの診察室に入って、健診を始めた。


「俺、子供っぽいですかねー?」

「んー? まあねー……というかさ、皆、そうじゃない? 昔の30歳と今の30歳は違うでしょ。僕らと同じくらいの歳になってもきっとそう思うよ。だって、僕も40前だけど、ガキだなって思ってるもん」


 皆、そうか。


「俺が子供の頃には30歳ってもっと大人に見えましたねー。というか、おっさん?」


 俺もおっさんかなー?


「僕もそうだよ。でも、結婚しようとしている君は十分に大人さ。秋山さんもだけど、僕なんかこの歳になってもふらふらしてるしね」

「結婚しないんですか? 昔から遊んでそうな人だなーって思ってましたけど」


 昔から色々聞いている。


「難しいところだね。僕らも飲みに行くけどさ、結婚してる山中さんはあれだけど、秋山さんと愚痴ばっかりだよ。親とか周りがうるさくてねー」

「俺、東京にいましたけど、あっちは何も言ってきませんでしたね。こっちに帰ってきて、今の会社に就職してからは先輩や上司から『彼女いないの?』とか『結婚しないの?』って聞かれまくりでしたけど」


 できないんですよーって返してた。


「田舎あるあるだよね。いまだに結婚して一人前って考えがあるから。さっき言ったのはそういうこと」

「一人前になれますかねー?」


 仕事は普通にしているんだけど。


「大丈夫、大丈夫。君はちゃんとしてるから。それに浅井さんもしっかりした子だし、問題ないよ。それよりもいつ結婚するの? あまり浅井の家を待たせない方が良いと思うけど」

「近いうちだと思います。ただ、ちょっとジュリアさんと話をしないといけません」


 まあ、さっきの話、ジュリアさんも嫌って感じではなかったし、前向きではありそうだったけど。


「仲良くやってる?」

「午後からも一緒ですし、明日はお城を見に行く予定ですね」

「なら良かった。それとさ、岩見君、なんか魔力が上がってない?」


 ホントに言われた……


「上がってます? 自分ではわからないんですけど」

「まあ、君はそういう探知が苦手だしね。でも、上がってる」

「覚えがあるとしたら以前、浅井さんが持っている山でジュリアさんと魔法を見せ合ったことですかね? ジュリアさん、穴掘りができるんですよ」


 こう言っておけば大丈夫だろう。


「あー、なるほど。交流のない家同士だし、気になるか。浅井の山なら問題ないもんね」

「ですね」

「まあ、わかったよ。体調に変化は?」

「ないですね」


 絶好調。


「じゃあ、今回も問題ないだろうね。また、結果をお知らせするから来てよ。別に平日の仕事終わりでもいいしね。2人でそのまま飲みにでも行けば?」


 このビルは駅前なため、一応、飲み屋なんかも多い。

 飲むかはさておき、前に言っていたカラオケに行ってもいいかもしれない。


「わかりました」

「じゃあ、最後に採血するね」


 注射、苦手なんだよなー……




 ◆◇◆




 健診が終わり、岩見君は帰っていった。

 そのまま診察室で結果をまとめていると、ノックの音が聞こえてくる。


「どうぞー」


 そう答えると、秋山さんが入ってきた。


「どうも」

「どうしたの?」

「たいしたことじゃないわ。ハルト君はどうだった?」


 秋山さんがさっきまで岩見君が座っていた丸椅子に腰かける。


「いつもと同じ。ちょっと魔力が上がってたくらい」

「それはジュリアちゃんもね。なんか実家の山で魔法の練習をしたとか」

「それはこっちも聞いた。ひと月前はどうなるかと思ったけど、上手くいってるみたいだね。今日もこれから一緒だってさ」


 明日もお城って言ってたな。

 まあ、あの2人らしいチョイスだ。


「みたいね。話を聞いたけど、完全に恋人だわ。多分、このまま結婚するっぽいわね。なんか聞いてる?」

「岩見君も前向きっぽいよ。あの子も30歳だし、当主様だからね。パパッと決めるでしょ」


 時間をかけることでもないだろう。


「やっぱりそうよね……ねえ、これって上に報告しないといけないのよね?」

「そりゃそうでしょ」

「あなたがやって」

「嫌」


 絶対に『で? 君は?』って言われるし……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る