第027話 本棚は綺麗になってる


 食事を終え、外に出ると、すでに6時を過ぎており、辺りは暗くなり始めていたので転移で家に戻る。

 家にはすでにノルン様はおられなかったが、本棚の本がまたもやごそっとなくなっていた。

 明日、古本でいいから補充しておくことに決めた。


「日が長くなりましたね……」


 ジュリアさんが窓から外を見る。


「もうすぐ5月になるしね」

「ですねー……あ、着替えていきます。脱衣所をお借りしますね」

「どうぞ。俺も着替えるよ」


 ジュリアさんが脱衣所に行ったので俺とサクヤ様も着替え始める。


「ハルト、これからもジュリアを異世界に連れていく気か?」

「ジュリアさん次第ですけど、そのつもりです」


 本人は乗り気っぽいけど。


「そうか。アドバイスをしてやるが、異世界に行くのとは別にちゃんと定期的に会ったり、デートはするんじゃぞ。あの娘を逃がすでない」


 褒められたから気に入ってるな、これ……

 単純な神様だ。


「わかりました」

「昨日今日のジュリアの言動でわかったじゃろ。向こうはその気じゃ」


 まあ……


『――ハルトさーん、着替え終わりましたけど、大丈夫ですー?』


 脱衣所の方からジュリアさんの声が聞こえてきた。


「大丈夫だよー」


 そう答えると、あっちの世界の服を持ち、着替え終えたジュリアさんが部屋に戻ってくる。

 うん、柔らかい雰囲気がして、ぽわぽわしてる。


「お待たせしました。今日はありがとうございました。楽しかったですし、美味しかったです。いまだにちょっとドキドキしますよ」

「それは良かった。ゲームは大丈夫だった?」


 最初はそこだった。


「あー……それもまたやりたいですね」

「いつでも来ていいし、迎えにいくよ」

「ありがとうございます。ぜひ」


 ジュリアさんが笑顔で頷く。


「なんだったら我が迎えにいってやろうか?」


 定位置の布団で横になっているサクヤ様が自分の顔を指差した。


「迎えとは?」


 免許持ってないし、足も届かないんでしょ。


「我には転移がある。今はジュリアの家に行ったことないから飛べんが、一度連れていってもらえたら飛べるぞ。異世界に行く際にもわざわざこちらで着替えるのも面倒じゃろうし、ハルトの携帯に連絡さえすれば連れてきてやる」


 おー、さすがはサクえもん。


「いや、そんな……サクヤヒメ様のお手数をかけるような真似は……」

「たいした手間じゃない。寝たままでもできるわい。それよりもウチのハルトを支えておくれ。よよよ……」


 サクヤ様がわざとらしく目頭を押さえる。

 よよよって泣く奴、おらんわい。


「わ、わかりました。このジュリアにお任せくださいませ」


 まあ、なんでもいいけど。


「じゃあ、送っていくよ。サクヤ様もお付き合いください」

「そうじゃの」


 俺達は部屋を出ると、車に乗り込む。

 サクヤ様が真っ先に後部座席に乗り込んだので助手席はジュリアさんだ。


「ジュリアさん、ゴールデンウィークは?」


 来週はゴールデンウィークなのだ。


「あー、10連休ですね」


 フルだな。


「有給?」

「はい。新入社員は休めって言われました」


 良い会社だな。


「それは良かったね」

「ハルトさんのお休みは?」

「俺は暦通り。土日月の3連休とその次の金曜から月曜も4連休。まあ、誰かが出てないといけないし、既婚者に譲る感じかな」


 ウチの会社、家族持ちの40オーバーばっかりだし、ジュリアさんのような若い子には休んでほしい。

 結果、俺が出る。


「休みは取れんわけではないじゃろ?」


 後部座席のサクヤ様が聞いてくる。


「そういうわけじゃないですよ。ちまちま休んだ方が良いと思っているタイプなんです」


 というか、ジュリアさんの前だから言いづらいけど、10日も休んだら最終日の夜が地獄になる。

 それが嫌なのだ。

 だったら定期的に3連休を作った方が良い。


「ふーん……とはいえ、休みは多いんじゃろ? せっかくだし、どこかに出かけたらどうじゃ?」


 あ、これが言いたいわけか。


「ジュリアさん、どこかに出かけようか」

「異世界です?」

「いや、それとは別で。県外はさすがに無理だろうけど、どこかに行こうよ」

「はい。嬉しいです」


 どこ行こう?

 ゴールデンウィークはどこも混むから考えないとな。


 どうしようかなーと思っていると、すぐにジュリアさんのアパートに到着した。


「ハルトさん、今日はありがとうございました」

「うん。また連絡するね」

「はい」


 ジュリアさんが助手席から降りる。


「ハルト、ちょっと待っておれ」


 サクヤ様も後部座席から降りると、ジュリアさんとアパートに入っていった。

 待っている間にスマホでデート先を探していると、10分そこらでサクヤ様が戻ってきて、助手席に乗り込む。


「待たせたの」

「何してたんですか? すぐでしょ」


 たいした時間ではないが、10分は長い。


「ちょっと話をしておっただけじゃ。それよりも帰るぞ」

「わかりました」


 サクヤ様がシートベルトを装着したので車を走らせる。


「話って何です?」

「ん? たいした話ではない。綺麗な部屋じゃったし、キッチンもしっかりしておったからちょっと気になっただけじゃ。あと、確かに漫画は多かったな」


 指でなぞってホコリチェックとかしてないだろうな?


「姑みたいなことをしないでくださいね」

「せんわい。なるべく遠慮をするなって言ったんじゃ」

「遠慮と言いますと?」

「あやつ、おぬしが誘わない限り、ウチには来んぞ」


 あー……まあ、そんな気はするな。


「来いって言ったんです?」

「自分のやりたいことをしないと後悔するものじゃからな。ハルトもジュリアが来ると嬉しいじゃろうって言っておいた」


 まあ、嬉しいとは思うね。


「掃除が大変だ」

「それは関係なくせんかい。おぬしが好きなノルンも来とるじゃろ」

「そっすね」


 それぐらいやるか。

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