第103話 海
「よし、西は店があるくらいで特に案内するところもないし、大丈夫だろ」
町中央の湖まで戻ってくると、ディーネさんが頷く。
「となると、残りは東ですか?」
「そうそう。海だな。レッツゴー」
ディーネさんはそう言うと、切り替えが面倒になったらしく、小窓をバンバンと叩いた。
すると、御者の人もわかったようで馬車が動き出し、東に向かう。
「ここから先は飲食店、土産物や宿屋が中心になる。別にぼったくってるわけじゃないけど高め」
「わかってますんで大丈夫ですよ」
観光地に近ければ近いほど高くなるもんだ。
「たまに文句を言う奴がいるんだよー」
「そういうのはどこにいますよ」
俺だって騙されたとか不満に思わないでもないが、口に出して文句は言わない。
でも、出す奴もいる。
「まあなー。さて、そろそろ海だぞ」
「潮の香りがしますね」
「海だからなー」
そのまま進んでいくと、馬車が停まった。
窓からは白い砂浜と共に大海原が見えており、屋台もあるし、海の家らしき飲食店も見える。
とはいえ、まだ午前中だからかそこまで人は多くない。
「綺麗な海ですね」
「すごいです」
「ええのう」
海は良いなー。
「わはは。すごいだろ。といってもまだシーズンが始まったばかりだからそこまで人は多くないな。この辺の海水は温かいからもう泳げるけど、海開きをしたのが先々週なんだ。これからどんどんと増えていき、人で溢れかえるぞ」
確かに少ないが、泳いでいる人は数名いる。
「ここもナンパスポットですよね?」
「そうだな。日焼けしている野郎がいたらそいつがナンパ師だ。でも、ここは夕日より朝日が綺麗だな。朝早く起きて、海岸線を歩くと良いらしいぞ。私は起きられないから知らないけど」
俺も朝は苦手だけど、頑張って起きようかな。
ジュリアさんが好きそうだし。
「ジュリア、海で泳ぐか?」
サクヤ様がジュリアさんに聞く。
「うーん、私、海を見に行ったことはありますけど、泳いだことないんですよね。プールは学校の授業でありましたけど」
俺は子供の頃に家族で行ったからある。
ウチの県は海に面しているのだ。
「大丈夫か?」
「多分? でも、そんなに人が多いとちょっと恥ずかしいですね。それにタマヒメ様は絶対に来られないと思います」
あ、水着か。
人も多いし、タマヒメ様は嫌がるな。
「わはは! そこは安心するのだぞ! 進めい!」
ディーネさんが変なしゃべり方で小窓を叩いた。
すると、馬車が動き出し、海沿いの道を進んでいく。
「どこに行くんですか?」
「とっておき!」
ディーネさんが満面の笑みで頷いたので到着を待つことにした。
そのまま進んでいくと、海側は相変わらずの砂浜だったが、岩や木々なんかも増えてきて、人がめっきりいなくなる。
どこまで行くんだろうと思っていると、馬車が停まった。
そして、右側には2階建ての建物が見えている。
「とうちゃーく。降りて、降りて」
ディーネさんがそう言って、馬車から降りたので俺達も降りた。
そして、全員が建物を見る。
「家かな?」
「そんな感じはしますね」
「別荘じゃろ」
別荘、か。
「ここは教会が持っているゲストハウスなんだ。あげる」
やっぱり……
火の国に対抗したわけだ。
「いいんですか?」
「うん、私がサボるくらいにしか使ってないし」
避難所か。
「ハルト、ありがたくもらっておけ。断ったら火の国ではもらったのにウチはダメなのかってことになる」
「そうそう! ショック!」
全然ショックそうではないが、ご厚意はもらっておくか。
「わかりました。ディーネさん、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
頭を下げて礼を言うと、ジュリアさんも礼を言う。
「いいの、いいの。じゃあ、説明するぞ。見ればわかると思うけど、玄関」
ディーネさんが正面にある扉を指差す。
「そうですね」
玄関だ。
「そんでもってこっちから海に行ける」
ディーネさんが建物の左側の道に向かったのでついていく。
建物の横を通ると、砂浜が広がっていた。
それでいて両サイドは岩や木が茂っているので綺麗に区切られていた。
「プライベートビーチみたいじゃの」
「ですね」
誰もいない。
「すごいだろ。ここは他の人も来ないし、当然、ナンパ師も来ない。家族や仲間内だけで楽しめるんだ」
確かにすごい。
「ジュリア、どうじゃ?」
「私はとてもありがたいですね。タマヒメ様もこれなら来られるかもしれません」
そもそもあの人って海は好きって言ってたけど、泳げるんだろうか?
「あそこに防波堤があるでしょ? あそこで釣りもできるよ」
左の方には海に向かって伸びている岸がある。
確かに釣れそうだ。
「すごいところですね」
「まあねー。そんでもって別荘から出られるよ」
振り向いて別荘の方を見ると、表と同じような玄関があり、さらにはテラスがあった。
それに2階にもバルコニーがあり、眺めも良さそうだ。
「バーベキューができそうじゃの」
「できるぞー。道具も揃っているし、町で魚介とか肉を買えばいつでもできる」
「ええの」
金持ちの別荘そのものだな。
すごいわ。
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