第022話 めおとけん
ルイナの町にやってきた俺達は楽しそうなジュリアさんを先頭に町を回っていった。
時には一緒に写真を撮ったりと完全な観光気分で隅々まで見ていく。
そして、一通り町を見た後、ちょっと早いが、前にも来た可愛いウェイトレスがいる定食屋にやってきた。
「いらっしゃいませー。あちらの席にどうぞー」
俺達はウェイトレスに勧められたテーブルにつく。
俺とサクヤ様は並んで座り、対面にジュリアさんが座る形だ。
「ジュリアさん、ボアのバター焼き定食でいい?」
「はい、食べてみたいです」
ジュリアさんが頷いたのでウェイトレスを呼び、ボアのバター焼き定食を3つ頼んだ。
「この町はどうだった?」
ウェイトレスが厨房に行ったのでジュリアさんに聞いてみる。
「どこに行っても見たことがない風景ですごかったです!」
ジュリアさんは本当に楽しそうだ。
「そうだね。俺も最初に来た時は感動したよ」
「はい。連れてきてもらい、ありがとうございます」
「午後からは王都を回ろうか。それと冒険者ギルドね」
「はい!」
俺達がその後も町の感想を話しながら待っていると、ボアのバター焼き定食がやってきた。
「お肉ですかね?」
「うん。美味しいよ。食べてごらん」
「では……いただきます」
ジュリアさんが丁寧に手を合わせると、ボアのバター焼きを食べだす。
「どう?」
「おー……すごく濃厚で美味しいです!」
ジュリアさんは満面の笑みだ。
「だよねー」
俺とサクヤ様も食べだす。
以前も食べたが、やはり美味しいし、手が止まらない。
「相変わらず、すごいっすね」
「うむ。美味いのう……」
俺達は黙々と食べていき、あっという間に平らげてしまった。
「これは何と言うか、癖になりそうな味ですね」
「だね。もちろん、日本の料理も美味しいんだけど、こっちはこっちですごい。最近、夜とかはこっちで食べることの方が多いよ」
「気持ちはすごくわかりますね」
ジュリアさんがうんうんと頷く。
「サクヤ様、昼食も済みましたし、王都に行きます?」
「いや、一回戻ろう。やはりジュリアの格好が目立つ」
確かに町を回っていた時に目立っていたな。
俺の時と同じようにすれ違う人が皆、ジュリアさんを見ていた。
美人だからっていうこともあるだろうが、女性も見ていた。
「ジュリアさん、どういう格好がいいとかある?」
「うーん、ハルトさんはこっち世界で魔物を倒したりして、お金を稼いでいるんですよね?」
「そうだね。食費や旅費みたいなもん」
今はまだそこまでお金がかかっていないが、高い料理があるかもしれないし、何かでお金を使うこともあるだろう。
「だったら動きやすい格好がいいですかね? お手伝いしたいです」
「お手伝い?」
「はい。私は魔法使いとして、ハルトさんの足元にも及ばないですが、それでもお役には立てると思います」
いや、多分、君の方が強いと思う。
そう感じてしまうほどに剣の振りがすごかった。
「どうします? 嫁入り前のお嬢様ですよ?」
サクヤ様に確認する。
「嫁に入るのはおぬしのところじゃろ。浅井の家の子なら問題あるまい。それに最悪は我の転移がある」
それもそうか。
「じゃあ、そういう感じでノルン様に頼めませんかね?」
「わかった。では、一回家に戻るとしよう。どうせゲームしとるじゃろ」
そうかも……
俺達は店を出ると、もはやワープポイントとなっている建物と建物の間に行き、転移する。
すると、やっぱりノルン様がテーブルに肘をつきながらゲームをしていた。
「ノルン様、ノルン様、ちょっと頼みたいことがあるんですけど……」
靴を脱ぎ、部屋に上がると、ノルン様に声をかける。
「そこです」
ノルン様はテレビから視線を切らずに布団の方を指差す。
そこには白っぽい服が畳まれて置いてあった。
「ありがとうございます。ジュリアさん、服をもらったよ」
「え? はい……あの、どちら様でしょうか?」
そういや初めてだわ。
「こちらはノルン様。異世界の神様」
「っ! し、失礼致しました! 浅井家が長女、ジュリアでございます!」
ジュリアさんが何度目になるかわからない土下座を決める。
すると、ずっとテレビ画面を見ていたノルン様が振り向いた。
「サクヤさん、この国の人って宗教への意識が低いんじゃなかったでしたっけ?」
「こやつらは神の子じゃ。神が身近にいるがゆえにこれじゃな」
「あなたの子はそうでもないようですけど……」
「こやつはこういう子じゃ」
どういう子?
ちゃんと敬ってますけど?
「ふーん……ジュリアと言いましたか? 顔を上げなさい。そういうのは不要です。そもそも世界も違えば信仰するものも違うのですから。あとゲームの邪魔をしないように」
多分、ゲームが9割だな。
この人、ゲームをしている時は集中してて、すごい不愛想だし。
「か、かしこまりました」
ジュリアさんはまたもや深々と頭を下げる。
「ジュリアさん、ここではあれだから脱衣所の方で着替えてきなよ」
「は、はい」
ジュリアさんは服を手に取り、脱衣所の方に向かった。
「ノルン様、もうクリアできません?」
レベルが80超えているんだけど……
めっちゃメタル狩りしてる……
「レベルを99にしてから魔王を一方的に倒します」
うーん、私怨かな?
魔王がいるのかは知らないけど。
「他にもゲームはあるんで好きにやって良いですよ」
「あなたは良い子ですね。臆さないし、優秀な人間のようです。女性関係以外は……」
え? なんで知ってんの?
「ノルン様、ジュリアさんの剣をくれません? あの人、すごいんですよ」
「その前に確認ですが、あの娘と一緒になるんですか?」
えーっと……
「多分? すみません、ようやく進み始めた感じです。見合いですし、結婚前提なのは確かですからそういう方向に進もうと思っているんですが……」
こればっかりは相手があることだから何とも。
「じゃあ、一緒になりますね。ならこれでいいでしょう」
ノルン様がそう言うと、テーブルの上に剣が現れた。
俺がもらったやつとまったく同じ剣だ。
「羽のように軽いノルン様ソードです?」
あと折れない。
「そうです。それは対になっている剣ですね」
「へー……ありがとうございます」
双剣だったのかな?
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