第021話 頼もしいね


 脱衣所で着替え終え、最後に剣を腰に差すと、部屋に戻る。


「わぁ……ハルトさん、かっこいいです!」


 ジュリアさんが手を合わせて、褒めてくれた。

 実にいい子である。 


「向こうはこんな感じの服だからね」

「剣もあるんですね?」

「ノルン様がくれた。持ってみる?」

「持ってみたいです!」


 ジュリアさんが興味津々なので剣を渡した。

 すると、狭い部屋の中で剣を抜き、構える。

 その姿は様になっており、すごく綺麗だった。


「似合うねー」

「そうですか? 剣もやってたんですよ」


 やってた?


「剣道部?」

「あ、そういうことではないです。ウチは魔法の他にもこういう武術を習うんです」


 護身術みたいなものかな?

 それとも浅井の流派だろうか?

 浅井さんのところとは交流がほとんどないからわからない。


「ハルト、ジュリア、そういうのはあっちに行ってからにせい。まずはおさらいのためにスタート地点の草原に飛ぶぞ」

「あ、はい」

「わかりました」


 ジュリアさんが剣を返してくれると、玄関に行き、靴を履く。

 そして、一瞬で視界が変わり、初めて異世界に来た時の草原に飛んだ。


「すごいです! 絶対に日本にはない光景です!」


 ジュリアさんが辺りを見渡しながら興奮している。


「ホントだよね」

「ところで、あの穴は何ですかね? あちこちが焦げてますけど……」


 あ、うん……


「それはハルトのイオナズ〇じゃな。オークかなんかを爆殺しておった」

「イオナズ〇って……」


 ジュリアさんが引いている。


「いや、イグニッションだから。最初だったから調子に乗ったのと加減がわからなかっただけ」


 というか、サクヤ様が要求した。


「それにしても……す、すごいですね。私の魔法ではどうやっても無理です」

「ジュリアさんはどんな魔法が使えるの?」

「えっと……得意なのは感知魔法や身体能力を上げる魔法です。あとは……穴掘りですかね?」


 穴掘り?


「何それ?」

「ウチが所有する山がありまして、そこは組合の許可を得て、魔法が使えるんです。そこで魔法の練習をするんですが、よくわからないので穴を掘りました」


 へ、へー……

 その山、落とし穴だらけじゃない?


「ちょっと見せてよ」

「こんな感じですかね?」


 ジュリアさんが地面に手を向けると、急にマンホールくらいの穴が開いた。

 覗いてみると、深さ1メートルくらいだと思う。


「すごいね」

「用途は微妙です」


 まあ、それを言ったらどの魔法もそうだよ。

 使ったらダメなんだもん。


「他の魔法は?」

「後は火を出したりですかね?」

「見せて、見せて」

「えーっと……」


 ジュリアさんが今度は前方に手を向けた。

 すると、手からバスケットボールくらいの火の玉が出てきて、飛んでいく。

 メ〇だ。


「すごいじゃん」

「ハルトさんの前ではお恥ずかしい魔法ですけど」


 ジュリアさんが照れたように笑った。


「ジュリア、魔法を使ってみて、どうじゃ?」


 サクヤ様が聞くと、ジュリアさんが魔法を出した自分の手を見つめる。


「そっか……私、魔法を使ったんですね。禁じられたことなのに……」


 ジュリアさんはただただ手を見続けていた。


「ここでは大丈夫だよ。普通に魔法がある世界だし、俺達を罰する人はいない」

「そ、そうですよね。なんか感動します……物心がついた時からずっと修行をしてきましたが、たまにこれをやって何になるんだろうとも思ってましたから」


 使う機会がないものを学ぶ意味はないと思うからな。

 俺は好きだったからやってたけど、そうじゃなかったら疑問に思うのかもしれない。


「使い放題だよ」

「はい……今、ようやく自分が魔法使いなんだなって思えました」


 魔法を使うから魔法使いなのだ。


「はい。振ってみてよ」


 ジュリアさんに剣を渡した。

 すると、ジュリアさんが鞘から剣を抜き、構える。

 そして、ビュンッと風切り音が聞こえたと思ったら振り抜いてた。


「……見えました?」

「……全然」


 サクヤ様が首を横に振る。


「速くない?」


 というか、速すぎない?

 人間の動きじゃなかったような……


「これが強化魔法です。浅井の得意魔法ですね」


 知らなかったけど、浅井って相当、武闘派の家なんだな……

 普段はぽわぽわしているジュリアさんが剣豪に見えたし。


「すごいですね……」

「まあ、魔物もおる世界じゃし、自分の身は自分で守れるのは良いことじゃろう」


 確かにそうだな。


「ジュリアさん、ルイナの町っていう田舎の村と昨日行った王都だとどっちがいい?」

「どっちも見たいですけど、王都ですかね?」


 やっぱり王都か。


「ハルト、王都は午後からでよかろう。まずはルイナの町を見て回り、昼飯を食べようぞ。久しぶりにボアのバター焼きが食べたい」


 確かにそれがいいかもしれない。

 それに俺も食べたい。


「じゃあ、最初にルイナの町に行って、午後から王都に行こうか。それでいい?」


 ジュリアさんに確認する。


「はい。ボアのバター焼きって何です?」

「ルイナの町の名産。この世界の料理ってすごく美味しいんだよ。それらを食べて回るのも旅の目的の一つだね」

「へー……すごく気になります!」


 ……アイス食べる?


「じゃあ、行こうか。サクヤ様、お願いします」

「うむ。その前に剣をしまえ。さすがに抜き身はマズいぞ」

「あ、お返しします」


 ジュリアさんが剣を鞘に納め、返してくれたので腰に差す。


「では、お願いします」

「任せい」


 サクヤ様の転移でルイナの町に行くことにした。

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