第040話 実は歴史的な会合


 車を走らせ、駅前にある組合のビルに到着すると、中に入る。

 すると、喫茶店の入口付近に黒服のお姉さんが立っていた。


「お待ちしておりました、岩見様」


 お姉さんが深々と頭を下げる。


「どうも。キヨシさんは?」


 キヨシというのは浅井の当主であり、ジュリアさんのお父さんの名前である。

 そして、県議会議員。


「あちらに」


 喫茶店の中にはスーツ姿の客が一人しかいない。

 もちろん、浅井さんだ。


「では」


 中に入ると、浅井さんがいる席に近づく。


「遅くなってすみません」

「いや、こちらも急に呼び出して申し訳ない。まあ、かけてくれ」


 浅井さんに勧められたので対面に座った。

 そして、コーヒーを頼み、一口飲む。


「浅井さんもお忙しいのでは?」

「まあな。選挙も近い」


 そうなんだ。


「1票入れておきますよ」

「それはありがたいな。貴重な1票だ」


 あんまり変わんないと思うけどね。


「お互い、忙しいですし、本題に入りましょうか」


 俺達は岩見と浅井。

 縁談という話はあるが、仲良く話し合うような関係ではないのだ。


「そうだな。ジュリアとはどうだろうか? もう半年になるが……」

「まずは時間がかかっていることに関してはすみません。実は最近まであまり連絡も取っていませんでしたし、会っていなかったのです」


 ここは正直に。


「そうなのかね? 合わなかったのか?」

「いえ、そういうことではありません。お見合いした当時、ジュリアさんは大学4年生でした。卒業論文もありましたし、残りの大学生活を優先してほしかったのです。それと就職してからもまだ慣れていないだろうからそちらを優先するべきと考えたのです」


 これは嘘ではない。

 関係性を進めない言い訳として思っていたことでもあるのだ。


「そうかね……それで今は?」

「数週間前くらいからこれからのことを含めて、話すようにはなりましたし、会うようにはなりました。すみませんが、これからがスタートと考えてください」


 実際、そうだし。


「ふむ……いきなり断るということではないわけか?」

「もちろんです。ジュリアさんに不満はありませんし、当然、結婚前提で進んでいこうと思っております。ジュリアさんの気持ちもありますが、私は前向きに考えています」

「ジュリアもそうだと思う。昨日、話をしたが、上手くやっていけそうだし、一緒になりたいと言っていた」


 嬉しいね。


「これからのことは2人で話をしながら進めていこうと思っております。ただ、ジュリアさんは岩見がもらいますよ? 私は浅井の人間にはなれません」


 当主だもん。

 もっと言えば、もう岩見は俺しかおらん。


「むろん承知だ。この縁談が上手くいった場合、ジュリアは岩見に嫁に出す。これは決まっている」

「よろしいので?」

「問題ないし、一族も納得済みのことだ。昨日も改めて、その話をしたが、反対する者はおらん」


 爺さん婆さん世代は反対しそうなもんだが……


「ウチの祖父母が生きていたら猛反対だったと思いますよ」

「祖父母に限らず、君の亡き両親もだ。実はこの縁談、5年前に一度打診している。即、断られたがな」


 5年前ってジュリアさん、高校生じゃん。


「なんでそこまで?」

「時代が変わった。ただそれだけだ。かつてはこの地域の覇権をかけて争っていた我らだが、今は共存しかない。そうしなければ、そう遠くない未来に浅井も岩見も滅びる」


 浅井さんはどうかね?

 ウチは大ピンチだけど。


「そうですか」

「岩見はそれもやむなしと考えている節があったが、私は滅びを許容できん。だから本家のジュリアなんだ。君に釣り合う娘は他におらん」


 買い被るなー。


「まあ、わかりました。私ももう30歳ですし、時間はかからないと思います」

「そうしてほしいな」

「……お義父さんって呼ばないとダメです?」

「絶対にやめてほしいな」


 俺も嫌。


「ですよね。では、私は帰ります。夕方から用事がありますので」


 席を立つと、喫茶店を出て、外で待っているお姉さんに一礼する。

 そして、ビルを出ると、車に乗り込み、帰宅した。


 家に戻ると、まだ2人でカー〇ィーをしていたのでそれを眺める。


「さて、私はそろそろ帰りましょうかね?」


 ノルン様がセーブをし、コントローラーを置いた。


「帰られるんです? ドラゴン肉を食べにいきますけど、一緒に行きません?」

「ドラゴン肉? 私は結構です。ネギ玉牛丼を食べます」


 えー……


「そっちです?」

「あなた達が私の世界の料理を美味しいと言うように私にとってはこちらの世界の料理が美味しいのです。ちなみに、以前、あなた達がファミレスで食事をしていた時、すぐ後ろの席にいました」


 えー……まったく気付かんかった。


「声かけてくださいよ」


 まあ、当時はジュリアさんに誰って聞かれたら答えに困るけど。


「アニメの話で盛り上がっていましたのでやめました」


 映画見た後だからね。

 その後、ウチに連れてきた。


「色々と行っているんですね」

「そういうことです。では、これで」


 一瞬でノルン様の姿が消えてしまった。


「あの人はあの人でこっちの世界で食べ歩きしてたんですね」

「みたいじゃな……我らもカーティスの家に行こう。おぬしらは着替えよ」


 そういえば、ジュリアさんもこっちの世界の服だ。


「わかりました」

「あ、脱衣所をお借りします」


 俺達は異世界の服に着替えると、サクヤ様の転移で再び、王都に飛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る