第039話 それぞれの思い ★


 カー〇ィーの陽気なゲーム音が聞こえたら良くないので着替えて外に出ると、浅井さんに電話する。

 すると、数コールで呼び出し音がやんだ。


『もしもし?』


 浅井さんの声だ。


「どうもー。岩見のハルトです。お電話を頂いたようで」

『ああ。休みの時に申し訳ないな』


 むしろ、休みの時しか出られません。


「いえいえ。ちょっと出てましてね。それで電話に出ることができませんでした。それで用件は?」

『縁談の件について話がしたいと思ってな。ジュリアから色々と聞いたが、そちらの思いを聞いていないので一度話がしたいんだ』


 昨日は親戚の集まりで実家に帰ってたし、そこで聞いたのかな?


「わかりました。私の方もゴールデンウィーク明けにでも連絡をしようと思っていたのでちょうどいいです。いつにします? 夕方は用事がありますけど、これからでも大丈夫ですよ」

『では、これからでもいいかな? 実は組合にいるんだよ』


 健診かね?


「わかりました。これから向かいます」

『よろしく頼む』


 電話を切ると、部屋に戻る。

 すると、ノルン様とジュリアさんは協力プレイでゲームをしており、それをサクヤ様が横になりながら眺めていた。


「すみません、ちょっと浅井さんと会ってきます」

「んー? 1人か?」

「ええ。縁談の件の進捗ですね。ジュリアさん、昨日の集まりで何か言った?」


 さすがに異世界のことは言ってないだろうが、話はすり合わせておかなければならない。


「えっと、上手くいってますと……」

「それだけ?」

「ええ。異世界のことを言うわけにもいきませんし、定期的にお食事をご一緒したり、出かけていると言いました」


 まあ、そんなところか。

 嘘はついてないし、実際にご飯を一緒に食べたり、植物園や映画に行ったりしている。


「わかった。じゃあ行ってくるね。夕方には戻るから」


 そう言って家を出ると、車に乗り込み、組合に向かった。




 ◆◇◆




「ほう……見事だな」


 陛下が庭に置いてある凍ったファイアードラゴンを見て、深く頷く。


「はい。まだ幼体とはいえ、ドラゴンを一撃で凍らせました」

「優れた魔法使いのようだな」

「そういうレベルではないかと……尋常ないレベルの魔力を持ち、スピードも極めて速かったです。そして何より、ここまで綺麗な魔法は見たことがありません」


 私も魔法使いとして長いが、あれほどの魔法使いを知らない。


「ふむ……ロバート、そなたはどう思った?」

「はっ! カーティス殿と同意見です。ドラゴンとワイバーンの区別もついていませんでしたし、それほどの存在かと」


 ドラゴンとワイバーンでは内包する魔力がまったく違う。


「虎の前では猫もネズミも変わらんか……して、カーティス、その魔法使いはハルトと言ったか? それにもう2人いるんだろ? 何者だ? 他国の者か?」


 陛下が矢継ぎ早に聞いてくる。


「魔法ギルドが言うには異界の神とその眷属だと……一緒に少女がいるのですが、その者が神でハルトが眷属らしいです。もう1人の女性はハルトの配偶者のようです」

「まことか?」

「わかりません。ですが、ハルトとジュリアは女神様の紋章が入った雌雄一対の剣を持っておりました」

「偽物でなければノルン様の使者か……」


 そうなる。


「おそらくはそうかと……これは大魔導士ホリーから知らされたことです」

「引退して田舎に引っ込んだあの魔女か……では、信憑性は高そうだな。しかし、なんでそんな者が現れる?」


 大事なのはそこになる。


「私見でよろしければ……」

「構わん」


 陛下が頷く。


「その3人は旅をしていると言っていました。食を楽しんだり、観光目的らしいです」

「旅行だな」


 あれはどう見てもそう。


「ハルトもジュリアも若かったです。それに結婚しているらしいのですが、まだ初々しさが感じられました」

「新婚旅行か……」

「そう思います。異界の神と親交があった女神様が招いたのでは?」

「よくわからんが、そういうこともあるかもな。神々の考えはわからん」


 当然、私もわからない。


「あの3人はお気楽すぎるのです。焦りも見えませんし、ただただ楽しんでいるように見えました。ドラゴンを討伐する理由もドラゴン肉目当てでしたし、何かの使命があって、やってきたわけではないかと……」

「なるほどな……仕官は拒否だったな?」

「はい。異界の者ならいずれは帰るでしょうから……」


 実際、嫌そうだった。


「では、我々はどうするべきだ?」

「下手に動くと女神様から反感を買う恐れがあります。普通に客として楽しんでもらえればよろしいかと……」

「わかった。そなたに任せる。ただ、ドラゴンの魔石を売ってほしいと伝えてくれ。記念になるし、名誉だ。もちろん、色は付ける」


 それくらいは問題ないだろう。


「かしこまりました。ドラゴン肉はいかがします? 自分達の分以外はいらないと譲ってくれたのですが、かなり余ります」

「もらおう。礼に通行証を出してやれ。この辺りの地域の国々ならそれでトラブルなく通れるだろう」


 あの3人は異世界人だからか、若干、異質なところがある。

 しかし、陛下の名前入りの通行証があれば変に思われることもないだろう。


「では、そのように」

「うむ。ロバート、帰るぞ」

「はっ!」


 陛下は敷地を出て、馬車に乗り込むと、ロバートを先頭に城へ帰っていった。

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