第038話 ドラゴンスレイヤー


「終わったかー?」

「ハルトさん、すごいです!」


 無駄に綺麗なファイアードラゴンの氷漬けを見ていると、サクヤ様とジュリアさんがやってくる。


「鮮度を意識して、氷にしましたよ」


 本当は上空にいる相手にでも使えるのだが、落ちたらマズい。

 まだこの山に落ちてくれるならいいが、山の下に落ちたら面倒だからだ。


「よくやった。これなら問題あるまい」

「でも、どうやって運ぶんです?」


 それなー……


「運ぶのは我々がやりましょう。ロクに仕事をしていませんし、それくらいはします」


 ロバートさんがそう提案しながらカーティスさんと共にやってくる。


「いいんですか?」

「構いませんよ。ちょっと兵を呼んで荷車等を手配してきますので休んでいてください」


 ロバートさんはそう言って、山を下りていった。


「うーむ、やはりどう見てもファイアードラゴンだな……」


 カーティスさんがじーっと凍ったファイアードラゴンを眺めている。


「これ、どうすればいいんですかね? どっかの料理屋で作ってくれます?」

「難しいと思うな。ウチで引き取ろうか? 解体業者に頼めるし、ウチのシェフが料理もしてくれるだろう」


 おー、すごい!


「お願いしてもいいですか? 正直、持て余します」

「だろうな。構わんぞ。それにしてもおぬしはドラゴンスレイヤーになったな」


 ドラゴンをスレイしたんだからドラゴンスレイヤーだわな。


「何かあるんですか?」

「名が上がる。英雄とまではいかんが、冒険者ギルドでも魔法ギルドでも一目置かれるだろう」


 まだ最初の国から出ていないのに……


「良い仕事が回ってくると良いんですがねー」

「それは期待できると思うぞ」


 なら良いか。


 俺達は休むことにし、ファイアードラゴンの写真を撮ったり、岩山からの眺めを楽しみながらロバートさんを待つ。

 しばらくすると、ロバートさんと共に荷車を持った兵士の皆さんがやってきて、凍ったファイアードラゴンを乗せた。


「これ、死んでるんですかね?」


 今さらながらに思う。

 解凍したら動き出すとかない?

 そうすると、危険なドラゴンを王都に連れてきた最低野郎になっちゃうんですけど。


「死んでおるぞ」

「死んでますね」

「魔力を感じないし、完全に息絶えているな」

「そうですね。死んでます」


 俺以外、皆、わかるらしい。


「じゃあいいです」


 俺達は兵士人達を先頭に山を下り、王都に帰還した。

 ファイアードラゴンをカーティスさんの本邸に運ぶために王都の町中を歩いているのだが、通行人や露店商の人が荷車に乗っている氷のファイアードラゴンをガン見している。

 さらには俺達に視線が集まっている気がする。


「目立ってません?」

「そりゃそうじゃろ。ドラゴンじゃぞ。胸を張って歩けよ。岩見家の当主の名を知らしめると良い」


 あっちではただのサラリーマンなのになー……


 俺達は視線を感じながら歩いていき、住宅街にやってくる。

 さらにそこから奥に歩くと、徐々に建物の大きさが大きくなってきた。


「高級住宅街ですかね?」


 屋敷も立派だし、庭も広い。

 しかも、ところどころに門番らしき武器を持った人が立っている。


「多分、そうじゃろ。カーティスは貴族らしいし」


 俺は狭いアパートなのにすごいなーっと思っていると、とある屋敷の前で止まった。


「ここが私の家になる」


 カーティスさんが紹介してくれたのだが、めちゃくちゃ大きいし、庭も広い。


「すごいっすね」

「岩見の屋敷も昔はこれくらい……いや、ないか」

「綺麗ですし、シンメトリーが見事です」


 うーん、カーティスさんってお偉いさんのような気がしてきた。


「古くてあちこち傷んできているし、たいしたものではないよ。それよりも解体には時間がかかる。夕食にドラゴン料理を振舞うから夕方にでも来てくれんか?」

「わかりました。あ、持て余すので家の皆さんでも食べてください。俺達は食べられる分だけあればいいので」


 冷凍庫に入んないし。


「そうか? 感謝する。それと肉以外の素材は売却でいいか? ドラゴンの鱗なんかも売れるんだよ。若い種でまだ柔らかいと思うからそこまで高くはならないと思うが……」

「お願いします。やっぱり持て余しちゃうんでお金が良いです」

「わかった。その辺りの売却には時間がかかると思う。旅をしていると言っていたが、すぐに出るのか?」


 うーん、どうしよ?

 正直、転移で食べに来るんだよなー。

 それに本も借りたいし。


「ちょこちょこ顔は見せると思いますので急ぎはしません」

「なら少し時間をもらおう」

「ありがとうございます。では、夕方にまた来ますので」

「うむ」


 カーティスさんが頷いたのでロバートさんにもお礼を言い、この場をあとにする。


「これからどうします? 冒険者ギルドとか魔法ギルドに行きます?」


 当初の予定である火の国の情報収集がある。


「町も騒がしくなっておるし、ギルドでは囲まれるかもしれんぞ?」


 ありうる……


「今日は帰りますか」

「そうじゃの」

「では、お願いします」


 俺達は誰もいない裏道に入ると、転移を使って家に帰る。

 すると、やっぱりノルン様がおり、ゲームをしていた。


「あ、ノルン様、こんにちはー」

「こんにちは」


 俺とジュリアさんが挨拶をする。


「ちょうどいいところに帰ってきましたね。ジュリアさん、手伝いなさい」


 カー〇ィーか……


「あ、はい」


 ジュリアさんはノルン様の隣に座り、コントローラーを手に取った。


「ハルトさん、なんか電話が鳴ってましたよ」


 ノルン様がテーブルの上に置いてあるスマホを指差す。


「あ、すみません。ありがとうございます」


 上司からじゃありませんようにと思いながらスマホを見た。


「あー……」


 向こうから来たか……


「誰じゃ?」

「浅井さん」

「え? ウチですか?」


 ジュリアさんが驚いた顔で見てくる。


「まあ……ちょっとかけるわ」


 さすがにスルーはできないので電話をかけることにした。

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