第034話 ダメ人間になりそう


 カウンセリングを終わりにし、受付に戻ると、ジュリアさんを待つことにした。

 そこでも山中さんから色々聞かれたので適当に答えていると、ジュリアさんが戻ってくる。


「お待たせしました」

「何か異常とかあった?」

「特には……ちょっとカウンセリング……カウンセリング? なんかそんな感じのが長かったです」


 こっちと同じ感じかもな。

 特に秋山さんは根掘り葉掘り聞いてくる人だし。


「こっちもだね。帰ろうか」

「はい。山中さん、お疲れ様でした」

「はーい。お疲れ様」


 俺達は2階に降りると、ビルを出て、車に乗り込む。


「午後からどこかに行く?」

「いえ、昨日出かけましたし、家でゆっくりしたいです。あの……ゲームしに行ってもいいです?」

「もちろんだよ」


 車を走らせ、家に帰ると、サクヤ様がジュリアさんのノートパソコンでアニメを見ていた。


「ん? もう帰ったのか?」


 サクヤ様が顔を上げる。


「ええ。今日は結果を聞くだけですからね」

「そうか。どこかに出かないのか?」

「今日はゲームです」

「ほーん。家に籠ってゲームの何が楽しいかわからんの」


 アニメをかぶりついて見ている人に言われても……


「アニメは面白いです?」

「うむ。最近はすごいのう。こうやって昔のシリーズが見れる。ビデオデッキで録画していた時代が懐かしい」


 お婆ちゃんだな。


 サクヤ様に呆れながらもジュリアさんがゲームを始めたのでそれを眺めながら魔石を取り出す魔法の練習をする。

 そのまま午後から家で過ごしていると、夕方になった。


「ハルト、夕食はどうする? 王都にでも行くか?」


 せっかくジュリアさんもいるし、それが良いかもしれないな。


「あ、あの、良かったらウチで食べませんか?」


 ジュリアさんがコントローラーを置き、手をもじもじさせながら提案してきた。


「ウチってジュリアさんの家? 作るの?」

「はい。お料理は好きですし、良かったらどうかなと……」


 断る選択肢はない。


「サクヤ様、せっかくですし、行きませんか?」

「そうじゃの」


 サクヤ様も悩むそぶりを見せずに頷く。


「ジュリアさん、嬉しいけど、いいの?」

「はい。頑張ります」

「じゃあ、お願いするよ」


 夕食はジュリアさんの家で食べることになると、ジュリアさんはゲームをセーブする。

 そして、サクヤ様が転移を使うと、さっきまでの部屋とは違い、明るい雰囲気のする部屋に飛んできた。


 ジュリアさんの部屋は俺の部屋とは違い、明らかに綺麗だったし、整理整頓されている。

 ベッドの掛け布団もちゃんと折りたたまれているし、本棚も綺麗に揃えられていた。

 それに良い匂いがするし、女の子の部屋って感じがする。

 まあ、女の子の部屋に入ったことないけど。


「綺麗だね」

「そんなことないですよ。じゃあ、準備しますので待っててください。漫画とか読んでていいですし、御自分の部屋だと思ってくつろいでください」


 ジュリアさんはそう言って、キッチンの方に向かう。

 すると、サクヤ様が持ってきているジュリアさんのノートパソコンでアニメの続きを見だした。


「サクヤ様、どうしましょう? ドキドキします」

「良いことじゃないか。せいぜい楽しめ」


 サクヤ様はアニメに夢中でこちらすら見ない。


「どうすればいいんです?」

「漫画でも読んでおけ」

「……はい」


 仕方がないので言われた通りに本棚から漫画を取り出し、読んでいく。

 読んだことない漫画だったのだが、かなり面白く、すぐに読み終えると、2巻を手に取った。

 そして、2巻を読み終えたのだが、3巻がない。


「ジュリアさーん、これの3巻はー?」


 料理をしているジュリアさんに聞く。

 エプロン姿がよく似合っていると思う。


「あ、それは2巻までです。3巻は来月発売ですね」

「そうなんだ……これ、面白いね」


 続きがすごく気になる。


「そうなんですよ。ネットでもかなり話題になってますね。アニメ化必至です」

「へー……あ、邪魔してごめん」

「いえいえー」


 仕方がないので本棚に戻すと、別の漫画を取り出し、寝転がって読んでいく。


「ドキドキはどうした? 馴染むの早すぎじゃろ」

「ドキドキしてますよ」

「さすがは当主と思っておいてやる」


 ずっとアニメを見ている守護神様も相当だけどな。


 俺達が各々好き勝手に過ごしていると、徐々に良い匂いが漂い始めた。


「良い匂いっすね」

「まだ言うか。ベッドにダイブでもせい」

「どう考えても違うでしょ」


 何を言ってんだ、この人。


「冗談じゃ。我の好物の生姜焼きじゃな」

「俺も作ってあげましたね」

「チンするだけのやつな」

「焼いた豚肉にかけるやつですよ」


 全然違う。


「――できましたよー」


 ジュリアさんが料理を持ってきてくれる。

 メニューは白米と味噌汁と生姜焼きだった。


「ほれ見い。生姜焼きじゃ」

「良かったですね」

「どうしたんです?」


 ジュリアさんが聞いてくる。


「サクヤ様の好物なんですよ。あ、俺も好き」

「それは良かったです。お口に合うと良いんですが」


 匂いだけで美味しいってわかるよ。


「では、いただくかの」

「そうですね」

「どうぞどうぞ」


 俺とサクヤ様は生姜焼きに箸を伸ばし、一口食べる。


「美味いの」

「ご飯に合いますね。ジュリアさん、料理上手なんだね」

「そうですか? 喜んでもらえたなら良かったです」


 いやー、すごい子だね。


 俺達はその後も食事を続けていき、あっという間に平らげてしまった。

 そして、ジュリアさんが淹れてくれたお茶を飲みながら一息つく。


「それにしても言ってた通りに漫画をいっぱい持ってるね」


 本棚を見る。


「そうですね。基本的には電子で買うんですけど、気に入ったやつはこうやって紙でも買っているんです」

「なるほど。じゃあ、ここにある漫画はジュリアさんのお気に入りなんだ」

「そうですね。いくらでもお貸ししますし、できたら読んでみてくださいよ。おすすめです」


 ジュリアさんはそう言うと、片付けをしだす。


「あ、さすがに手伝うよ」

「いえ。ハルトさんは明日から仕事ですよね。ゆっくりしてください」


 ジュリアさんは優しい笑みでそう言うと、食器を持って、キッチンに向かった。


「…………この縁談を断る理由があるか?」

「いやー……」


 ないなー。

 少なくとも、ジュリアさん個人には何もない。

 それどころか土下座するレベルだわ。

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