第033話 5階でも同じようなことを聞いている


 連休2日目も終わり、前半の休み最後となる日曜日。

 この日は組合に行く日なので朝から準備をし、ジュリアさんを迎えにいく。

 アパートに着き、ジュリアさんを助手席に乗せると、駅前の組合に向かった。

 そして、組合に到着したので車から降りる。


「よく考えたら組合もゴールデンウィークなのに大変だね」

「ですね。私達が平日仕事がある関係で土日も仕事ですから迷惑をかけちゃいますよね」


 組合に思うことがないかと言われるとあるのだが、それでも昔から知っている職員の人達を思うと、申し訳なくなってしまう。

 本当に良い人達なのだ。


 俺達は組合のビルに入ると、エレベーターに乗り、2階の受付に向かう。


「こんにちは」

「お疲れ様です」


 2人で受付にいる山中さんに声をかけた。


「こんにちはー。あれ? 2人?」

「ハルトさんに連れてきてもらったんですよ」

「へー。それは良かったね。ちょっと待ってね。村田君と秋山さんを呼ぶから」


 山中さんは笑顔で頷くと、内線をかける。

 しばらくすると、エレベーターから白衣を着た茶髪の女性が降りてきた。

 女性の魔法使いの健診を担当する秋山さんである。

 この秋山さんと受付の山中さん、そして、男性の魔法使いの健診を担当する村田さんは同級生らしい。


「2人で仲良く来るなんて珍しいこともあるもんねー」


 秋山さんが声をかけてくる。

 当然、この人も昔から知っている人だ。


「そんなこと…………ありますね」


 というか、遭遇することはあったけど、一緒に来たのは初めてだわ。


「まあいいわ。ジュリアちゃん、5階に行くよ」

「はい。では、ハルトさん。また……」

「うん」


 ジュリアさんは秋山さんと一緒にエレベーターに乗り、5階に行ってしまった。

 そして、そのまま待っていると、エレベーターが降りてきて、中から村田さんが出てくる。


「やあ、岩見君。せっかくの休みなのに悪いね」

「いえ。全然、大丈夫です」

「そうかい? じゃあ、4階に行こうか」

「そっすね」


 俺達はエレベーターに乗り、4階に上がっていく。

 そして、エレベーターを降り、この前も来た近くの部屋に入った。


「まあ、座ってよ」


 村田さんが席につきながら薦めてきたので丸椅子に座る。


「えーっと、まずだけど、健康は問題ないね。魔力もいつもと変わらずで特に異常はない」

「毎回、そう聞きますね」

「君は若いからね。異常がある方がヤバいでしょ」


 そりゃそうだ。


「健康で何よりです」

「特に君は気を付けてね。岩見家はもう君しかいないんだから」

「そうですね。気を付けます」

「身体の方はそんな感じ。帰りに診断表を渡すから気になることがあったら電話でもいいんで聞いて。君ら魔法使いさんが最優先だから」


 見てもわからないんだよなー。


「わかりました」

「それで心の方はどう?」


 心?


「精神的なことです?」

「そうそう。聞いたよー。浅井さんと一緒に来たんだって?」

「そうですね。意外と家が近かったんですよ」


 サクヤ様の転移でそれ以上になってるけど。


「うん。最近知ったことも驚きだけど、まあ、いいか。上手くいってる?」

「そうですね。あれからちゃんと話せるようになりましたし、一緒に出かけたりしてます。昨日も植物園に行きましたね」

「植物園? 渋いところ行くね……面白いの?」


 俺も若干、そう思っていた。


「行ってみると面白かったですよ。ちょっと人が多かったですけど」


 こればっかりは仕方がない。


「ふーん、じゃあ、上手くいってるわけね」

「そうですね。最近は頻繁に連絡を取り合っていますし、ウチにも来ます」

「…………この前来た時から考えると、進みすぎてない? 何かあった?」


 異世界のことは言えんな。


「ちゃんと話すようになって、映画に行ったんですけど、趣味が一緒だったんですよ。それで打ち解けた感じですかね」

「なるほどねー。まあ、浅井さんもだけど、君も普通にしゃべるし、コミュニケーション能力が低いわけじゃないから壁を乗り越えたら一気ってわけか。結婚するの?」

「まあ、それ前提の付き合いですからね。見合いですし」


 異世界ではすでに夫婦だ。


「ふむふむ。仲介した僕らとしたら嬉しい限りだね。浅井さんのところには連絡した?」

「してないですね。いつするもんなんですかね?」


 教えて、仲人。


「えーっと……まず君らの状況がわからない。お見合いして、特に何もなくここまで来たんだっけ?」

「ですね」

「だったらまずは向こうの家に意思を伝えるべきじゃない。結婚しますとまでは行かなくてもそれ前提のお付き合いをします、とかさ」


 な、なるほど。


「浅井さんかー」


 直接会うことになるんだろうなー。

 しかも、また2人きり。


「苦手?」

「うーん、何とも言いづらいですね」


 微妙……


「まあ、気持ちはわかるよ。岩見の当主である君からしたら頭を下げたくない相手でしょうし。でもさ、ここは大人になろう。向こうは頭を下げて、縁談を持ってきたんだよ? しかも、本家の御令嬢。今度は君が下げなよ。浅井の当主かもしれないけど、結婚したら義父だよ?」


 それもそうだ。


「ちょっと折を見て連絡してみます」

「そうしなよ。場所はいくらでも貸してあげるからさ」


 やっぱり会わないとマズいよな。

 仕方がない……ゴールデンウィーク明けくらいにでも連絡するか。


「わかりました。相談に乗ってくれてありがとうございます」

「いいよ。そういうカウンセリングも業務の内さ。それで? どこまでいった? デートして家に呼ぶくらいだし、キスくらいはしたでしょ?」


 それ、業務か?

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