第032話 植物園
家に戻り、一息つくと、ジュリアさんが帰っていったので明日の準備をし、早めに就寝した。
翌日、朝食を食べ終えると、着替え始める。
「植物園じゃったか? 上品なデートをするの」
布団で横になりながら肘をついているサクヤ様が聞いてくる。
「上品なお嬢様なんですよ」
実際、そう。
「我は動物園の方が良いと思うがの」
「隣の県ですから申請が必要ですね」
ウチの県には水族館しかない。
「泊まりでもないのにか? 面倒じゃのー」
そういうものだから仕方がない。
俺達はレッドデータブックに載っている天然記念物なのだ。
「動物なら狼やゴブリンを見たじゃないですか」
「面白くないわ。ドラゴンが見たいのう」
見てみたいね。
異世界にいるのかな?
「ジュリアさんがパソコンを持ってきてくれるそうですからアニメでも見てください。というか、今週の分がもう始まりません?」
「あ、そうじゃった」
サクヤ様は起き上がると、テレビを点けた。
「俺は植物を見てきますんで」
「夜は食べてから帰れよ。我はノルンと青船亭に並ぶから」
自分が考案したパスタを気に入ったか。
というか、ノルン様もかい。
「わかりました。お気を付けて」
「はいはい」
着替え終え、少し待っていると、ジュリアさんから今から向かうというメールが届いた。
さらにそのまま待っていると、チャイムが鳴ったので玄関に行き、扉を開ける。
すると、笑顔のジュリアさんが立っていた。
「お待たせしました。あ、これ、ノートパソコンです」
ジュリアさんがノートパソコンを渡してくる。
「ありがと。ちょっと待っててね。サクヤ様、ここに置いておきますからね」
テレビにかぶりついているサクヤ様にそう言いながらテーブルにノートパソコンを置いた。
「悪いのう……ジュリア、運転するらしいが、気を付けるんじゃぞ」
「はい」
「では、サクヤ様、行ってきます」
「んー」
俺とジュリアさんは部屋を出ると、ジュリアさんの車に乗り込む。
当然、運転するのはジュリアさんなので助手席に座った。
「では、出発します」
「お願い」
車が動き出したので景色を眺めながら到着を待つ。
「あ、お茶がありますんで良かったらどうぞ」
そう言われてドリンクホルダーを見ると、水筒が置いてあった。
「ありがとう。暖かくなってきたよね」
水筒を開け、お茶を注ぐ。
「ですね。今年の夏も暑くなるそうですよ」
このところ気温が尋常ないくらいに上がっている。
子供の頃は30°で十分に暑かったというのに。
「大変だね。お茶、美味しいよ」
「良かったです。付き合いのあるお茶農家さんからもらったんですよ」
うん……多分、ウチと一緒だろうね。
「ゴールデンウィークに友達と遊んだりしないの?」
「昨日の夜に電話があって、水曜日くらいに遊ぼうってなりましたね。こっちに帰ってくるそうです」
県外就職か。
俺の友達も大学に行ったり、県外に就職していた。
まあ、俺もなんだけど。
「良かったね」
「はい。ゴールデンウィークの予定がないなーって思ってましたけど、いっぱい予定ができましたし、楽しくて嬉しいです」
これまでほとんど誘わなかった俺が悪いんだろうなー。
サクヤ様が言うように異世界以外もちゃんと誘った方が良いなと思いつつ、話をし、到着を待った。
そして、30分ぐらい経つと、昔懐かしき植物園に到着する。
「人が多いね」
駐車場には結構な車が止まっていた。
「ゴールデンウィークですからね」
俺達は車から降り、植物園に入る。
すると、いきなりたくさんの薔薇が出迎えてくれた。
「綺麗ですね」
ジュリアさんがしゃがんで薔薇を覗く。
「そうだね。なんかジュリアさんに似合うよ」
絵になるわ。
「ありがとうございます。ハルトさんは前に来たことあるんですよね? こんな感じでした?」
「いや、結構変わっていると思う。20年も前だしね」
それから一度も来ていない。
「じゃあ、新鮮な気分で見られますね。行きましょう」
俺達は園内を回ることにし、様々な植物を見ていく。
知っているのもあったが、ほとんどが知らない植物だった。
園内は広く、種類も多い。
それに綺麗な花から外国の謎の植物も多くあり、例のウツボカズラやラフレシアもあった。
ここを提案してくれたジュリアさんに悪いのだが、実はそこまで期待していなかった。
というのも、子供の頃に見た時の記憶がほとんどなく、遊びまわっていた記憶ばかりだったからだ。
でも、この歳になって、改めて来てみると、かなり楽しい。
そして何より、ジュリアさんと来れたのが良かったのだと思う。
それくらいにジュリアさんは楽しそうだし、はしゃいでいた。
そんなジュリアさんを見ていると、こっちもより楽しい気分になれたのだ。
その後、午前中で半分くらい見て回ると、園内にあるカフェで昼食を食べる。
「植物園って面白いね」
「そうですね。すごく楽しいです」
ホントにねー。
「正直さ、地元のこういうところは子供の頃に行き尽くしたし、見るところはないって思ってたけど、全然あるね」
大人になってからは行くことがないから気付けなかった。
「そうですね。遠足なんかであちこちに行きましたが、今行くと、変わった景色になるんだと思います」
もう10回以上は行ってる城とかも違うんだろうか?
「せっかくだし、また色々回ってみようか」
「そうですね。異世界も良いですけど、地元を見つめ直すのも良いことだと思います」
サクヤ様は興味ないし、行くなら一人だった。
当然行かなかったが、ジュリアさんとなら楽しい気がする。
「だね。火山見たいけど」
「私は湖が気になります」
ジュリアさんもカーティスさんの話を聞いて、気になっていたらしい。
「サクヤ様はドラゴンが見たいんだって」
「それは私も見たいです。火を吹くんですかね?」
どうだろ?
「そっちも楽しいだろうけど、午後からは穏やかな植物を見ようか」
「そうですね。心が安らぐ気持ちになります」
ラフレシアはならなかったけどね。
俺達は昼食を終え、午後からも園内を見て回った。
そして、すべてを見終わった時には4時半だったので帰ることにする。
「ジュリアさん、晩御飯も食べて帰ろうよ」
帰りの車内で運転しているジュリアさんを誘う。
「いいですね。でも、サクヤ様は?」
「今日はノルン様と青船亭で魚介の煮込みパスタを食べるらしいよ」
「あー、あれですか。美味しかったですもんね。でも、ノルン様もですか……」
「フットワークの軽い神様なんだよ」
神様2人が並んでいる光景を想像すると、ちょっとシュールだ。
「確かにそんな感じはしますね。どこに行きます?」
「ジュリアさんは食べたい物とかある? この時間だし、どこも空いていると思うよ。何だったら居酒屋でお酒にチャレンジしてもいい」
「お酒は気になりますね。でも、明日は組合なんでやめておきます。あの、良かったらラーメン屋に連れていってくれません?」
ラーメン屋……似合わないが……
「好きなんだっけ?」
「ええ。でも、女性一人では行きにくいです。昔はお爺ちゃんやお父さんが連れていってくれたりもしましたが、最近は行ってないんです」
浅井さんのところも忙しいのかね?
「じゃあ、行ってみようか」
「はい。どこですかね?」
「駅近くかな? 案内するよ」
「お願いします」
運転するジュリアさんを案内しながら駅までやってくると、たまに行くラーメン屋に行き、2人でラーメンを食べた。
そして、ジュリアさんに送ってもらい、家に戻ると、何故かサクヤ様とノルン様がビールで乾杯していた。
禁酒は解禁したらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます