第016話 映画


 時刻は19時前となった。

 ショッピングモールの立体駐車場に車を止めた俺はエスカレーターで待ち合わせ場所である3階の休憩スペースにやってくる。

 すると、ソファーに腰かけ、スマホを見ているジュリアさんが見えた。


 ジュリアさんは会社の制服を着ており、髪をまとめている。

 会社が終わって、直接来たのだろう。


「ジュリアさん」


 声をかけると、ジュリアさんが顔を上げ、立ち上がった。


「あ、こんばんは」

「こんばんは。遅れちゃってごめんね」

「いえ、まだ時間じゃないですよ」


 ジュリアさんが優しい笑みのまま、首を横に振る。


「会社から直接来たの?」

「あー……実はちょっとだけ残業になって微妙な時間になったんですよ。家に帰ると遅れちゃいそうになったのでこのまま来ました」


 ということは結構、待ってたな、これ……


「そう……大変だね。お腹は空いた? 映画見てからご飯でもって言ったけど、先に食べてからでもいいよ?」

「いえ、まだ空いてないですし、後で大丈夫です」


 俺も空いてない。


「じゃあ、映画に行こうか」

「はい」


 俺達は並んで歩いていき、映画館を目指す。

 道中でサクヤ様の関係性を進めよという言葉が脳裏をよぎったので手でも握ろうかなと思ったが、さすがにそれは違うなと思ってやめた。


「あまり人がいませんね」


 店員の方が多いんじゃないかっていうくらいに客がいない。

 まあ、平日のこの時間はそんなものだろう。

 とはいえ、1階のスーパーのコーナーは多いだろうし、明日になればものすごく多くなる。


「映画館も空いているよ。サクヤ様と一緒に行く時は平日だね」


 子供がうるさいもん。

 何しろ、サクヤ様が見たい映画は女児アニメだから。


「私も映画を見る時は夜ですね」

「へー……」


 俺達は映画館までやってくると、上映中の映画を確認する。


「何を見ます?」

「ジュリアさんは見たいものとかあるの? 俺はアニメのやつが見たい」

「アニメ……」


 ダメかなー……


「いや、別のでもいいよ?」

「あ、いえ……あのアニメのやつは見ようと思っていたやつですし、せっかくなので一緒に見ましょう」


 あれ? 見るつもりだったの?

 それとも優しい嘘だろうか?


「じゃあ、そうしようか」

「はい」


 俺達はチケットを購入し、ポップコーンと飲み物を買うと、映画館に入った。

 そして、指定した席についたが、上映時間までもうちょっとだけある。


「人がいないね……」


 俺らしかいない。

 マジか……

 いつもはこの時間でも数人くらいいるのに。


「こういう言い方はあれですけど、田舎ですからね」


 まあね……


「貸し切りだと思って楽しもうよ」

「確かにそうですね。このアニメは気になってたやつなんですよ。知ってます? 漫画原作のやつですよ? 私、持ってるんです」


 あれ? すげー饒舌だ。

 本気で見たかったのか?


「俺はまだ読んでない。映画になるって聞いたから映画で見ようと思ったんだよ」

「じゃあ、ネタバレになるので言わないようにします」

「う、うん」


 話をしていると、場内が暗くなり、宣伝用の予告が始まった。

 そして、映画が始まったので見ていく。


 アニメは王道と言えば王道の冒険ものだった。

 主人公がいて、ヒロインがいる。

 もちろん、他の仲間もいて、協力して巨悪を倒す。

 そして、最終的には主人公とヒロインが結ばれてハッピーエンド。


 こうやっておおざっぱに説明すると、面白くないかもしれないが、さすがは王道であり、押さえるところは押さえていて面白い。

 実際、この先はどうなるんだろうと思いながら見ていき、あっという間に終わってしまった。


「面白かったですね……」


 ジュリアさんがエンドロールを見ながらつぶやく。


「そうだね。没入感がすごかったよ」

「多分、配信されたらもう1回見ると思います」

「俺も……」


 それくらいに面白かった。

 それと同時にこれからの異世界の旅が楽しみで仕方がない。

 明日、絶対に行きたいと思った。


「出ましょうか」

「そうだね」


 エンドロールも終わったので立ち上がり、映画館を出る。

 そして、ショッピングモール内の店が閉まっていることに気が付いた。


「あー……もう9時だもんね」


 やっているのは映画館だけでレストランなんかも閉まっているだろう。


「外で食べましょう」


 と言われても、この時間、空いてるか?

 居酒屋くらいしか思い浮かばない。


「うーん……」

「ファミレスでも行きませんか? あそこなら空いていると思います」


 まあ、24時間営業だしね。


「大丈夫?」

「え? はい。あ、この時間は少し騒がしいかもしれませんね」


 そういうことじゃないんだが……


「じゃあ、ファミレスに行こうか。あっちにあるスーパーの近くのやつが近いかな? 交差点のところ」

「確かに近いのはそこですね。じゃあ、行きましょうか」


 俺達は車を止めてある立体駐車場まで行くと、それぞれの車に乗り、ファミレスに向かう。


「一緒の車で来れば良かったな……」


 信号待ちの車内でポツリと言葉が出た。

 よく考えたら家にでも会社にでも迎えに行くべきだったかもしれない。

 これまで食事を共にしたりしたこともあったが、いつもそのまま現地解散だった。

 いやらしい意味ではないが、それでは次がない。

 この後、どこかに買い物でも行こうとか、観光地でも見に行こうでもいい。

 一緒の車ならそういう発想が出てくるが、別だと出てこない。


「友達と遊ぶ時も普通は同じ車だわ。ハァ……まあいい。次からはそうしよう」


 ため息が出たが、それでもまだ大丈夫と言い聞かせ、ファミレスに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る