第075話 神殿


 翌日の日曜日は神殿に行く日である。

 朝起きた俺達は朝風呂と朝食を満喫し、準備をする。

 そして、9時くらいには別荘を出て、駅に向かった。


「やっぱり多いなー……」


 駅は相変わらず、人が多く、賑わっている。

 都会の方ならともかく、ウチの町はこんな時間にはまだそこまで人はいない。


「まだ9時なんですけどね」

「ジュリアの予測通りにこっち世界の人間の始動が早いんじゃろ」


 多分、それだろうな。


「えーっと、教区でしたよね?」

「そう言っておったの」

「あそこのトロッコだと思います」


 ジュリアさんが言うように教区方面行と書いてある。


「よし、行くかの」


 俺達は教区方面のレーンに向かい、駅員さんにフリーパスカードを見せて列車に乗り込んだ。

 教区方面のトロッコはそこまで人はおらず、空いていたので席に座って出発を待つ。


「繁華街と住居区の移動が混むみたいですね」

「みたいじゃな。教区はお堅いイメージがあるし、あまり人気がないのかもしれんの」


 眺めも繁華街と住居区の方が良いしなー。

 山が壮大なんだけど。


 俺達が話をしていると、トロッコが動き出したので外を眺めながら到着を待つ。

 そして、トロッコが終点である教区に着いたのでトロッコを降り、駅を出た。


「涼しくて良いですねー」


 ジュリアさんが手を上げて、身体を伸ばす。


「避暑地っていうのもわかるよね」


 俺達は歩いていき、神殿ではなく、神殿右にある張り出しの展望台にやってきた。


「山はすごいですね」

「だよねー。そして、今日もワイバーンが飛んでるね」

「異世界ですねー」


 ホント、ホント。


「ハルト、ここから魔法で撃ち落とせるか?」

「無理ですよ。届きませんし、届いたとしても当たりません。というか、仕留めても回収できないじゃないですか」


 どう短く見積もって1キロ以上はある。


「それもそうじゃの。ワイバーン肉も食べてみたいんじゃが……」


 それは俺もそう思う。


「またハワードさんに狩りの方法を聞いて、やってみましょうか」

「それがええの」


 俺達は展望台から離れると、神殿の方に行く。

 神殿は3階建てくらいの高さがあり、かなり大きい。


「入っていいんですよね?」

「サラはいつでも来てくださいって言っておったしの。それに荷物があるんじゃから入らんといけんだろ」


 それもそうだ。


「じゃあ、行きます」


 扉を開け、そーっと中を覗く。

 中はかなり広く、天井も高い。

 教会の聖堂のようでステンドグラスから入る日光で明るく、非常に芸術性に富んでいた。

 数人の観光客らしき人もおり、普通に入っていい施設のようだ。


「綺麗だね」

「はい。すごいです……これを人力で作ったのがさらにすごいですね」


 ホントだわ。


 俺達が建物の内部を見渡しながら奥に歩いていると、神父らしき初老の男性がやってくる。


「失礼。ハルト様御一行ですかな?」

「えっと、はい。あの、フロック王国の王都から荷物が届いているのでどうぞ」


 神父さんに荷物を渡す。


「わざわざありがとうございます」

「あ、ここにサインを」


 そう言って紙を渡すと、神父さんがサインをしてくれた。


「どうぞ」

「はい、確かに……サラさんと会う約束をしているのですが、おられますか?」

「話は聞いております。今、サラをお呼びします」

「お願いします」


 神父さんが奥に行ったので引き続き、聖堂を眺めながら待つ。

 すると、すぐにサラさんがやってきた。


「おはようございます。先日はありがとうございました」


 サラさんが礼を言いながら丁寧に頭を下げる。


「いえいえ、ご一緒できて良かったですよ」

「はい、お話を聞けて楽しかったです」


 俺とジュリアさんが笑顔で頷いた。


「私も美味しかったですし、久しぶりに人と食べたので楽しかったです」

「人と食べないんですか?」

「辛いもの好きの友人があまりいませんので。元々、この地の辛いものは寒い冬に食べていたものなんですよ。それが観光客に人気になり、今みたいになっているんです。ですので、地元の人はこの時期にあまり食べません」


 冬に辛いものを食べて、温まろうって感じか。


「そういうことなんですね。俺は年中でも食べたいですけど」

「私もですね。まあ、その辺りは嗜好です」


 そりゃそうだ。


「ここ、すごく綺麗ですね。大変だったんじゃないですか?」


 ジュリアさんが高い天井を見上げながら聞く。


「大変だったみたいですよ。ただ、実を言うと、改築に改築を重ねています。ここができた当初はもっと質素でしたね。そこから色々な国や資産家さん達の援助や募金で見栄えを良くし、トロッコができてからは一気にここまで来ました。それでも資材の搬入はとても苦労したようです」


 へー……


「そういう資料館みたいなのはないんですか?」

「ありませんねー。作ろうという動きがないわけでないのですが、観光としての価値があるかというと微妙です。ここも綺麗だと思いますが、他の聖都の方が圧倒的に大きいですし、豪華なんですよ」


 他の聖都か……


「水の国とかです?」

「そうですね。あそこは神殿が湖の中にあり、非常に人気です」

「湖の中?」

「魔法で水が入ってこないようにしている神殿です。ガラス張りみたいになっていまして魚とかも見れるんですよ」


 水族館かな?

 なんかすごそう。


「気になりますね?」


 水の国推しのジュリアさんが見てきた。


「そうだね。サラさん、聖都って他にはどこにあるんです?」

「南西の砂漠に土の国があります。あとは西にある風の国ですね。どちらも観光名所です。ただ、フロック王国からはちょっと遠いですね」


 となると、やはり次は水の国かな?


「へー……全部見て回りたいんですよねー」

「良いと思いますよ。そういう巡礼もあります。それぞれ良いところがあるんですよ。この地は眺め、温泉、辛いもの、それとあの火山ですね」

「あ、火山で思い出しました。ここって地震とかどうなんです?」


 それが聞きたくて来たんだった。


「では、こちらにどうぞ」


 サラさんがそう言って、促してきたため、左奥にある通路に向かっていった。

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