第004話 神 ★


「帰りもパパッとですかね?」

「そうじゃの。ちょっと裏道に入るか」


 俺達は建物と建物の間の小道に入る。


「周りには誰もいませんね」

「では、帰るかの」


 サクヤ様がそう言った瞬間、視界が変わり、見慣れた玄関に立っていた。


「すごいですね。俺も使えます?」

「さすがに人では無理じゃの」


 まあ、そうだろうな。

 仕組みもどれだけの魔力を使うのかも想像できない。

 というか、ワープだけでもすごいのに異世界って……

 まさしく神隠しだ。


「サクヤ様、お風呂を用意するのでお先にどうぞ」

「すまんのう」


 部屋に入ると、浴室に行き、風呂を準備した。

 そして、サクヤ様に先に入ってもらい、テレビをつけると、本棚を見る。


「なくなってるな……」


 本棚に収納していた漫画やライトノベルがごそっとなくなっている。


「いやー、いい湯じゃった。先にもらったぞー……ってどうした?」


 浴衣姿のサクヤ様が首を傾げる。


「いや、ノルン様がガッツリ持っていったなと……」


 そう言うと、サクヤ様も本棚を見た。


「あー……まあ、ノリノリじゃったし、気に入ったんじゃろ」

「かもしれませんね」


 まあいっかと思っていると、サクヤ様が俺の前に腰かけたのでドライヤーを取り、濡れているサクヤ様の髪を乾かしていく。


「明日はどうする?」

「明日も行きたいですね」

「じゃあ、行くかの」

「実際のところ、転移って大丈夫なんです? とんでもなく魔力というか、神力を使うとかありませんよね?」


 サクヤ様にそこまで負担はかけられない。


「そこはまったく問題ないの」

「ならいいですけど……じゃあ、俺も風呂に入ってきます」


 サクヤ様のドライヤーを終えたので風呂に入る。

 そして、風呂から上がると、テレビを見ながら過ごし、就寝した。


「ハルトー、起きろー」


 サクヤ様の声がしたので目が覚める。

 すると、サクヤ様が覗き込みながら俺の身体を揺すっていた。


「おはようございます。朝食はパンが良いですか? 米が良いですか?」

「昨日の夕食がパンじゃったから米がええの。いや、それよりも贈り物じゃぞ」


 サクヤ様が視線を落としたので見てみると、枕元に黒い服が畳んだ状態で置いてあった。


「あー、昨日頼んだ異世界用の服ですね。ノルン様が来られたんですか?」

「さあ? 我もさっき起きたばかりじゃ。サンタみたいじゃの」


 っぽいね。

 まあ、サンタさんは人の漫画とラノベを持っていかないけど。


「朝食を終えたら着替えてみます」


 キッチンに行き、朝食を用意する。

 とはいえ、冷凍した米をレンジで解凍し、納豆とインスタントの味噌汁だけだ。


「もういっそ異世界に移住したい気分ですね」


 朝食をテーブルに置き、サクヤ様と床に座って食べだす。


「それはそれで困るがな。でも、異世界でどーんっと儲けるのは良いと思う。おぬしの魔法ならそれも可能じゃろう」


 そうかねー?


「魔法使いの仕事ってあるんです?」

「あるみたいじゃぞ。魔法使いが集まるギルドや魔物退治の仕事もあるみたいじゃ」


 へー……


「今日はその辺を探ってみましょうか」

「そうじゃの」


 朝食を食べ終えると、洗い物をし、着替える。


「どうですかね?」


 ノルン様からもらった服は黒を基調としており、戦士という風には見えないが、旅人っぽくてなんか良い。


「うむ、似合っておるな。かっこいいぞ」

「どうも。逆にこの格好で外に出たら職質ですね」

「特に剣がマズいじゃろうな」


 まったくもってその通り。


「この格好の時に宅配便が来ても出ないように気を付けましょうね」

「そうじゃの。では、参ろうか」

「お願いします」


 頷くと、あっという間に視界が変わり、ちょっと暗くなった。


「あ、昨日帰った場所なんですね」


 建物と建物の間の小道に飛んできていた。


「セーブポイントから再開じゃな」


 ホント、ゲームだな……


「さっきの金稼ぎですけど、どうします?」

「基本はおぬしが決めよ。おすすめは魔法ギルドかの。おぬし、魔法使いじゃし」


 まあね。


「魔法ギルドって何ですか?」

「組合じゃな。おぬしが向こうで所属している組織のようなものじゃが、こちらは金も稼げるみたいじゃぞ」


 ウチの組合は管理されているだけで稼げないからな。

 稼げたら働いてない。


「どういうものです?」

「そこまではわからん。ノルンがおすすめしておるのが魔法ギルドと冒険者ギルドじゃ」


 ふーん……


「ノルン様がそうおっしゃっているのならそこに行って、話を聞いてみましょうか」

「ノルンが好きじゃのー」

「いや、運営が勧めるならそうするだけですよ」


 好きですけどね。


「そうかー? まあいい。では、魔法ギルドに行ってみるか。昨日、見つけておいたからの」

「ありがとうございます」


 俺達は小道から通りに出ると、サクヤ様の案内で魔法ギルドに向かう。

 そして、杖のマークの看板がある建物に入ったのだが、奥の受付にはローブを着込んだいかにも魔女っぽいお婆さんが頬杖をついていた。




 ◆◇◆




 私は暇だなーと思いながらカウンターに肘を乗せ、頬づえをついていた。

 客はゼロだし、暇すぎるのだ。

 そう思っていると、入口の扉が開き、2人の客が入ってきた。

 そして、その2人を見た瞬間、頬杖をつくのをやめ、じーっと見る。


 片方は20代くらいの男でもう1人は少女だ。

 兄妹かなと思ったが、髪の色が違う。

 まあ、両親で違う場合もあるから何とも言えないが、そんなことはどうでもいい。


 なんだ、この男……?

 隠しているようだが、とんでもない魔力量だぞ……

 50年以上生きているが、これほどまでの魔力は見たことがない。

 それに……より不気味なのは少女の方だ。

 逆にこっちは何も見えない。

 魔力をまったく感じないどころか何も見えない。

 いや、それどころか存在自体が……


「すみません、ちょっといいですか?」


 2人がこちらにやってくると、男の方が声をかけてきた。


「何だい?」


 近くで見ると、よりわかる。

 魔力量も質もとんでもない。


「ここって魔法ギルドで合ってますよね?」

「合ってるよ。繁盛してなくて悪いね。この町はあまり魔法使いがいないんだよ」

「そうなんですか……あのー、魔法ギルドってどういうところです?」


 は?

 ……いや、こいつ、駆け出しだ。

 服がやけに綺麗だし、腰の剣だって使ってなさそうなくらいに新品に見える。

 どっかのボンボンが己の才能に気付いて一花咲かせようってところかな?


「魔法ギルドっていうのは魔法使いの寄り合いさ。ギルドっていうのは商人でも冒険者でもなんでもあるよ」

「へー……管理する感じです?」


 管理……

 この言葉が出てくるということは貴族っぽいね。


「まあ、そういう面もあるけど、第一は協力しようってことだよ。情報共有したり、依頼を出したりね」

「依頼っていうのは?」


 決定。

 絶対に庶民じゃない。


「魔法も色々と物がいるからね。特殊な素材を欲したりするけど、魔法使いは体力がない奴が多いから採りに行けないだろう? そういうのを依頼に出すんだ。私達はそれを他の魔法使いにお願いしたり、時には別のギルドに問い合わせたりするんだよ。他にも色んな相談に乗るね。あんたは何が欲しいんだい?」


 用件があったから来たんだろう?


「実は旅をしているんですけど、路銀がそろそろ厳しくてですね……何か金儲けできません?」


 家を出る前に大金を持ってきたけど、豪遊しすぎて尽きたって感じかな?


「そうだねー……それこそ依頼だよ。他の魔法使いやギルドから依頼がある。当然、報酬は出るよ。あとはなんて言ったって魔石だね。これを持ってくればいくらでも買い取るよ」

「サクヤ様、魔石って何です?」


 え? 魔石も知らない?

 とんでもないボンボンだね……

 というか、様付けなところを見ると、こっちのお嬢ちゃんの方が偉いのか?


「魔物の体内にある魔力を持った石じゃな。体内に魔石を持つものを魔物と呼ぶ。そして、この魔石はありとあらゆるところで使われるからどこでも買い取ってくれるぞ」

「え? じゃあ、オークをイグニッションでぶっ飛ばしたのは失敗でしたか?」


 ぶっ飛ばした……

 今朝から遠くの平原に大穴が開いているって騒ぎになってたけど、犯人はこいつかい……

 まあ、これだけの魔力があればそれも可能だろう。


「そうじゃの。まあ、失敗はあるし、誰にでも初めてはある。次からは魔法を選べ」

「わかりました。それで…………あ、自己紹介がまだでしたね。私はハルトと言います。こちらはサクヤ様です。私はどうでもいいですが、サクヤ様に不敬のないように」


 不敬……

 なんかヤバそうな気がする。

 こいつら、お姫様と駆け落ちした貴族のガキじゃないだろうね……


「私はホリーだよ」

「よろしくお願いします。それでホリーさん、魔物を倒して魔石を集めればいいんですかね?」


 うーん、言葉使いは貴族っぽくないんだよなー……


「まあ、それで金にはなるよ。ただ魔石にもランクがあってね。低ランクを持ってこられても安く買い取る。強い魔物の方が良いランクの魔石を持っているから金になるね」

「うーん……どうしましょうか?」


 ハルトの方がサクヤ様に聞く。


「いきなり大金を稼ぐのは無理じゃろ。少しずつやっていくべきじゃな。まずは近くの森で適当な魔物を狩って金を稼ごう。ノルンもそれを勧めておる」


 え? ノルン?

 この世界にノルンという名は女神様しかいない。


「ノルン様がそうおっしゃるならそうしましょうか」

「ノルンが好きじゃのー」

「運営第一ですって」


 あ、こいつら、想像以上にヤバい。

 異界の神とその眷属だ。


「何を言ってるかわからないけど、確かにおすすめは近くの森だよ」

「じゃあ、ちょっとそっちの方に行ってきます」

「そうしな。あ、それとあんたも魔法使いだろ? ウチの所属にならないかい?」


 これは対応を間違えるとマズいことになりそうだ。


「所属すると何か良いことがあるんですか?」

「ギルドっていうのは国を跨いでいる組織だからね。あんたらが他所の国に行く時にウチがあんたらの身分を証明するんだよ。あんたはかなりの魔法使いに見えるし、どこに行っても優遇されると思うよ」


 そう通達するからね。


「へー……じゃあ、そうしようかな。どう思います?」


 またもや、ハルトの方がサクヤ様に確認する。


「いいんじゃないか? 色んなところを見て回りたいんじゃろ? だったら必要なことだろう」

「わかりました。ホリーさん、所属の方向でお願いします」


 やはり腰が低い。


「わかったよ。これから森に行くのかい?」

「ええ。行ってみます」


 ハルトが頷いた。


「だったら魔石をウチに持って帰りな。その間にギルドカードを作っておくよ」

「ありがとうございます。では、行ってきますね」

「あいよ。気を付けてね」


 ハルトは軽く頭を下げると、ギルドを出ていった。


「ふう……」


 あの2人は間違いなく、異界の神とその眷属だろう。

 これはギルドで共有しておかないといけない重要事項だ。

 ハルトは腰が低く、問題を起こすような人間には見えなかった。

 だが、『不敬のないのように』という言葉通り、サクヤ様に不敬を働いたら容赦なく攻撃してくるだろう。

 巫女もそうだが、神の眷属は自分のところの神こそが絶対だ。


 あれだけの魔力を持ち、大穴を開けられる魔法使い……

 そして、女神ノルン様が招いた客でもある。

 トラブルだけは絶対に避けなければならないだろう。

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