第003話 異世界の町


 俺達はそのまま街道を歩いていくと、丘を登っていく。

 そして、頂上に着くと、丘の下の先に壁に囲まれた町が見えてきた。


「あれかな?」

「じゃろうな」

「しかし、魔物が出てきませんでしたね」

「街道は特殊な魔法がかかっているらしく、滅多に魔物は出てこらんらしいぞ。道から逸れたり、森や山の中にはうじゃうじゃいるらしい」


 サクヤ様が町の先に見える森を指差す。


「へー……ウチの町も田舎ですけど、なんか全然違う光景ですね」


 丘の上から見ると、本当にゲームの世界みたいな光景が広がっている。


「そういう世界を探したからのう……」

「他にもあるんですか?」

「あるぞ。おぬしがSF好きだったらスペースウォーズな世界に連れていった」


 そっちはそっちで気になるな……

 でも、魔法が微妙そうだからこの世界でいいか。

 ノルン様、美人だし。

 エイリアンみたいな女神様は嫌。


「町って普通に入れるんですかね?」

「らしいぞ。まあ、行ってみよう」

「わかりました」


 俺達は丘を降り、町に向かう。

 すると、門の前には槍を持った兵士らしき男性がおり、俺達をジロジロと見てきた。


「あ、通ったらダメです?」


 あまりにも見てくるからこちらから声をかける。


「いや、そういう訳ではないが……見慣れない格好だな」


 あー……日本の服だしな。

 地味なシャツにズボンだが、この世界には合ってない気がする。


「珍しい服を手に入れたんですよ」

「ふーん……貴族の道楽か何かか……? 一応、聞くが、この町には何故?」


 ノルン様に聞いてくださいよー。


「旅をしているんですよ。世界を見て回ろうと思いましてね」

「へー……この町は特に見ることないが、ボアのバター焼きが有名だぞ。食っていくといい」


 ちょっと気になるな。


「どこで食べられるんです?」

「定食屋や飲み屋に行けばどこでもある。名物だからな」

「わかりました。行ってみます」

「ああ。是非、食べてみてくれ」


 兵士の人が頷いたので町の中に入った。

 町の中は現代とは違い、高い建物はなく、すべて平屋なのだが、すべて木造でどこか温かみを感じさせる。

 通りには普通の町人らしき人に加え、剣や鎧を装備している剣士、さらにはローブを着て、杖を持つ異世界とはいえ、同業らしき人も歩いていた。


「すごいっすね」

「じゃろー? 勇者ハルトの冒険の始まりじゃな」


 ノルン様から剣をもらったし、勇者でいいのかもしれない。

 でも、俺、魔法使いです。


「夕飯はさっき言ってたボアのバター焼きにしませんか?」


 多分、もらったお金で買えるだろ。


「ええの。とはいえ、少し早いな」


 スマホを取り出し、時間を見ると、まだ15時くらいだった。

 なお、当然、圏外だ。


「ちょっと町を見て回りましょう」

「そうするか」


 俺達は門から離れ、町中をキョロキョロと見渡しながら歩いていく。


「昔、世界を旅する旅行記の番組が好きだったんですよ……」


 ふと川を眺めながら言葉が漏れた。


「知っておる。子供が見る番組ではなかったな」


 かもしれない。


「世界って広いんだなと思いました。そして、あれから20年近く経ちましたが、俺はどこにも行けませんでしたし、東京からも帰ってきました」


 東京で何をしたかったのかはもはや思い出せないが、何も成し得なかったことだけは確かだ。


「魔法使いは移動が制限されるからの」


 修学旅行にすら申請が必要なのだ。

 そして、海外旅行は絶対に無理。


「別にあの町が嫌いなわけではないんですよ」

「ああ」


 昔、魔法使いは国の宝だから仕方がないと言われたことがある。

 その時は宝と呼ばれて、ちょっと嬉しかったが、よく考えたら宝はずっと宝物庫で日を見ることがないのだ。


「今、無性に魔法を使いたい気分ですね」

「町中はやめよ」

「わかってますよ……しかし、俺達、目立ってますね」


 すれ違う人が皆、こちらを見ていた。

 中には2度見する人もいる。


「俺達じゃなくて、おぬしな。我は馴染んでおる」


 やはり服装か……


「ノルン様に服をくださいって言ってもらえません? もしくは、そういうイベントを起こしてくださいよ。ドラゴンでも何でもイグニッションで吹き飛ばしますし、コキュートスで永遠の氷にしてやります」

「そうか……どういうのがいい?」

「やっぱり魔法使いですからローブじゃないです? そういう人も見かけましたよ?」


 爺さんだったけど。


「でも、おぬし、剣を装備しておるじゃろ」


 もらっておいてなんだが、はたして、使う時があるのか?


「鎧を着て、動けますかね?」

「うーむ……だから細マッチョを目指せって言っただろうに」


 それ、サクヤ様の好みでしょうに。


「軽装備でいいんで似合う感じのをお願いします」

「まあ、そういう要望を出しておこう。多分、家のものが何かなくなると思うがの」


 あげる、あげる。

 たいしたものはないし、ノルン様にならあげちゃう。


「それで」

「わかった」


 俺達はその後も町を見て周り、時にはスマホのカメラで撮影なんかもしていく。

 すると、時刻は16時30分になった。


「見るだけでも楽しいもんですね。ちょっと早いですけど、夕食にします?」

「そうじゃの。飲んでもいいぞ。今日はおぬしの誕生日じゃ」


 そうだったな……


 俺達は歩いていた時に目星をつけていた店に入った。


「いらっしゃーい」


 可愛らしいウェイトレスが対応してくれる。


「2人なんですけど……」

「お好きな席にどうぞー」


 そう言われたのでサクヤ様と共に適当なテーブルについた。


「何にしますー?」


 メニューを見てみる。

 門番おすすめのボアのバター焼きもあり、パンとスープとサラダ付きで銀貨1枚だった。

 安いのか高いのかはわからないが、十分に頼める。


「サクヤ様、ワインを飲まれます?」

「我はミルクでよい。おぬしに良い人ができるまで禁酒しておる」


 プレッシャー……


「ボアのバター焼き定食2つとワインとミルクを」

「かしこまりましたー」


 ウェイトレスが厨房に向かっていく。


「どうじゃ? 可愛らしい子じゃろ?」


 早速か……


「すみません……ノルン様を見た後ですと……」


 いや、さっきの子も可愛いよ?


「ノルンを気に入ってどうする……嫁にはできんぞ?」

「当たり前じゃないですか」


 無理に決まっている。


「ハァ……浅井の娘に期待するしかないか」


 いやー……どうかな……


 そのまま待っていると、さっきのウェイトレスが定食と飲みものを持ってきてくれた。


「ごゆっくりー」


 ウェイトレスが去っていったのでサクヤ様と乾杯し、ワインを飲む。


「美味いっすね」

「ミルクも美味いの。新鮮じゃ」


 へー……


 俺達は次にボアのバター焼きを口に入れた。


「美味っ!」

「うむ、美味じゃの」


 ボアのバター焼きは豚肉に似ている。

 でも、旨味が全然違う。

 こんなものは食べたことがないし、病みつきになりそうだ。


「すごいですね」

「食が美味い世界を探しておったが、想像以上じゃの」


 これは地球では食べられないだろう。


 俺達はその後も食べ続け、パンやサラダも食べ、スープを飲む。

 パンも普通に美味しかったし、サラダも新鮮だった。

 スープもちゃんと出汁を取ってあり、優しい味わいでガツンとしたボアのバター焼きと非常に合う。


「もう食事はこっちでいいかもって思うレベルですね」


 まあ、さすがに平日の昼は仕事があるから無理だけど。


「ホントじゃの。昨日の半額シールが貼られた弁当とは違うわ」


 すんません……


「そうなると、金を稼がないといけませんね」

「そうじゃの。その辺も考えていこう」

「ですね」


 俺達はその後も食事を続け、ワインをもう1杯飲んだところで店を出た。

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