第005話 色々な初体験


 ギルドを出た俺達は昨日とは逆の方向の東門に向かう。


「本当に所属で良かったのか?」


 歩いていると、サクヤ様が聞いてくる。


「ん? なんでです?」


 さっきそういう方向になったじゃないか。


「いや、こっちでも組合に入るのはどうかと思ってな。あっちの組合に良い気はしておらんし」


 あー、サクヤ様はそう思うか。


「俺は別に組合に悪い感情を持ってませんよ」

「管理され、移動も制限されておるじゃろ。おぬしにメリットがない」


 まあねー。


「そういうもんって割り切れますからね。仕方がないことでしょう」


 物心がついた時からそうだった。

 不満がないわけじゃないが、諦めている。


「現代っ子じゃのー。おぬしの父や祖父の代ではケンカ上等じゃったぞ」


 昔の人は過激だからな。

 それにずっと自由だったのに急に制限されたら腹も立つだろう。


「組合の職員だってやりたくてやってるわけじゃないですよ。それに色んな話を聞かせてくれますし、組合に所属している魔法使いとの繋がりもありますからメリットがないわけではないです」


 勉強会だってあったし、魔法の相談に乗ってもらったこともある。

 結構、楽しい。


「まあ、そのおかげでお見合いの話も来たわけだしのう……全然、進んでおらんようじゃが」


 うん……


「そういうわけで所属は問題ありません。冒険者ギルドや商人ギルドの方はどうしましょう?」

「その辺も考えないとな……商人ギルドはないと思うが」


 商売なんてやる気ないしね。


「魔法で稼ぎたいです」

「そうじゃの。それでこそ岩見家の当主じゃ。たとえ、安アパートに住もうと心は誇り高く持たないとな」


 誇りなんかあんまりないけどね。


 俺達はそのまま町中を歩いていき、東門を出る。

 すると、前方に昨日、丘の上から見た森が見えた。


「あれですよね?」

「じゃな。間違っても大きな魔法を使うなよ?」

「わかってますよ。 逆にですけど、魔法を使ってくる魔物とかいるんですか?」

「そういう魔物もおるらしいのう。でも、この辺にはいないらしい」


 じゃあ、気を付けるべきは木の影や上かな。

 まあ、大丈夫だろう。


「行きましょうか。路銀は多い方がいいですしね」

「うむ。最低でも昼飯代と晩飯代は稼ごうぞ」


 俺達は街道を歩いていき、森の前までやってきた。


「森って本当に森ですね」


 うん、森だ。


「そりゃそうじゃろ」

「いや、日本の森って山林じゃないですか。こういう森を見たのは何気に初めてです」


 平地の森って日本にあるんだろうか?


「そういやそうじゃの」

「山ではないですが、足元に気を付けてくださいね」

「うむ。靴も考えるべきかもしれんな」


 ノルン様から靴はもらってないので俺もサクヤ様もスニーカーだ。

 悪くはないが、ちゃんとした靴を買った方が良いだろう。

 道や平原を歩く分には問題ないが、こういうところでは足元に注意しないといけない。


「今日は午前中だけにして、午後から買い物に行きましょう」

「そうじゃの。金はあるか?」

「さすがにそれくらいはありますよ」


 安月給でも金のかかる趣味はないからそこそこの貯金は持ってる。


「よし、では、行くか」

「はい」


 俺達は森に入り、キョロキョロと辺りを見渡しながら歩いていく。

 森とはいえ、木が密集しているわけではないので普通に歩けた。


「何かいますか?」

「おるの。しょぼい魔力じゃが……」


 んー?


「何もいませんけど?」


 木ばっかりだ。


「目ではなく、魔力を探れ」

「わかりません……」


 そう答えると、周りの地面がもぞもぞと動き出す。


「おぬしは魔力探知が下手じゃのー……」

「いやー、必要に駆られませんし、もっと便利な魔法がありますよ」

「今、必要じゃっただろ」


 周りの土が盛り上がり、中から緑色の肌をした小さな小鬼が大量に出てくる。

 そして、気が付けば囲まれていた。


「何ですか、こいつら?」


 ゴブリンに見えるけど。


「ゴブリンじゃな」


 おー、正解。


「ゲームだと雑魚ですけど……」

「強い魔物が出るところをスタート地点にはしてないと聞いているし、問題ないじゃろ」

「数が多いですねー……20はいますよ」


 しかも、いつ飛びかかってきてもおかしくない殺気を感じる。


「そんなもんかの? 火は使うな」


 森が燃えちゃうもんね。


「では……」


 手のひらを空に向け、光球を出した。

 すると、周りのゴブリンが一斉に襲ってくる。


「シャイニングアロー」


 光球から無数の光の矢が全方位に飛び出した。

 そして、光の矢はゴブリン達を貫いていく。


「あんまりゴブリンもオークも変わらんのう……」


 サクヤ様が周りの地に伏し、ピクリとも動かないゴブリン達を見ながらつぶやいた。


「ここのフィールドがレベル1くらいなんでしょ。俺は小さい頃から魔法を学んでいますし、10くらいはあるんじゃないです?」

「そういう問題でもない気がするが……まあよい。魔石の回収じゃ」


 回収……


「俺がやるんですよね?」


 キモいんですけど……


「嫌なら我がやってやろうか?」

「いえ、サクヤ様の手を汚すわけにはいきませんし、俺がやりますよ。でも、魔石ってどこにあるんですかね?」

「心臓じゃな」


 よりによって内臓かい……


「金のためなら仕方がありませんね」


 倒れているゴブリンに近づくと、ノルン様ソードを抜き、ゴブリンの身体の中から魔石を探していく。


「うへー……ノルン様の剣の用途がこれかー」


 というか、長すぎて使いづらい。

 ナイフも買わないとだな。


「一応、そういう解体をやらなくてもいい世界もあったぞ」

「そこでいいじゃないですか」

「ダンジョンと呼ばれる洞窟がある世界で魔物を倒すと、勝手にドロップするらしい。でも、ずっと洞窟じゃな」

「それは嫌ですねー」


 俺は魔法を使いたいと思っているが、それと同時に世界を見たいんだ。


「まあ、解体も慣れじゃろ」

「ですね。グロ耐性はあるんで大丈夫ですよ」


 それでもサクヤ様と話をしながら気を紛らわし、なんとかゴブリンの身体を裂くと、赤い石を取り出した。


「これが魔石です?」

「じゃな。小さいし、たいした額にはならんと思う」


 小指の先程度の大きさしかない。


「まあ、何事も経験です。他のも取ってしまいますね」


 隣で息絶えているゴブリンにノルン様ソードを突き刺した。

 

「偉い子じゃのー。魔石を採取する魔法でも作ったらどうじゃ?」

「あー、いいかもしれませんね。家で練習してみます」


 俺はその後も魔石の採取を続け、すべてが終わると、森の奥に進んでいった。

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