第011話 いえいえー
「相談に乗ってもらい、ありがとうございます」
「よい。それよりも健診は終わったのか?」
「ええ。健診が終わった後にジュリアさんと会ったのでそういう話になったんですよ」
村田さんが繋いでくれたんだけど。
「なるほどの……もうこんな時間か。王都に行って、昼飯でも食わんか?」
時刻はすでに12時前だ。
「良いですね。着替えます」
「ん」
俺達は異世界の服に着替え、準備をすると、転移した。
すると、前方に高い壁に囲まれた町が見える。
「昨日は見えませんでしたが、昼だとはっきり見えますね」
「そうじゃのう。王都だけあって大きいわい」
ルイナの町よりも何倍も大きく見える。
「腹も減りましたし、行きましょうか」
「じゃな」
俺達は街道を歩いていき、王都に向かう。
その間に何人かの強そうな人達とすれ違ったものの、特にトラブルはなく、門までやってきた。
門の前には兵士がおり、こちらを見ている。
「こんにちは。ちょっといいですか?」
こういうのはこちらから声をかけた方がいいだろう。
「どうした?」
「実はルイナの町から来たんですけど、ここって普通に通れるんですかね?」
「あー、出稼ぎかなんかか? 基本は通れるぞ。よほど怪しかったら止めるがな」
「怪しくないです。世界を巡る旅をしている魔法使いですよ」
そう言って、一応、魔法ギルドのカードを見せる。
「魔法ギルドの者だったか。修行か? 大変だな」
この人、勝手に自分の中で結論を出す人だな。
門番で大丈夫か?
「そんなところです。それでちょっと聞きたいんですけど、おすすめの昼食を食べられるところを知りません?」
「そうは言ってもな……ここは王都だぞ? 飯屋なんかいくらでもある」
これは期待できそうだ。
「初めて来たので目移りしそうなんですよ」
「うーむ、だったら俺個人のおすすめを教えてやろう。大通りをまっすぐ行ったところに教会がある。そこを右に曲がったところにある赤い屋根の定食屋がおすすめだぞ。人気メニューは牛の煮込み定食だ」
美味そう。
「へー……ありがとうございます。行ってみますよ」
「ああ。話してたら俺も腹減ってきたわ」
「お仕事頑張ってください」
「チッ、早く休憩になんないかねー」
兵士の人が笑いながらしっしと手を振ってきたので王都の中に入った。
王都は家々がひしめき合い、道も綺麗な石材で舗装されている。
歩いている人も多く、かなり賑わっていた。
「さすがは王都ですね。ルイナの町もファンタジーでしたけど、こっちはこっちでファンタジーです」
「そうじゃのう。まあ、観光は後にせい。それよりも飯じゃ」
サクヤ様もお腹が空いたのだろう。
「牛の煮込み定食でいいです?」
「ああ。期待できそうじゃ」
「では、行きましょう」
俺達は大通りを歩いていく。
すれ違う人が多いし、露天商も多い。
「色んなものを売ってますね」
「見たことない食材も売っておるし、怪しいアクセサリーも売っとるな」
「串肉が美味そうじゃないです?」
「美味そうじゃの。ここまで匂いが来ておる。でも、妾は牛の煮込み定食と決めたんじゃ」
それは俺もそうだ。
俺達がその後も目移りしながら歩いていると、大きな建物の前にやってきた。
「教会ですかね?」
「なんかノルンっぽい像があるし、そうじゃろ」
教会の屋根のところに女神像がある。
でも、ノルン様の方が美しい。
「一神教でしたね。えーっと、ここを右……あの建物が定食屋ですかね?」
右の通りにある赤い屋根の建物を指差す。
「確かに赤い屋根じゃな。よし、行こう」
俺達は右の通りに行き、すぐ手前にある赤い屋根の建物の前に向かった。
そして、建物の前にある立て看板を見る。
看板にはメニューが書いてあり、定食屋で間違いなさそうだった。
「ここですね。一番上におすすめって書いてあります」
もちろん、牛の煮込み定食だ。
「銀貨1枚か。安いのう。よし、突撃じゃ」
俺達は店の中に入る。
すると、かなりの人がおり、満席のように見えたが、一番奥のテーブルが空いていた。
「いらっしゃーい! 奥のテーブルにどうぞー!」
恰幅の良いおばちゃんが勧めてくれたので奥のテーブルに向かい、席につく。
「人気店じゃな。これは当たりじゃぞ」
「ですね。何か飲みます?」
「ミルク」
俺も昼だし、そうするかな。
「すみませーん!」
「あいよー!」
さっきのおばちゃんが厨房の中から答えた。
「牛の煮込み定食とミルクを2つずつー!」
「了解! ちょっと待ってねー!」
俺達は待っている間にメニューを眺める。
「なんか気になるものが多いですね」
「じゃのう。パスタもあるぞ」
パンもあればパスタもあるか。
詳しくは知らないけど、同じ小麦だろうし。
「異世界で稼いだら今後の食費が多少は浮きますね」
朝食と平日の昼食はちょっと厳しいけど。
「それは良いのう。いっそのこと異世界デートでもしたらどうじゃ?」
「デートってジュリアさんです?」
「他におらんじゃろ」
まあ……
「逆に聞きますけど、いいんですか?」
異世界ですけど……
「おぬしの嫁じゃろ。一族じゃないか」
嫁って……
「まだそこまで進んでないですよ」
「ふーん、まあ、色々話してみい。我が言えるのはあのレベルの女は中々捕まらんぞ。器量良しでちゃんとした教育も受けておる。それでいて魔法使いじゃ。当然、ウチの一族の中には魔法使いじゃない嫁もおったが、すれ違いがなかったとは言えんからな」
まあ、理解がある方が良いだろうね。
「いやまあ、好きか嫌いかで言えば好きですけどね」
「自分のペースでいいが、時間は有限じゃぞ?」
「そうですね」
適当に生きていたら30歳になってしまった。
子供の頃は30歳なんておっさんというか大人だなって思っていたが、今の自分が大人かというと微妙な気分になる。
内面がまだまだ子供だなって思うし。
「一つ、アドバイスをしてやると、半年も待ってくれるのは相当、脈があると思うぞ」
どうも……
「――お待たせー! 煮込み定食とミルクだよ!」
店員のおばちゃんが俺とサクヤ様の前に定食とミルクを置く。
定食はシチューのような見た目の煮込み料理とパン、それにサラダがついていた。
「煮込みはパンをつけても美味しいよ。じゃあ、ごゆっくり」
おばちゃんは明るい笑顔でそう勧めると、厨房に戻っていく。
「食べてみるかの」
「ええ」
スプーンを手に取り、煮込み料理を一口食べてみた。
「おー……すげー美味い」
肉はホロホロとしており、旨味がすごい。
シチューみたいな汁もガツンと来る。
「当たりじゃの。我は最初からあの兵士を信じておった」
「俺もできる男だと思って声をかけたんですよ。パンはどうかな?」
パンをちぎり、煮込みにつけて食べてみる。
「外れるわけないっすね」
すげーわ。
「じゃな。確定演出じゃ。ノルンは良い世界を作ったな」
ノルン様、ありがとー。
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