第095話 (異世界の)お金が貯まっていく


「いくらです?」

「全部で金貨40枚だな」


 すげー!

 魔石と合わせると、100枚に近い。


「そんなにですか?」

「安いぞ? 前にも言ったが、幼体だからな。成体ならもっと高い。まあ、その分、強いから厄介なんだが」


 そりゃそうだ。

 大人の方が強いだろう。


「いつか倒したらまたお願いします」

「勇ましいな。ちょっと待ってろ」


 カーティスさんは立ち上がると、作業デスクの方に向かう。

 そして、小袋を持って戻ってきた。


「ほら、金貨だ」


 カーティスさんが小袋を渡してくれる。


「ありがとうございます。それで次は水の国に行こうと思っているんですけど……」

「良いんじゃないか? 時期的にもちょうどいいだろう」

「なんか注意点とかあります?」


 ここを聞いておかないといけない。

 何しろ、異世界だからな。


「注意点か……まあ、今の時期は観光シーズンだから人が多いことだな。あとは雨か? あそこはこの時期、雨が多いんだ」


 それは日本も一緒だ。


「そのくらいです?」

「まあ、観光地だからな……火の国同様に治安は良い。それどころか火の国よりも女性に人気だから警備もしっかりしているな」


 女性に人気なのか……

 ジュリアさんも水の国を推しているしな。


「やっぱり山より海なんですかね?」

「というよりも火の国は聖都のあれがな……」


 あ、あれか。

 とてもジュリアさんやサクヤ様を連れていけないあの区画。


「なるほどー」

「まあ、普通に観光する分には何も問題ないと思うぞ。前に渡した通行証があれば普通に通れると思うし」


 話を聞く限り、問題なさそうだな。


「じゃあ、ちょっと行ってきますよ。あ、本をお返ししますね」

「ん? ああ……適当に戻しておいてくれ」

「ありがとうごさいました」


 俺とジュリアさんは立ち上がると、手分けして本を戻していく。


「また持っていってもいいぞ」

「ありがとうございます」

「面白いですし、興味深い本が多いので助かります」


 ジュリアさんと共に礼を言う。


「おぬしらはホント、真面目じゃのー……」


 勉強、勉強。

 学校の勉強は面白くなかったが、魔法は楽しいのだ。


「あ、カーティスさん、ちょっといいですか?」


 もう1つ、聞きたいことがあった。


「ん? なんだ?」

「ちょっと相談なんですけど、王都で倉庫とか借りれませんかね?」

「倉庫? 借りれると思うが、どれくらいの広さだ?」


 ワイバーンやドラゴンが入る大きさだから……


「ここよりちょっと広いくらいですね」

「住むとかそういうことではなく、倉庫でいいんだな?」

「ええ。ここを拠点に動いてますから荷物なんかを置いておきたいんですよ」


 ということにしておく。


「なるほどな……倉庫の貸し出しは不動産屋に行けば貸してくれるぞ。ただ、これくらいの広さだと高い。多分、月に金貨10枚以上はする」


 本当に高いな……


「王都だからですかね?」

「そうだな。王都は地価が高いんだ。だから必然的にそのくらいはする」


 都会の土地代が高いのはどこの世界も一緒のようだ。


「無理そうですね?」


 サクヤ様を見る。


「そうじゃの。さすがに月で金貨10枚はない。どっかの田舎で借りるか?」

「大丈夫ですかね?」


 偏見で悪いが、勝手に開けられそう。


「どうじゃろ?」


 うーん、諦めるか……


「あれだったらウチの空いている土地を貸してやろうか? 別に金はいらん」


 え?


「良いんです?」

「使っておらんからな。そこに倉庫でも建てたらどうだ? 簡単な倉庫を建てるくらいなら金貨50枚くらいで建つぞ。なんだったら知り合いに頼んでやる」


 おー、これは良い話のような気がする。

 土地代がいらないわけだし。


「お金は……あるなー」


 さっき金貨40枚もらったし、貯金はある。

 何なら冒険者ギルドで荷物の仕事の依頼料ももらえる。


「ハルト、厚意に甘えようじゃないか」

「そうしますか……カーティスさん、頼んでも良いですか?」

「いいぞ。金は後でいい。ひと月もあればできると思う」


 早いな。


「わかりました。お願います」

「ああ、わかった。水の国に行くわけだし、ちょうどいいだろう」


 至れり尽くせりだ。

 この世界の人って、皆優しいな。


 相談を終えると、俺とジュリアさんが本を選んでいき、カーティスさんに借りる旨を伝え、研究室をあとにした。


「次はギルドですか?」


 ジュリアさんが聞いてくる。


「うん。魔法ギルドでワイバーンの魔石を売ろうと思う」


 他にもベビードラゴンの魔石もある。


「なるほど。いくらぐらいになりますかね?」

「ドラゴンの魔石が金貨50枚だし、それ以上はいかないと思う。陛下が色を付けてくれたらしいし、金貨20枚くらいじゃない?」

「それくらいだと嬉しいですね」


 倉庫代になるね。


 俺達は金額を予想しながら来た道を引き返し、魔法ギルドにやってきた。

 魔法ギルドはそこまで人はおらず、割かし空いていたので受付のチェスターさんのところに向かう。


「お久しぶりです」

「あれ? ハルト君じゃないの。帰ってきたの?」


 チェスターさんがちょっと驚いた顔になる。


「ええ。火の国は良かったですよー」

「へー。温泉はどうだった?」


 チェスターさんは辛い物が苦手だったな。


「良い感じでしたね。眺めも良かったですし」

「良いねー。楽しそうで何より」

「それで今度は水の国に行きます」

「おー、バカンスだね。さすがは遊び人」


 そんなイメージが付いてるのか?

 一応、社会人なんだけど。


「チェスターさんは水の国を知ってます?」

「まあ、近いしね。水がすごい。以上」


 以上かー。


「まあ、カーティスさんから大丈夫って聞いてますし、行ってみますよ」

「楽しんできなよ。あ、そうだ。水の国の聖都に行くんでしょ? 魔法ギルドに寄ったら僕の妹によろしく」


 ん?


「妹さんがいるんですか?」

「そうそう。あの国に旅行に行った際に浜辺でナンパされてそのまま結婚した妹」


 う、うん。

 なんかすごいな。


「へ、へー……」

「あの国はちょっと男性が積極的だから気を付けてね。特に浜辺はナンパスポットだから行く際はちゃんと奥さんに指輪を付けさせるんだよ。君の奥さん、ものすごく狙われそうだから」


 ノルン様が積極的な男性が多い国もあるって言ってたけど、水の国か。


「わかりました」

「あ、君は奥さん一筋のようだけど、ナンパテクいる?」

「いらないっす」


 一夫多妻ってどうやって過ごすんだ?

 生活がまったく想像つかないぞ。


「そっかー。魔法使いはモテるのにもったないなー」

「カーティスさんとかもです?」

「あ、あの人も1人だね」


 そうなんだ。


「ちなみに、妹さんは何て名前です?」

「ジェーンだよ。たまには家に帰ってこいってウチの両親が言ってたって伝えておいて」

「わかりました。それと魔石を買い取ってもらえます?」

「いいよ。またドラゴン?」


 惜しい!


「ワイバーンの魔石が1個とベビードラゴンの魔石が12個ですね」


 そう言うと、サクヤ様がカウンターに魔石を置いた。


「おー! さすがはドラゴンスレイヤー! すごいねー!」


 チェスターさんが興奮しながらも魔石を見ていく。


「ハワードさんって言うギルドの人に手伝ってもらったんですよ」

「あー、あの人か。なるほどねー。君にさー、ドラゴンを狩ってくれっていう依頼も来てるよ? 魔石が欲しいらしい」

「ドラゴンってどこにいるんっすか?」


 明らかにこの辺にはいないだろ。


「知らない。もし狩ったら魔石を持ってきてよ。高額買取するからさ」


 いたらね。


「水の国にいます?」

「でっかいのがいるよ。倒したらダメなやつだけど」


 はい?


「何ですか、それ?」

「行ってからのお楽しみ。ベビードラゴンの魔石は銀貨2枚だから金貨2枚と銀貨4枚ね。ワイバーンの魔石は金貨20枚。合計金貨22枚と銀貨4枚」


 おー、予想が当たった。


「じゃあ、それで」

「はい。またよろしくね」


 チェスターさんがカウンターに金貨と銀貨を置く。


「はい。じゃあ、ちょっと行ってきますね」

「楽しんできてねー」


 俺達は魔法ギルドを出て、冒険者ギルドの方に向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る