第091話 平日もまあ、楽しい


 ルイナの町でボアのバター焼き定食を頼み、食べ始める。

 相変わらず、ジューシーで癖になる味わいだ。


「何これ!? 美味しい!」


 タマヒメ様も気に入ったようだ。


「最初にこの町に来て、それを食べたんですが、それでこの世界を回ってみようと思いましたね。観光はもちろんですが、食がすごいんで」

「なるほどねー。そう思うのはわかるわ」

「また水の国に期待です」

「良いと思うわ」


 俺達はそのままボアのバター焼き定食を堪能し、食事を終えると、家に戻って解散する。

 ジュリアさんもタマヒメ様も帰ったので掃除や洗濯をしていくと、夕方になった。

 なお、ノルン様がおり、俺達が帰ってきてからこれまでずっとゲームをしている。


「ハルト。おぬし、随分とタマちゃんに心を開かれたようじゃな」


 スマホを弄っていると、サクヤ様が声をかけてきた。


「そう思いますか?」

「今朝からずっとタマちゃんはおぬしと目を逸らさずに話しておった」


 確かにね。

 今日はずっと普通だった。


「昨日、サクヤ様とジュリアさんがお風呂に入っていた時に話をしたんですよ」

「なんか一緒に酒を飲んでおったの」

「ええ。ジュリアさんを嫁にもらう旨を伝えました」


 タマヒメ様には絶対に伝えないといけないことだ。


「おー、ついに決心したか!」

「時間の問題と思っていましたが、良いことですね」


 ゲームに集中していたノルン様が珍しくこちらを振り向いた。


「一緒になりたいと思える人ですし、一緒にいて楽しいですからね。気も合うし、ペースも趣味も同じです。この縁談を断る理由がないです」


 可愛いし。


「そうか、そうか。それをジュリアに伝えるか?」

「ちょっとタイミングを見ます。でも、近い内ですね」


 何ヶ月も待つ気はない。


「まあ、その辺はおぬしに任せる。めでたいのー。祝杯を挙げるか」


 サクヤ様が冷蔵庫に行き、ハイボールを取り出し、飲み始めたので夕食の準備をする。


「ノルン様も食べますー?」

「いえ、私はこの辺で帰ります。では……」


 ノルン様がぱっと消えてしまった。


「帰っちゃったか。まあ、夜にはジュリアさんも来るからかな?」


 ゲームするだろうし。


「多分、そうじゃろ。あやつはおぬしらがおらん時にここでずっとゲームをしておるし、譲るんじゃろ」


 良い人だ。


「さて、サクヤ様、夕食ですよー」

「今日は何じゃい?」

「野菜炒めです」

「ほう……今日は外れか当たりかのー……」


 俺達は野菜炒め定食を食べる。


「美味いじゃないですかー」


 味が安定せずにたまに失敗するが今日は上手くいったようだ。


「当たりじゃの」


 俺達は夕食を食べ、ゆっくりと過ごす。

 夜にはジュリアさんがやってきたのでゲームをし、良い時間になったので就寝した。


 翌日からは仕事の日々が始まり、真面目に仕事をしていく。

 もう6月に入っているため、かなり暑く、しかも、エアコンが付くか付かないかの微妙な時期なのがちょっと辛い。

 それでも頑張って仕事をこなしていき、ついに金曜日になった。

 この日も午前中に仕事を頑張り、昼休憩になると、会社を出て、車に乗り込む。

 そして、10分ぐらいかけて、ファミレスにやってきた。


 駐車場に車を止め、待っていると、コンコンと窓を叩かれたので見る。

 すると、仕事用の制服を着ているジュリアさんだった。


「お待たせしました」


 車から降りると、ジュリアさんが笑顔で声をかけてくる。


「俺も今来たところだよ。時間もないし、入ろうか」

「はい」


 俺達はファミレスに入ると、テーブル席につき、注文をした。


「なんか平日の昼に会うと、ちょっと違う気分になるね」

「ですね」


 昨日の夜、ジュリアさんからメールが来て、昼食を一緒に食べませんかと誘われた。

 それでお互いの会社の中間地点にあるファミレスにやってきたのだ。


「暑いよねー。今日は30°近くまであるらしい」

「ウチはエアコンがつきましたね。エアコンの位置的にちょっと寒いです」


 それでカーディガンを羽織っているんだな。

 この店もエアコンが利いてるし。


「そういうバランスが難しいよね」

「ですねー。あ、来ました」


 俺達が話していると、すぐに猫型の配膳ロボットが料理を持ってきてくれたので食べだす。


「美味しいね」

「ええ。あっちの世界の料理も美味しいですが、こっちはこっちで慣れ親しんだ味で美味しいです」


 それは本当にそう。

 あっちの世界の料理は美味しいし、何なら金もあるが、食事のベースはあくまでもこっちの世界だ。

 あっちの世界は料理も含めて、週末の楽しみって感じになっている。


「ようやく1週間が終わるけど、今日はどうする?」


 先週も先々週も聖都の別荘に泊まった。


「あの、今日ですけど、良かったら夜も外に食べに行きませんか? 実は居酒屋に行きたいんです」

「居酒屋? 普通の?」

「はい。駅前にあるやつです」


 この町の駅前には居酒屋がいっぱいある。

 まあ、どこもだろうけど。


「それは全然いいけど、どうしたの?」

「居酒屋って会社の歓迎会に行ったきりなんですけど、美味しそうな料理とか多かったですし、雰囲気も良さそうでした」


 まあ、居酒屋には居酒屋の雰囲気の良さがある。

 それも会社の飲み会とはちょっと違うしな。


「コースだもんね」

「ええ。あと別に嫌ではないんですが、会社の人は皆、先輩ですからどうしても気を遣います」


 わかる、わかる。


「じゃあ、行ってみようか。もし良かったらその後に前に言ってたカラオケでも行く? 駅前にあるよ」


 前に言っていたアニソン大会。


「あ、良いですね。行きたいです」

「サクヤ様も連れていっていい?」

「それはもちろ……ん? あ、あの、大丈夫です? あの方、飲みませんっけ?」


 飲むね。

 見た目小学生のくせに。


「大丈夫、大丈夫。堂々としてたら何も言ってこないから」


 デリケートなところだし。


「まあ、実際に20歳は確実に超えてますしね」


 めちゃくちゃね。


「タマヒメ様も来るかな?」

「多分というか、絶対に来られないと思います。人が多いところを嫌がりますし、もうわかっていると思いますが、恥ずかしがり屋なので人前で歌を歌うのは絶対に嫌がります」


 まあ、そんな気はする。


「そっかー。まあ、誘ってはみるよ。どうせウチでアニメ見てるかゲームしてるだろうし」


 今週は家に帰ったら毎日いた。


「そうしていただけると……誘わないのもそれはそれでショックを受けそうなんで」


 そりゃそうだわな。

 俺でもショックだわ。


「じゃあ、帰ったら2人に声をかけてみるよ」

「はい。私も今日はまっすぐ帰りますので連絡してください」


 俺達はその後、昼食を食べ終え、食後のコーヒーを飲みながら話をしたが、すぐに時間になったので別れて、会社に戻った。

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