第019話 魔法使いは同じ気持ちを持っている
コンビニで飲み物と適当なお菓子を買った俺は家に戻る。
すると、サクヤ様は布団で横になりながら今日見た映画の漫画を読んでおり、ジュリアさんが座りながらテレビを見ていた。
なんかジュリアさんがウチにいる光景が新鮮だ。
「ただいまー。サクヤ様、買ってきましたよ」
ロイヤルなミルクティーを枕元に置いた。
「すまんのう」
「ジュリアさんもはい。あと適当に買ってきたから食べて」
「ありがとうございます」
ジュリアさんがオレンジジュースを受け取り、一口飲む。
「お酒の方が良かった?」
「あ、いえ……あまり飲んだことがないので」
「そうなの?」
ジュリアさんは23歳だから飲めない年齢ではない。
「会社に入った時の歓迎会でビールをいただきましたが、ちょっと苦くて……」
ビールはなー……
俺もいまだに美味しさがわからない。
「甘いやつとかが良いんじゃない?」
「どうでしょうか? 今度、買って飲んでみます」
「それがいいんじゃない?」
コンビニでもスーパーでも売ってるし。
「……一緒に飲もうよって言えよ。それでゴールじゃろ」
サクヤ様がボソッとつぶやいた。
「何です?」
「酒は合う合わんがあるから誰かに見てもらった方がええぞ。おぬしが見よ」
「それもそうですね。ジュリアさん、今度一緒に飲もうよ」
ビールを飲んだらしいからまったく飲めない体質ってことはないだろうが、限度を知らない場合は危ないし、付き合った方が良いだろう。
「はい。お願いします」
「あ、ゲームする?」
「そうですね。してみたいです」
ジュリアさんが頷いたので準備をし、ゲームを起動する。
やるのは俺もやってるし、ノルン様もしている昔のRPGだ。
「はい」
ジュリアさんにコントローラーを渡す。
「セーブデータは消してもいいんですか?」
昔のゲームはそんなにセーブデータがない。
このゲームも3つだ。
「いいよ」
「えーっと、どれを消したらいいんです?」
【ハルト Lv21】【ハルト Lv21】【のるん Lv77】
……ノルン様、何してんだ?
もしかして、俺が仕事に行っている間、ずっとやってた?
「真ん中のやつを消していいよ」
「わかりました」
【ハルト Lv21】【ジュリア Lv1】【のるん Lv77】
「似合う名前だね」
「洋風ですからね」
ジュリアさんは冒険を始めた。
王様から話を聞き、町の外に出ると、モンスターを倒していく。
スマホとはいえ、ゲームをしてきただけあって、操作には問題ないし、慣れているような気がした。
その後もところどころは教えつつも、勇者ジュリアの冒険を眺めていく。
「楽しい?」
「ええ、とても。古いゲームですけど、こういうゲームや物語は好きなんです」
「そうなんだ」
「はい…………ハルトさんは少し前までこの町から出て、東京で働いていたんですよね?」
ん?
「そうだね。高校を卒業してから10年くらいかな?」
1年半くらい前に戻ってきた。
「ですか……私は親戚の集まりなんかで別の町に行ったことがありますが、県外に一度も出たことがありません」
え……
「大学は地元だったよね? 県外に出ようとは思わなかったの?」
「ちょっとだけ思いました。でも、家族や親戚に反対されました。組合でも相談に乗ってもらいましたが、そちらでもやめた方がいいって言われましたね」
まあ、ジュリアさんはお嬢様だしね……
「就職もそんな感じ?」
「そうですね。こういうことを表立っては言えませんが、父と付き合いのある会社です」
あー、議員さんだもんな。
田舎あるある。
「そっか……修学旅行とかは?」
「私の学校は私立でして、修学旅行先はシンガポールでした」
さすがに国外は無理だわ……
「行けなかったの?」
「はい……組合の許可が降りませんでした。だから皆が修学旅行に行っている間、家で自主学習です」
辛い……
「それはきついね……」
「それはもう……友達が気を遣って、連絡してくれるんですが、それがより辛かったですね。そんな時にアニメと出会ったんです」
高校2年生の時って言ってたな。
「アニメを見たの?」
「暇でしたし、夜中にふと、テレビをつけたら深夜アニメをやっていました。後からとんでもなく評価の低かったアニメと知りましたが、初めて見た私は感動しました。ずっとこの町で生きてきて、町から出ることがない私にとってはとても魅力的に映ったんです」
それはすごくわかる。
俺がRPGが好きなのはそれが一番大きい。
「そうだね。俺も似たような経験があるし、漫画やアニメ、さらにはゲームをこの歳になってでもやってる」
東京にいた時はそこまでだったが、こっちに帰ってきてからは再熱した。
「別に籠の鳥とか悲劇のヒロインのつもりはないんですよ。じゃあ、自由になったら都会の方に行くかと言われたらそれはそれで怖いですし、結局はこの町に住むと思います。この町に不満があるわけでもないですし、ハルトさんと結婚し、家庭を築くのも幸せなことです。ただ、心のどこかで外を見たいという気持ちがあるんです。というか、シンガポールに行きたかったです……」
修学旅行はなー。
学生の最大イベントと言ってもいい。
ジュリアさんがそれがずっと心残りなんだろう。
ジュリアさんの心情を聞いて、サクヤ様を見る。
「好きにせい。ノルンも構わんじゃろ」
サクヤ様は俺が何を言いたいかわかったらしい。
「ジュリアさんさ、ゲームの世界に入りたいって思ったことはある?」
「んー……ありますね。誰しもがあるんじゃないでしょうか」
そうかもしれない。
俺はずっとそう思っていた。
「こんな感じの世界」
スマホを取り出し、写真を見せる。
異世界に行った時に撮った写真だ。
「すごいですね……え? この写真は何です?」
写真には地平線まで見えるんじゃないかという綺麗な草原が広がっている。
「異世界に行った時の写真」
「えと……異世界とは?」
異世界って何だ?
「ハルト、別に今から連れていってもいいぞ。外は暗いし、王都になるがな」
「お願いします。ジュリアさん、ちょっと立って。靴を履こうか」
そう言って、ジュリアさんの腕を取る。
「え? あ、はい」
ジュリアさんがコントローラーを置くと、大人しく立ち上がった。
「服は別にいいですよね?」
サクヤ様に確認する。
「行ってすぐに帰るだけじゃ。夜だし、目立たんじゃろう」
「それもそうですね」
納得すると、ジュリアさんの腕を取ったまま、玄関に向かう。
そして、靴を履くと、一瞬で視界が変わり、暗い夜道に転移した。
ここは王都の魔法ギルドの前であり、街灯があるため、真っ暗というわけではないが、人はいない。
「え? 急に……」
ジュリアさんがキョロキョロと辺りを見渡した。
「何もないっすね」
「繁華街の方が良いじゃろ。こっちじゃ」
サクヤ様が先行して歩いていく。
「ジュリアさん、こっち」
「はい」
ずっと腕を取っていたので離したのだが、ジュリアさんは不安から俺の手を握ってきた。
まあいいかと思い、サクヤ様の後ろを歩いていると、灯りが強い繁華街にやってくる。
時刻は10時を回っているが、まだ店はやっているようで賑わっていた。
「異世界ですね……」
ジュリアさんが呆然とつぶやく。
それもそのはずであり、歩いている人は日本では見られない服装の町民の他にも剣を腰につけた戦士らしき者や魔法使いっぽい者も様々なのだ。
しかも、黒髪中心の日本とは違い、髪の色も異なっている。
「前にホームセンターで会った時にアウトドアグッズを買ってたでしょ。あれは異世界用に買ってたんだよ。俺達はこの前からこの異世界に来て、旅をしているんだ」
まあ、まだこの王都とルイナの町だけで本格的な旅はしてないけど。
「す、すごいですね」
それは俺もそう思う。
「ジュリアさん、明日は空いてる?」
「え? あ、はい。休みですので空いてます」
「明日もちょっと付き合ってくれるかな? 今日はもう遅いし、明日改めて説明するよ」
「わ、わかりました」
俺達はサクヤ様の転移で家に戻ると、中断していたゲームをセーブする。
そして、ジュリアさんを家まで送り届けることにした。
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