第018話 なくてもいいけどのう ★
俺達はファミレスを出ると、車に乗り込んだ。
そして、車を走らせ、先行するジュリアさんについていく。
時刻は10時を回っており、他にほとんど車が走っていないため、置いていかれることはない。
「サクヤ様に関係性を進めろとは言われたけど、家に呼ぶのはやりすぎなような気がしてきたな……」
何段飛ばしだ?
「まあ、変な意味ではないし、サクヤ様もおられるから大丈夫だと思うけど」
向こうもそう思ったのだろう。
じゃなきゃ、いくら見合い相手でもこんな時間に付き合ってもいない男の家には行かないだろう。
そう納得し、車を走らせる。
すると、10分ぐらいでとあるアパートの前でジュリアさんの車が停まった。
そして、バックライトが付き、バックで車を駐車スペースに止め始める。
「ここがジュリアさんの家か……」
さすがにウチよりは新しい感じがするが、普通のアパートである。
ちょっと意外だ。
マンションなんかに住んでいるのかと思った。
ジュリアさんは車を駐車場に止めると、車から降り、路駐しているこちらにやってきたので窓を開ける。
「すみませんが、漫画を持ってくるのでちょっと待っててください」
「りょうかーい」
頷くと、ジュリアさんがアパートに入っていく。
そして、なんとなくアパートを見ていると、2階のとある部屋の電気が付いた。
「あそこか……って、ストーカーみたいだな」
何しているんだろうと思っていると、電気が消え、すぐにジュリアさんが手提げかばんを持って、戻ってくる。
そして、助手席に乗り込んできた。
「お待たせしました」
「うん。じゃあ、行こうか」
「はい」
ジュリアさんがシートベルトをしたので車を走らせる。
「あそこに住んでいるんだね?」
「ええ。新しめですけど、安かったんですよ」
へー……
「マンションとかに住んでいるのかと思った」
「私の給料では厳しいですよ」
まあ、1年目だしね。
「実家からもらってないの?」
「ええ。別にお金に困っているわけではないですから」
この辺りは教育方針だろうか?
「そうなんだ。今さらだけど、ウチ、そこまで広くないから。安いアパートだし」
「ウチも1Kですよ」
お嬢様なんじゃないのかね?
そのまま車を走らせていると、5分くらいでウチに到着する。
「ハルトさんはここに住んでいたんですね。何度も通ったことがある道ですよ」
「まあね。意外と近かったね」
近所というほどではないが、この距離ならますます向かえに行くべきだったと思う。
「ですね」
車を駐車場に止めると、車から降りた。
そして、部屋に入る。
「おかえりー。さっきまでノルンがおったが、帰っていったぞー」
サクヤ様が声をかけてくる。
「ゲームですか?」
「そうじゃの。ようやるわ。それにしても帰ってきおったな。朝帰りでええのに」
いやー……それはないかな。
「サクヤ様、お客さんをお連れしました」
「あん?」
サクヤ様が首を傾げると、靴を脱ぎ、部屋に入る。
すると、後ろからジュリアさんも部屋に入ってきて、靴を脱いで、部屋に上がった。
そして、その場で膝をつき、深々と頭を下げる。
「浅井家が長女、ジュリアでございます。サクヤヒメ様においてはごきげん麗しゅうございます」
ジュリアさんが土下座にも似た形で挨拶をする。
いや、土下座そのものだ。
「お、おう……」
サクヤ様の目が泳いでいる。
「ジュリアさん、そこまでへりくだらなくても……」
ジュリアさんの腕に取って立ち上がらせた。
「ハルト、ちょっと来い……」
サクヤ様が手招きしてきたので布団まで行く。
「何です?」
「……関係性を進めよとは言った。でも、ホテルに行けよ」
サクヤ様が小声で囁いてきた。
「そういうのじゃないですよ。アニメの映画を見たんですけど、思いのほか盛り上がり、話の流れでゲームをしてみたいってことになったんですよ。それで呼んだんです」
「ゲームで誘うとは上級テクニックを使うの」
何を言ってんだ?
「急に招いてマズかったです?」
「うん、まあ、部屋を片付けろよとは思うな……」
ちょっと散らかっているかもしれない。
まあ、狭いからなんだけど。
「それはすみません。後日にします?」
「いや、呼んだのなら仕方がない。それよりもちょっとコンビニに買い物に行ってきてくれんか?」
え? なんで?
「お客さんが来てますけど……」
「迎えるために菓子や飲み物で買ってこい」
「お菓子ならあるじゃないですか。それに高いお茶もあります」
金持ちではないが、お茶だけは高いのがある。
昔から付き合いのあるお茶農家さんから送られてくるのだ。
「いいから行ってこい。我はロイヤルなミルクティーな」
「まあ、近いですから良いですけど……ジュリアさん、ちょっと買い物に行ってくるけど、何か飲む?」
「え? では、オレンジジュースを」
「わかった。適当に座って待っててよ。すぐに戻ってくるから」
そう言って、部屋を出ると、車に乗り込み、近くのコンビニに向かった。
◆◇◆
ハルトが出ていくと、それを追うようにジュリアが玄関の扉を見ていた。
招いておいて、すぐに出ていくとは思っていなかったのだろう。
これに関しては我が悪い。
でも、確かめておかないといけないことがある。
「ジュリア、座ってくれ」
「はい。失礼します」
ジュリアはこちらにやってくると、テーブルの前に正座で座る。
「まあ、楽にしてくれ。今日は映画じゃったか?」
「はい。楽しかったですし、ハルトさんと話が弾んで良かったです」
この嬉しそうな顔を見る限り、本当に上手くいったようじゃな……
「ハルトがアニメ好きで引かんのか?」
「いえ、私も好きなんですよ。ゲームも好きなんですけど、家庭用ゲームを持っていないのでやってみるという話になったんです。こんな時間にお邪魔して申し訳ありません」
ジュリアが深々と頭を下げた。
「我はよい。しかし、おぬしはいいのか? こんな時間に男の家に上がるような教育は受けておらんだろ」
「えっと……自分を大事にせよとは言われてきました。でも、結婚を前提にお付き合いしている方ですし……」
あー……見合いをして半年間進展してないのに浅井が何も言わない理由がわかった。
こいつはこれで上手くいっていると思っているんだ。
というか、すでに付き合っている認識なんじゃな。
まあ、断りの連絡もなく、頻度が少ないとはいえ、定期的に会っていればこの箱入りはそう思うか。
「おぬし、他に男と付き合ったことは?」
「ありません。女子高、女子大でしたし、同世代の男性の方とあまり話す機会がなかったです。職場も……すでに相手がいますので」
筋金入りの箱入りのお嬢様だ。
「ハルトと結婚する気か?」
「どうでしょうか……ハルトさんは岩見の当主様ですし、魔法使いとしても私とは格が違います。釣り合っているかと言われると自信はあまり……」
めんどくさいな……
ハルトだけじゃなく、こいつもかい……
関係性が進まんかった理由がよくわかるわ。
「家のことや魔法使いは関係なく、ハルト個人はどう思っている?」
「優しくて大人な方だと思います。ゆっくりな私に付き合ってくれますし、一緒にいて緊張はしますが、落ち着く感じがします」
もう結婚せえや……
「そうか、そうか。まあ、仲良くしてやってくれ。我のことは気にせんでいいからな。ただの置物じゃ」
「え? いや、そんなことは……」
置物、置物。
好きにしてくれ。
ハルトにはコンビニに行かせたし、ちゃんとアレも買ってくるだろう。
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