第014話 横暴


「カーティスさんってこういう研究をされているんですか?」

「いや、私は色々と研究しており、特に決まったジャンルはない。最近は主に魔物の生態なんかを研究しているな。そんな中で陛下から頼まれごとだ。面倒だが、さすがに断れん」


 王様は断れないよなー。


「魔法が好きなんですね」

「そうだな。子供のころから好きでずっと魔法のことばかりを考えていたし、修行していた。正直、私自身は魔力も大きくないし、たいした魔法使いではない。でも、好きだから続けている」


 それが大事だと思う。


「俺も魔法の研究は好きですよ。今、魔物から魔石を取り出す研究をしています」


 家で練習中。


「ほう? 確かに魔石収集においては時短になるな。良い目の付け所だ」


 いや、汚れるし、キモいから……


「ただ俺って魔力感知が苦手なんですよね」

「ふむ……君は魔力が大きいからな。仕方がないかもしれん」


 ん?


「魔力の大きさが関係あるんですか?」

「ある。これも私が研究したことだが、そういう傾向にあった。魔力が大きい者は自分の魔力を中心に考えるから自分より低い魔力を察知しにくいのだ」


 なんか嫌な奴だな、それ……


「コツとかないです?」

「その研究の報告書が本棚にあるぞ。5番だ」


 そう言われたので魔法を込め中の魔石を持ちながら本棚を見た。

 すると、本棚には番号が振ってあったので5番の本棚を探す。


「この【魔力と探知能力の相関性】ってやつですか?」

「ああ、それだ。読んでいいぞ」

「大事な研究成果では? いいんですか?」

「構わんし、他の本も読んでいいぞ。私は魔法使いとしては2流だが、私の研究成果で1人でも1流になってくれたらそれが嬉しい」


 すごい人間性だ。

 チェスターさんも問題ないと太鼓判を押すわけだわ。


「じゃあ、読ませていただきます」


 本を取り、テーブルに戻った。


「構わんが、魔石の方も頼むぞ」

「大丈夫ですよ。このくらいの魔法なら片手間でできます」


 本を読みながらでも魔石に魔法は込められる。


「想像以上に優秀な魔法使いのようだな」

「このレベルの魔法ならできますよ。同時魔法という研究もしてましたからね」

「ほう? 同時魔法とは?」


 カーティスさんが食いついてきた。


「右手に火魔法、左手に氷魔法を出して使うみたいな感じです」


 これを合成し、極大消滅呪文を作ろうとしたのだが、無理だった。

 サクヤ様はバカじゃねって呆れてたけど、当時中学生だった俺は本気でできると思ったのだ。


「君は面白いことを考えるな……どうだね? この面白くない研究が終わったら一緒に研究せんか?」

「面白くないのか?」


 サクヤ様がカーティスさんに聞く。


「面白いわけがなかろう。我らは魔法使いだぞ? 何の意味がある? これは魔法を使えない者のための研究だ」

「なるほどのう……人のためとは思わんのか?」

「そっちは貴族としての私の仕事だ。魔法は完全に自分のため。言わば趣味であり、生きがいなのだよ」

「ほーん……同じようなことを言っておるの」


 サクヤ様がチラッと俺を見る。


「言ってませんよ」

「昔、俺は選ばれた者だとか言っておったじゃろ」


 言ってたね。


「それはそういう病気だった時ですよ。仕方がないんです」


 きっと皆が通る道。


「そうかい……」


 サクヤ様は今も呆れているようだ。


「カーティスさん、研究は興味ありますが、私は旅をしていましてね。中々時間が取れません」


 土日にしか来られないしね。


「そうか……じゃあ、時間がある時でもいいしから今みたいに手伝ってくれ。本は好きに持っていっていいから」

「いいんです?」

「ギルドに所属している者には貸し出したりしているんだ。私はもう見ないし、好きにしてくれ」

「ありがとうございます」


 立ち上がると、魔石に魔法を込めながら本棚を眺めていく。


「色々あるのう……」

「ですね……カーティスさん、何冊か借りていってもいいです?」

「構わん。ただし、ちゃんと返してくれよ。他の者も見るんだから」


 さすがに借りパクはしない。

 それこそ岩見家の当主のすることではない。


「わかってます」


 その後も本棚を眺めつつ、何を借りようか悩みながら魔石に魔法を込めていく。

 そして、すべての魔石に魔法を込めたところで本を5冊に絞りきれた。


「カーティスさん、この5冊を借ります。多分、来週には返すと思います」

「1週間で読むのか?」

「好きなんですよ」


 他人の魔法研究を見る機会なんてないし、ましてや異世界の魔法だ。

 興味が尽きない。


「そうか。まあ、いいぞ」

「あと、魔石に魔法を込めましたよ。火魔法と水魔法の簡単なやつです」


 ちょっとした炎と水が出る程度の魔法だ。


「おー、全部できたのか! すごいな! スピードもだが、それだけの魔法を使える魔力もすごい!」

「魔法のことならお任せください」


 これだけは誇れるし、自信がある。

 中学の時に増長し、病にかかるのも無理はない……と思っている。


「うむ。また頼むこともあるだろうし、魔法ギルドに定期的に顔を出してくれると嬉しい。これは今回の依頼料だ」


 カーティスさんがお金をくれる。

 金ぴかの硬貨が10枚もあった。


「こんなにですか?」

「歩合だからな。君はよくやってくれた。ギルドにも報告しておこう」

「ありがとうございます。では、我々はこれで」

「うむ、助かった」


 俺達は研究室を出ると、中央の方に戻っていく。


「良い人でしたね。依頼料も良かったでしたし、本も貸してくれました」


 なお、本はサクヤ様に家に送ってもらった。


「良かったのう」

「もう昼ですし、どこかで食べますか?」

「ええの。パスタが良い」


 この前の牛の煮込み料理の店か。


「じゃあ、行きましょうか」


 俺達は教会近くの店に向かうと、昼食を食べる。


「美味いですねー……」

「じゃのう……午後からどうする? また仕事を探すか?」


 うーん……


「金貨10枚ももらいましたしね。それにちょっと本を読みたいです」

「借りたやつか。じゃあ、食ったら帰るかの」

「ですね」


 俺達は上品な味わいのするクリームパスタを食べると、帰ることにする。

 そして、転移で家に帰ると、またもや金髪の美女神様が家にいた。


 ノルン様はテレビの前に座っており、コントローラーを握っている。

 うん、ゲームしてるね。


「あ」


 目が合ったのだが、ノルン様はテレビ画面と俺達を見比べる。

 テレビ画面を見る限り、勇者のるんはダンジョン探索中だ。

 セーブできない。


「ゆっくりしていってくださいよ」

「おぬしも暇じゃのう」


 俺が座ると、サクヤ様が布団で横になる。

 すると、ノルン様がゲームを再開し、黙々と進めていった。


「レベルが8もありますね」


 昨日の夜は3だった。


「朝からずっとやっておったんじゃろ」


 だろうね。

 多分、俺達が午前中で帰ってくるとは思わなかったのだろう。


「ノルン様、お茶でも淹れましょうか?」

「大丈夫です」


 ノルン様はそう答えて缶のコーラを見せてきた。


「満喫しとるの……まあよい。我は寝る。夕食前に起こせ」

「わかりました。俺は本を読んでますんで」


 サクヤ様がスヤスヤとお昼寝タイムに入ったのでカーティスさんからもらった本を読むことにした。

 なお、勇者のるんは自分だけ良い武器と防具を揃え、仲間はこんぼうや布の服のままのワンマンパーティーのようだ。

 お古でいいから回してあげればいいのに……

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