第025話 ぽわぽわ斬り


 北門を抜けた俺達は外壁沿いを歩き、西門に向かっている。


「結局、冒険者って何ですかね?」


 職業的によくわからなかった。


「何でも屋じゃろ。魔法ギルドより信用が低いっていうのはそういうことじゃ。多分、審査とやらのレベルは相当低いと思うぞ」


 魔法ギルドとは違うわけか。


「民度は良さそうでしたけど……」


 ネイトさんも丁寧だったし。


「どうかな……ここは王都じゃろ? 他所に行ったらわからんし、国外はもっとわからん。注意は怠るなよ」

「わかりました」


 サクヤ様とジュリアさんがいるから気を付けないといけない。

 サクヤ様はともかく、ジュリアさんは強いし、問題ないだろうが、女子供を連れていると絡まれやすいのは確かだろう。


 俺達はその後も歩いていき、狼を探す。


「ハルトさん、わずかですが、魔力を感じます」

「確かに感じるのう……」


 そういえば、ジュリアさんは感知魔法が得意って言ってたな。

 ということはわからないのは俺だけか……


「狼?」

「さあ? 狼どころか魔物を見たこともないので何とも……ただ、そこまで強い魔力ではありません。でも、なんか複数いますね」


 複数?


「他の人かな? それこそ冒険者とか」

「どうなんでしょう? そこまでは……」


 わかんないか。


「これは人ではないぞ。人の魔力と魔物の魔力は別ものなのじゃからな」


 疎外感があるなー……

 ないものを補える良いパーティーと思うか……


「距離はどのくらい?」


 ジュリアさんに確認する。


「えーっと、50メートルといったところですかね?」


 50メートルなら普通に見える距離だが、王都の城壁は円形だから見えない。


「じゃあ、そろそろだね、準備しておいて」

「わかりました」

「がんばえー」


 俺達がその後も城壁沿いを歩く。


「来ますっ!」


 ジュリアさんが叫ぶと、前方から狼が駆けてきた。

 狼は俺を見ており、その目には殺意がこもっている。

 それを見て、狼に手を向けると、狼がジャンプし、城壁を壁走りするように駆けてきた。

 そして、壁を蹴ると、口を開けて、飛び掛かってくる。

 しかし、視界にチラッとジュリアさんの姿が見えると、一瞬で狼を両断してしまった。


「すごいのう……」

「かっこいいですね」


 思わず、2人で拍手をする。


「ありがとうございます。でも、まだいますね」


 うん。

 2匹いる。


「下がって」


 そう言うと、ジュリアさんがすぐに後ろに下がった。

 それを見て、こちらに向かってきている狼2匹に手を掲げる。


「アイスストーム」


 魔法を使うと、狼の周りが狼の足元ごと一気に凍り、動けなくなる。

 そして、上からつららが落ちてきて、2匹を突き刺した。


「ハルトさん、すごいです!」


 ジュリアさんが拍手を返してくれる。


「そう?」

「はい。浅井は魔法の展開の速さのために強化魔法を使います。でも、ハルトさんの魔法はとんでもなく速く、それすらも凌駕しています」

「わはは。ウチの子はすごいんじゃぞー」


 サクヤ様、ご機嫌だな……


「ありがと。もういない?」

「はい。もう魔力は感じません」

「3匹いたねー……」

「ですね……」


 1匹じゃないのか?


「目撃情報が1匹ってだけじゃろ。最初から3匹だったか後から2匹来たのかは知らんが、そういうこともあるじゃろ」


 ゲームっぽいけど、ゲームではない。

 情報が必ずしも正しいとは限らないわけだ。


「確かにそうですね。魔石を取ってしまいますよ」

「例の魔法は?」


 魔石を取る魔法ね。


「まだです。ちょっと魔石を持って帰って練習します」

「そうか。頑張れ」

「はい」


 倒した狼をネットで買ったナイフでさばいていく。


「何をしているんです?」


 ジュリアさんはそばにやってくると、屈んで狼を見ながら聞いてくる。


「魔石を取っているんだよ。魔物の体内には魔石という石があって、それが売れるんだ」

「へー……私もやりましょう」

「大丈夫?」


 お嬢様では?


「問題ありません」


 ワイルドだなー。

 この人、見た目や雰囲気とは違い、たくましいわ。


「じゃあ、ジュリアさんが斬ったやつをお願い。ナイフいる?」

「いえ……すでに両断しているので大丈夫です」


 そういえば、そうだったわ。


「すごかったね」

「剣がすごかったです。本当に軽いですし、使いやすかったですね」


 さすがはノルン様ソードだね。


「ノルン様に感謝しとこう」

「そうですね。ありがたい限りです」


 その後、手分けをして魔石を採取する。

 もちろん、サクヤ様は見学だ。

 まあ、やるって言われても拒否するけどな。

 さすがに神様にやらせていいことじゃない。


「お疲れさん。ほれ」


 魔石を採取し終えると、サクヤ様がウェットティッシュをくれたので手やナイフを拭く。


「ありがとうございます」

「ありがとうございます……あのー、狼の残骸はどうしましょう? このままだとまた魔物や獣が来ませんかね?」


 確かに来るかも。

 もちろん、食べるため。

 それだとまた危なくなってしまう。


「穴を掘って、そこに捨てよ。得意じゃろ」

「あ、そうですね」


 ジュリアさんが魔法で穴を作ってくれたので残骸を集め、穴に捨てて埋める。


「こんなもんかな?」

「便利な魔法じゃの」

「お役に立てて嬉しいです。この魔法もようやく日の目を見ました」


 かくれんぼかこういうゴミ処理魔法だしね。


「じゃあ、ギルドに戻ろうか」

「そうですね」


 俺達は冒険者ギルドに戻ることにした。

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