第083話 生まれる時代ではなく、世界を間違えたかもしれない
サラさんについていくと、サラさんの私室があった左奥の通路とは反対にある右奥の通路を歩いていく。
すると、正面玄関のような両開きの扉が見えてきた。
「あれが裏口になります」
「あの先が修験道ですか?」
「ええ」
俺達は扉の前まで来ると、立ち止まる。
「ここから先は結界が張ってありませんので魔物が出ます。護衛される身が言うのもなんですが、気を付けてください」
「わかりました」
「では、参ります」
サラさんは扉を開け、外に出たので俺達も続いた。
「ここが修験道……」
前方には火山に繋がっているだろう道が見える。
この前の街道と同じように5メートル程度の幅の山道であるが、違うのは両側共に10メートル以上の高い壁のような岩山になっていることだ。
「せっかくなのでここの歴史も説明しましょう。この道は火山の近くまで繋がっておりますが、自然にできたものではありません。この神殿ができる前からここに住んでいた者が人力で山を切り開いて作ったものと言われております」
この道を作ったのか……
日本にある重機を使ってもどれだけの予算と時間がかかるかわからない。
何しろ、火山までは相当の距離があるのだ。
「すごいですね……」
「よくやるのう……」
「ちょっと想像がつきませんね」
本当にね。
「これが信仰です。ただ、いくらなんでも無理じゃないかっていう意見もあり、相当な実力の魔法使いが手を貸したのでは、という説もあります。私はそっちの説が合ってると思います。魔法もまあ、人力ですので」
そっちの方がまだ信じられる。
人力ということはつるはしやハンマーだろうが、高さが10メートル以上もあるし、ちょっと無理じゃないかな?
「どちらにせよ、すごいですね」
「おぬしならできそうじゃがな……」
「なんとなく、私もそう思います……」
できないことはない。
イオナズ〇で吹き飛ばせばいいのだから。
「危ないですよ」
「まあの。サラ、この道を行くのか?」
サクヤ様がサラさんに聞く。
「はい。基本的には一本道になります。道中で魔物が現れることもありますし、上から飛び降りてくることもあります」
危ないなー。
「ふむ……その辺は我とジュリアで警戒するか」
「お任せを」
あ、また疎外感。
「ハワードさん、ワイバーンは出るんです?」
「いや、ここには出ない。ワイバーンは羽を広げたら5メートルを超えるし、ここは狭くて降りてこないんだ。この道は所々で開けた箇所があり、そこで襲ってくることがある」
確かにこんなところで飛んだら崖にぶつかるか。
「じゃあ、ワイバーンはそこで仕留めるわけです?」
「まあ、そうなるな。ただ、襲ってくることもあるというが、滅多にない。ワイバーンも獲物を選ぶから人間よりもベビードラゴンの方を襲う」
まあ、そっちの方が美味しそうだしね。
それに人間は反撃してくる可能性もあるからリスクが大きい。
「どうやるんです?」
「狩りの方法は帰りに教えよう。まずはサラの祈りが先だ。今倒しても持って行くのが面倒だし、鮮度が落ちる」
そりゃそうか。
まずは奥に行ってからだな。
「わかりました。サラさん、行きましょう。俺が先行します」
「よろしくお願いします。この道をまっすぐですので」
「はい」
俺達は俺を先頭にして、修験道を歩きだす。
前の街道と違って、落ちる心配がないので歩きやすい。
「お祈りってどれくらいの頻度でやるんです?」
「基本的には月に1回です。ただ冬はしませんね。この辺は雪が積もるんですよ。ただ、これも何百年も前から続いている巫女の仕事です」
へー……
「あのー、巫女って、どうやって決まるんですか?」
ジュリアさんがサラさんに聞く。
「教会に所属する15歳から30歳までの人間で一番魔力が高い者がなります」
「30歳で引退ってことですか?」
「そうなりますね。私は22歳なのであと8年です。29歳になった時に次の巫女に引継ぎと修行を1年間施し、大量の退職金をもらって引退ですね」
退職金がもらえるんだ。
「他の巫女もです?」
「そうなりますね。現在の水の巫女は私の1つ上、土の巫女は3つ上、風の巫女は4つ下になります」
皆、若いなー。
「ジュリアさんも巫女になれるかもね」
「ジュリア様は教会に所属してくださったら間違いないですね。私なんかよりずっと魔力が上です」
そうなんだ。
「さすがにノルン様の巫女は無理ですよ。私はタマヒメ様の一族であり、サクヤヒメ様の一族に嫁ぐ……嫁いだ身ですので」
ジュリアさんが苦笑いを浮かべる。
「それもそうだね」
なられても困る。
「おぬしも巫女になれんぞ」
「わかってますよ」
「ホントかー? おぬし、ノルン派じゃしのー」
いや、俺もサクヤ様の一族だし、なんなら当主だわ。
というか、男だから巫女は無理じゃない?
そして何より、30歳です。
「ノルン様は素晴らしい御方だと思っていますが、サクヤ様が一番ですよ」
「ふーん……」
サクヤ様が上を見上げる。
「どうしました?」
「あそこです」
ジュリアさんも上を見上げていたので見てみると、ベビードラゴンが崖の上からこちらを見ていた。
「よくわかるね……」
「私はまったくわかりませんでした」
「俺もだ。ベビードラゴンは魔力が低いから探知が難しいんだが……」
やっぱりそうか。
俺がダメなんじゃなくて、ジュリアさんとサクヤ様がすごいんだ。
「どうしよ?」
「こちらを狙ってますね……」
なんでわかるんだろ?
「飛びかかってくるのかな?」
「多分……小さいですし、身は軽そうです」
確かに……
「距離があるから無警戒かな?」
ベビードラゴンはこちらをじーっと見ているだけだ。
「上にいる者は強気でしょうし、そうだと思います」
「やるか……」
「仕留めておいた方が良いと思います。私がやりましょうか?」
ん?
「できるの?」
ジュリアさんって接近戦が得意じゃないっけ?
「これくらいなら崖をジャンプして飛べます」
ねえ、浅井と争うのは絶対やめた方が良くない?
「いや、俺がやるよ。そっちの方がいい」
「わかりました」
「魔石採取を考えると、火魔法はないよね?」
当然、イオナズ〇もない。
「氷魔法もやめたほうがいいと思います。ハルトさんの威力だと落ちてバラバラになりそうです」
なるかも。
「じゃあ、風魔法かな……エアカッターって名前で良いかな?」
「どういう魔法を使うのかはわかりませんが、良いと思います」
「エアカッター」
上にいるベビードラゴンに手を向けると、ベビードラゴンが首を傾げた。
しかし、そのままずるりと首が落ちると、落下し、地面に激突する。
俺達の目の前にはただ血を流す首のないベビードラゴンが横たわっていた。
「すごいですね」
「そうかな? 魔石を採るよ」
「お願いします」
死んでいるベビードラゴンから魔石を採る魔法を使い、魔石を抜く。
「ハワードさん、この魔石を買い取って…………ってどうしました?」
ハワードさん、そして、サラさんが信じられない者を見る目でこちらを見ていた。
「無詠唱であのスピード、あの威力か……」
「何が起きたか全然わかりませんでした」
わかったら当たらないじゃん。
「そういう魔法です」
日本では使う機会ゼロだけど。
だから魔法名がないのだ。
「なるほど……ドラゴンスレイヤーになるわけだ」
「ジュリア様の探知能力もですが、本当に素晴らしいです。さすがは神の一族ですね」
この称賛もまた、あっち世界ではもらえないものだ。
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