第082話 やはり筋肉だ


 翌朝、前にも見た同じ布団で寝るサクヤ様とタマヒメ様を見て、絶対にあの1話だけで寝てないなと思いつつ、2人を起こす。

 そして、3人で朝食のパンを食べると、準備をした。


「前から気になってたけど、あんたら、なんで着替えてるの? しかも、なんかコスプレみたい」

「異世界はこんな感じなんですよ。こっちの服で行ったらめっちゃ見られました」


 多分、この服でこっちの世界をうろつく感じだと思う。


「へー……だからジュリアもそんな感じなんだ。まあ、似合ってるんじゃないの?」

「タマヒメ様もノルン様にいただいたらどうです?」

「行かないってば」


 タマヒメ様がふるふると首を横に振る。

 なんか可愛い。


「タマちゃんは魔法使いっぽい格好が似合うと思うな」

「えー、絶対に白魔導士ですよ」

「そうかー?」


 癒し系だもん。


「だから行かないし、服もいらないってば」


 タマヒメ様がまたもやふるふると首を横に振る。

 やっぱり可愛い。


「まあよいか。ハルト、ジュリアのところに行こう」

「ええ。いつでも来ていいってメールが来てます」

「よし」


 サクヤ様が頷くと、ジュリアさんの家に飛ぶ。

 すると、ジュリアさんもあっちの服に着替え終えており、座って待っていた。

 ただ、リュックサックを背負っている。


「おはようございます」


 ジュリアさんが微笑みながら挨拶をしてきた。


「おはよー。そのリュックはどうしたの?」

「今日はサラさんと修験道に行きますからお弁当です。昼にサラさんを置いて帰るわけにも行きませんし、連れてくるのも良くないと思いますので」


 なるほど。


「あ、じゃあ、リュックは俺が持つよ」

「よい。我が背負おう」


 おや? 珍しい。


「大丈夫です?」

「中身は弁当じゃろ? 問題ない。それにおぬしらは戦闘もあるし、弁当がぐちゃぐちゃになる。嫌じゃい」


 まあ、確かにね。

 ジュリアさんの弁当は見た目を綺麗だし。


「いけます?」

「任せろ、任せろ。我に秘策があるのじゃ」


 サクヤ様はジュリアさんからリュックを受け取ると、弁当を取り出し、テーブルに置く。

 そして、空になったリュックを背負った。


「あー、サクヤ様、〇次元ポケットならぬ転移が使えますもんね」


 さすがはサクえもん。


「そういうことじゃ。よし、準備はええか?」

「はい。いつでも行けます」

「私も大丈夫です」


 俺とジュリアさんが頷く。


「では、行こう」


 またもや視界が変わると、眺めが良く、部屋の隅で赤い結晶が輝く聖都の別荘に飛んできた。


「今日はここに泊まりませんか?」


 ジュリアさんが提案してくる。


「そうじゃの。あのキョロ神を連れてくるか」


 タマヒメ様ね。


「良いと思いますよ。ジュリアさん、タマヒメ様って辛いのを食べられるの?」

「大丈夫だと思います」

「じゃあ、問題ないね」


 マグマ亭で決定。


「ハルト、ワイバーンを狩るんじゃぞ」

「できたらやります」

「おぬしはできる子じゃ。よし、行くぞ」


 俺達は別荘を出ると、駅に向かい、教区行きのトロッコに乗り込む。

 そして、車窓から覗く景色を楽しみながら揺られ、教区にやってきた。


「暑くなってきましたが、この辺は涼しくて良いですね」

「うむ。絶好のハイキング日和じゃの」

「そうですね。あの……」


 ジュリアさんがおそるおそるこちらを振り向く。

 理由はわかっている。

 神殿の入口付近にごついおっさんが立っているのだ。


「例のあれですかね?」

「まあ、プロフェッショナルじゃしの」

「い、行ってみましょうか」


 俺達はそーっと神殿に近づき、じーっと見てくるマッチョマンに気付かないフリをしながら扉を開けた。


「あ、おはようございます」


 神殿の中にはサラさんがおり、こちらにやってくる。


「おはようございます」

「おはようございます」

「おはよー、なのじゃ」


 俺達も挨拶を返した。


「すみません。まだもう御一方が来てなくて……」

「あ、いや、ここに……」


 外を覗くと、魔法ギルドのハワードさんがいる。


「あれ? ハワードさん、外で待ってたんですか?」


 サラさんも外を覗き、ハワードさんに声をかけた。


「こいつらを待っていたんだ。無視されたが……」

「怖いんですよー」


 縦にも横にでかすぎ。


「あー、ちょっと怖いかもしれませんね。昔から知っている人なのであまり意識はしていませんでした」

「知ってるの?」


 まあ、同じ町だが……


「冒険者ギルドのシンディーのお父さんですよ。シンディーとは同級生なんです」


 あ、それでか。


「へー……」


 まあ、心強いと思うか。

 この人、歴戦の戦士だし……あ、いや、魔法使いか。


「ハワードさん、今日はよろしくお願いします」


 サラさんが笑顔で頭を下げた。


「ああ……俺は基本、サラの護衛をする。お前達はお前達で動くといい。邪魔はせん」


 ん?


「邪魔というのは?」

「魔物の所有権は魔物を倒した者のものだ。魔石もそうだし、ワイバーンを狩るんだろ? 狩り方は教えるから自分達でやるといい。俺はいらないからな」


 そういやドラゴン狩りを共にした騎士のロバートさんもそんなことを言ってたわ。


「いいんですか?」

「こういう護衛や初心者共の指導なんかはやっているが、基本的に俺はもう引退した身だ。質問があれば答えるし、ピンチがあれば助ける。そうでなければお前達でやれ。まあ、ドラゴンスレイヤーがワイバーンでピンチになるとは思わんがな」


 多分、あのファイアードラゴンは弱いと思う。


「わかりました。それではサラさんをお願いします。正直、護衛の仕事をしたことがないので不安だったんで」

「任せておけ」


 ハワードさんが力強く頷いた。

 怖いけど、その分、とても頼りになる人だ。


「では、役割分担が決まったところで早速、参りましょうか。修験道へ入口はこちらになります」


 サラさんがそう言って、神殿の奥に行ったので俺達もついていくことにした。

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