第029話 料理の神


 ゴールデンウィーク初日の土曜日。

 俺にとっては3連休だが、ジュリアさんにとっては10連休の始まりとなる日だ。

 この日は異世界に行く日なので朝ご飯を食べると、準備をする。

 すると、ジュリアさんから準備ができたというメールが届いたのでサクヤ様に迎えに行ってもらった。


「おはようございます」


 靴を持ったジュリアさんがやってくる。

 もちろん、異世界の服を着ているし、腰には銃刀法違反なノルン様ソードが差してある。


「あれ? 靴買ったの?」


 前は白いスニーカーだったはずだが、持っているのは茶色だ。


「はい。先週はウォーキング用の靴でしたが、私も異世界用の靴が良いと思ったんで買ったんです」

「良いと思うよ。綺麗な道ばっかりじゃないしね」


 町の中は綺麗だし、外も舗装がある街道は問題ないが、森とかに入ることある。

 スニーカーは滑りやすいし、そういう靴の方がいいだろう。


「さて、行くかの。2人共、準備はいいか?」

「はい」

「お願いします」

「うむ」


 サクヤ様が頷くと、一瞬で視界が変わる。

 そして、裏道から出ると、先週と変わらないフロック王国の王都にやってきていた。


「今日はどうするんです?」


 ジュリアさんが聞いてくる。


「まずだけど、魔法ギルドに行って、ジュリアさんの魔法ギルドのカードを作ろうと思う。あそこのカードは身分証明としてもしっかりしているっぽいし、持っていた方が良いと思うんだ」


 冒険者ギルドのカードはそこまでのようだし、何より、パーティーのカードだ。

 旅をするうえで何が起きるかわからないし、ジュリアさんも持っているべきだと思う。


「私で取れますかね? たいした魔力を持っていませんけど……」


 そうなのかな?


「問題なかろう。町中で魔法使いらしき者とすれ違っておるが、ジュリアの魔力を超える者はそうはおらんかった。何ならカーティスの方が低い。問題なく取れると思うぞ」


 さすがは浅井さんの家。


「そ、そうですかね? 自信はあまりなかったんですが……」

「問題あるまい。我は十分だと思うな」

「あ、ありがとうございます」


 魔力を褒められて嬉しいのかジュリアさんが頬を染めている。


「じゃあ、魔法ギルドに行こうか」

「はい」

「行くかのー」


 俺達はこの場をあとにすると、魔法ギルドに向かった。

 ギルドに着き、中に入ると、まだ朝だからかそこまでの人はおらず、閑散としている。

 そんな中、受付にチェスターさんがいたので向かう。


「おはようございます」

「やあ、おはよう。今日は可愛い子を連れているね?」


 チェスターさんがジュリアさんを見る。


「えーっと、妻です」

「ジュリアです。よろしくお願いします」


 うーん、やっぱりジュリアさんってこっちの世界の方が名前が馴染むな。


「そうなんだ。見た感じ魔法使いのようだね?」

「そうなんですよ。それでジュリアさんも魔法ギルドの所属できないかなって思いまして」

「いいよ」


 チェスターさんはあっさりと頷いた。


「いいんです?」

「まあ、ぱっと見ただけで優れた魔法使いってわかるしね。それに君の奥さんなら身分は保証されているようなものだ。問題なく、魔法ギルドのカードも発行できるよ」


 そんなに簡単なんだな……


「じゃあ、お願いします」

「うん。でも、ちょっと時間をもらうよ。作るのにも時間がかかるからね」

「どれくらいです?」


 ホリーさんはゴブリン狩りの間に作ってくれたが……


「数時間ってところ。作っておくからその間に仕事をする気ない? 実は君に指名依頼が来ている」


 んー?


「指名依頼って何です?」

「そのまんま。普通は依頼を見て、僕達が適当だなって思う人に振り分けるんだけど、指名依頼は最初から依頼主が受ける人を指名しているんだよ。もちろん、断ることはできるけど、依頼料が高かったりするし、おすすめだね」


 へー……


「ちなみに、誰からです? カーティスさん?」

「だね」


 まあ、その人しか知らんしな。


「また魔石に魔法を込めるやつですかね?」

「似たような依頼っぽいね。ぜひ君に頼みたいって来てる。前の依頼の評価点も高かったし、気に入られたね」


 依頼料も色を付けてくれたしな。


「評価点って何です?」

「依頼主が依頼に対しての姿勢や成果を評価することになっているんだよ。これをウチで集計して、君達を評価している。じゃないと、依頼を振り分けられないじゃないか」

「なるほど」


 確かにそうだ。

 あっちの組合でもしてるのかね?

 そうなると村田さんにAVを借りたりしたことはマイナス点かもしれない。

 いや、マイナスは村田さんか。


「各ギルド員の評価は非公表だから言えないけど、君の評価は教えてあげる。今のところは最高評価だね。カーティスさんが付けてくれた」


 依頼を1つしかこなしてないしな。


「どうも……そのカーティスさんからの依頼ねー……サクヤ様、受けてもいいです? 本を返したいと思っていましたし、どちらにせよ、寄る予定ではありました」


 結局、2週間も借りている。


「いいんじゃないか? あやつ、金払いも良いし」


 確かに良い。


「ジュリアさんは?」

「私はよくわかっていないのでハルトさんにお任せします」


 それもそうか。


「チェスターさん、受けようと思います」

「りょーかーい。じゃあ、カーティスさんのところに行ってきて。今日は研究室に籠っているそうだから」

「わかりました。ジュリアさんのカードの方をお願いします」

「任せといて。あ、そうそう。青船亭に行った?」


 ん?


「先週行きましたよ」

「先週かー。惜しいね。実は3日前から新しいパスタが出たんだよ。魚介の煮込みパスタっていうの。これが美味しくてねー。一昨日から大行列らしいよ」

「へー……」


 サクヤ様考案のパスタか。

 いやー、ものすごくドヤ顔を浮かべてらっしゃる……

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