第093話 まあ、本気ではなかったんじゃよ……


 俺達がお酒のメニューを見ながら待っていると、すぐに注文したお酒がやってきたので乾杯をし、飲み始める。


「うはー、生じゃのう」

「美味しいですね」

「そうだねー」


 一口飲んだのでテーブルにあるタブレットを持ってきて、ジュリアさんの前に置く。


「注文はタブレットなんですね」

「最近はそうだね。好きなものを頼んでいいよ。あ、えーっと、だし巻きと軟骨の唐揚げは頼んで」

「我はタコ唐な」


 サクヤ様が食べたかったわけね。


「お好きなんですか?」

「だし巻きと軟骨の唐揚げはタマヒメ様とノルン様に送るんだよ」

「あー、そういうことですか。美味しいですもんね」


 うん、美味しい。

 定番メニューの1つだし。


「せっかくだし、2つ頼んでよ。1つを送るからさ」

「わかりました。サラダを頼んでいいですか?」

「いいよー」


 ジュリアさんはタブレットを操作し、色々と注文した。


「目移りしちゃいます」

「わかる、わかる。でも、好きなのを頼んでいいからね。余っても家に送るだけだから」


 ゲームをしている御二方におすそ分けだ。


「それもそうですね。しかし、こういう席はなんか良いです。騒がしいのにここにいるのは私達だけって感じがします」


 今日は金曜日なため、比較的お客さんも多く、あちこちから話し声が聞こえるし、店員さんも活気がある。 

 でも、このボックス席は敷居と暖簾で区切られているため、なんか良い。


「こういうのも居酒屋の味だと思うよ。男子的に言えば秘密基地感がある」

「ふふっ、秘密基地は作ったことがないですけど、きっとそんな感じですね」


 ジュリアさんは作ったことないだろうな。

 まあ、秘密基地を作るのは大抵、男子だ。


「会社の飲み会って大部屋だったでしょ?」

「はい。座敷でずらーっと並んでましたね。帰りにこういう席やカウンター席を見て、ああいうのも良いなって思ったんです」


 それで来たかったわけだ。


「わかる、わかる。俺も何回か来たことあるけど、やっぱりこういう席は良いよ」

「はい。楽しいです」


 ジュリアさんが笑顔で頷く。


「我、外そうか……?」


 サクヤ様がなんか言いだした。


「いや、一緒に楽しみましょうよ」

「そうですよ。あ、空いてますね。何か飲まれます?」

「ハイボール……邪魔じゃないかなーと」


 全然、邪魔じゃない。


「そんなことないですよ」

「そうですよ」

「そうか? まあ、我の役目は対面に座って、おぬしらを並んで座らせることじゃから別に良いんじゃが……」


 何、その仕事?


 よくわからないなーと思っていると、料理と追加注文したハイボールが来たので飲み食いする。


「だし巻き美味しいです」

「だねー。サクヤ様、だし巻きと軟骨の唐揚げを送ってください」

「ひゃいよ」


 タコの唐揚げを食べているサクヤ様がだし巻きと軟骨の唐揚げを家に送る。


「ちゃんと皿は返してくださいね」

「わかっておる。あー、やっぱりタコ唐とハイボールじゃなー」


 おっさんか。


「サラダも美味しいね」

「そうですね。お酒も美味しいです」


 俺達はその後も話をしながら飲み食いを続けていく。

 すると、パッとテーブルの端に空になった2枚の皿が現れた。


「あやつらじゃの」

「なんかメモがありますね」


 ごちそう様かな?


「えーっと、ポテトフライって書いてあるな……」


 綺麗な字でそう書いてある。

 しかも、可愛らしい女性の顔の絵付き。

 多分、ノルン様だろう。


「追加注文のようじゃの」

「頼みますね。何か飲まれます?」


 タブレットを取ったジュリアさんが聞いてくる。


「俺もグレープフルーツサワーを飲んでみる」

「我はハイボールのおかわり」

「わかりました。私はカルーアミルクにします」


 ジュリアさんが追加注文してくれ、すぐにやってきたお酒を飲む。

 そして、話をしながら料理を食べたり、家でゲームしている2人にも料理を送ったりしながら楽しんでいると、お腹もいっぱいになり、お酒が良い感じに回ってきたので店を出た。


「美味しかったですねー」

「本当にねー」


 評判通りの良い店だった。

 料理もお酒もメニューが豊富で美味しかったし、雰囲気も良かった。

 それに清潔感があって、綺麗だった。

 かつて、東京にいた時の会社の先輩に女と飲みに行く時はトイレが綺麗な店にしろって言われたことを思い出したくらいだ。


「お酒を飲んだせいかふわふわしますね。楽しい気分です」


 いつもぽわぽわしているジュリアさんがいつも以上に笑顔でぽわぽわしている。


「じゃあ、カラオケでも行こうか」

「はい」


 ジュリアさんの手を取り、ちょっと歩いたところにあるカラオケに向かう。

 俺とジュリアさんが並んで歩き、前にはサクヤ様がご機嫌に歩いていた。


「こけないでくださいよー」

「こけんわい。しかし、こっちの世界の夜も悪くないのう」

「それはそうですね」

「はい。異世界も楽しいですけど、違う世界を知ったからこの町の良さを改めて知ったというのは感じます」


 俺もそう思っている。

 異世界には異世界の良さがあり、この町にはこの町の良さがある。


「カラオケないしね」

「ふふっ、そうですね」


 俺達はお酒の力もあり、上機嫌で歩き、カラオケにやってくる。

 カラオケは混んではいたものの、空いていたので普通に入れた。

 そして、お酒を注文すると、最初はサクヤ様が女児アニメのオープニング曲を歌う。


「声が綺麗ですね」

「うん」


 声はね。

 でも、下手くそだ。

 人のことをまったく言えないので口には出さない。

 音楽はソウルなのだ。


「ふう……おぬしらも歌えよー」


 歌い終わったサクヤ様がハイボールを飲む。


「お上手ですね」


 ジュリアさんが小さく拍手する。


「そうかのう? まあ、上手さよりも思いっきり歌うと良いぞ」

「そうします」


 今度はジュリアさんがマイクを持ち、歌い始める。

 曲は俺も知っているアニメの歌だった。


「何とも言えんのう」

「笑顔が可愛いと思います」


 歌はまあ……

 下手ではないが、上手くもない。

 普通?


「いやー、楽しいですね」


 歌い終わったジュリアさんが笑顔でお酒を一口飲む。


「すごく良かったよ」


 楽しそうなのが良かった。


「まあ、おぬしよりかは上手いか」

「サクヤ様よりもね。採点を入れてみます?」

「よかろう。最高得点が一番低い奴が負けな」


 よっしゃ!


 俺達はその後、夜遅くまでカラオケを楽しんだ。

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