第3話 3対1


「さて、みんな準備はできたようだな。クソガキも体調は万全か? あとで体調が悪かったと言い訳されても面倒だから、お前は別の日に変更してもいいぞ」


「……てめえは絶対にぶっ殺す!」


 Bクラスの生徒たちを引き連れて演習場へとやってくる。ついでに医務室で治療が終わったクソガキどもを回収してきた。


 身の程を知るにはちょうどいい機会だからな。ゲイルとかいうクソガキは殺気のこもった眼差しで俺を睨みつけてくる。


「しかし俺がいたころに比べて随分と立派な演習場になったものだ。痛みなんかも10分の1までカットされるのか……俺の頃は3分の1くらいまでしかカットされなかったぞ。痛みを伴った方がより成長できるとか言っていたあのスパルタ教師が懐かしい」


 この演習場内には特別な魔道具が使用されていて、怪我をしないようになっている。その代わりにダメージを受けた者がその分の痛みを負う仕組みだ。俺がいた頃よりも魔道具の技術が進んで、今では痛みを10分の1にまで抑えてくれるらしい。


 この特別な魔道具はかなり高度な技術を使用し、かつ貴重で高価な素材が使われていて維持費も非常に高い。


 この機能を常に自分の周囲にだけ展開できたら最強なんじゃね、とか思っていたけれど、そんなものは仕組みをしれば一瞬で無理だと悟るだろう。


「……ギーク先生はこの学園の卒業生だったのですか?」


「ああ、もう10年以上前だけれどな」


「10年以上ですか……確かにその頃ならば、お金の力で入学することができませんでしたし、ギーク先生の実力はあるのでしょうね」


「………………」


 その言い方だと、今では金の力で入学することができるようにも聞こえるぞ……


 アノンがそんな裏口入学みたいなことを許すわけはないが、あいつがこの学園の学園長になったのは今年からだからなあ。もしかするとそれまでは本当に裏口入学なんかがあったのかもしれない。教師の質もそうだが、生徒の質も落ちていくわけだ。


 ちなみに俺がこの学園にいたころ在籍していた教師はほとんどいなくなっていた。アノンに聞いたら、大規模な教育改革があって教員が多く入れ替わったらしいけれど、絶対にそのせいでこの学園が腐っていっただろ……


「えっと、ギーク先生は本当にその格好で模擬戦を行うんですか? 見たところその白衣は普通の服に見えますが」


「ああ、これで問題ない。白衣は俺の戦闘服だからな。正直な話、魔術で服を強化すればどんな服でも戦闘服になる。今回はその必要もないと思うがな」


 俺の格好はワイシャツにネクタイ、そして白衣だ。白衣は医療関係者や研究者の証であり戦闘服だと思っている。この清潔感溢れる白衣に身を包まれてこそ、本気で研究に没頭できるのである。


 ちなみにこの学園の生徒の制服とローブには物理と魔術耐性が組み込まれている。この演習場内では服も傷付くことはないが、服や防具はフィードバックされる痛みに影響があるぞ。


 まあ、俺はダメージを受けるつもりはないから服は何でも構わない。


「……ちっ、なめやがって!」


「ゲイル様、痛い目見せてやりましょうよ」


 クソガキが悪態をつく。まあ今のはわかっていて少し煽った。


 他の生徒も少しむっとしている。こちらとしても本気で来てもらった方が、生徒の実力をしっかりと把握することができる。

 

 それにしても、防衛魔術の授業は自身の身を守ったり、対魔物や対人戦の術を教える大事な授業だ。個人的には自身の身を守る大事な能力だから、無能教師に任せるべきではなかったと思うんだがな。


「時間も勿体ないからさっさと始めるぞ。ルールは開始の合図があったら、どんな手段を使ってもいいから相手を戦闘不能にすればそこで終了だ。確か戦闘不能になるダメージを受ければ合図が鳴るんだろ?」


「はい。ブザーが鳴って、そちらの登録したランプが消えれば戦闘不能と見なされます」


「その辺りは変わってないようだな。それじゃあまずは俺が入ってと……」


 俺が演習場のフィールド内に入ると演習場の上部にある一番左の赤いランプが点灯した。このフィールド上に新しく人が入るたびに隣のランプが点灯し、戦闘不能のダメージを受ければ、対応したランプが消灯するといった仕組みだ。


「最初は誰だ? シリルからくるか?」


「そうですね。私からの提案ですし、私が――」


「すっこんでろ、シリル! 最初は俺様からいくぞ!」


「………………」


「なんだ、カーライル伯爵家の俺様に文句でもあるのか?」


「……いえ、むしろ私の方から譲らせてもらいます」


 シリルがフィールドへ上がろうとしたところで、クソガキがシリルを押しのけてフィールドへ上がる。


 本当にこのクソガキは今までどれだけ甘やかされて育ってきたのだろうな……親の顔が見てみたいものだ。


「それじゃあ最初はおまえだな。そっちの2人も上がってこい。3に相手をしてやる」


「んなっ!?」


「3人同時だと!?」


「……貴様、どれだけ俺たちをなめているんだ?」


 俺が取り巻き2人を指名すると、周囲がざわつく。


「別にお前たちをなめているわけじゃない。他の生徒にも3人ずつかかってきてもらう。お前らの方こそ俺をなめすぎだ。俺がそう言った意味とさっきの反射の魔術を使った意味をよく考えろよ」


 怒り心頭といった様子で顔を赤くしているが、別に今回は煽っているわけではない。


 研究者としてではあるが、これでも大賢者の称号を持っている身だ。


 戦うだけなら生徒全員でも問題ないとは思うが、今回は生徒たちの魔術の腕も併せて把握しておきたいから3人ずつにした。

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