第17話 そこまで甘くはない


「ソフィア、やめなさい!」


「はっ、はい、姫様!」


 ソフィアが俺を睨み、今にも俺に飛びかかってきそうな瞬間にエリーザがそれを止めた。


「ギーク教諭、ソフィアが大変失礼しました。質問にお答えいただき、ありがとうございます」


「ひ、姫様!?」


 ソフィアに代わってエリーザが頭を下げてきた。


 エリーザの方が従者のソフィアよりもしっかりしているのはいろいろと問題がある気はするぞ……


「君が謝罪する必要はないし、気にしていない。さて、そろそろ授業を始めたいのだがいいかな?」


「はい、もちろんです」


「……くっ!」


 ソフィアの方は思いっきり殺気のこもった目で俺を睨んでいるが、さすがにこれ以上は何かしてくる様子はないみたいだ。まったく、従者としては失格だろうに。


 まあ、仮にこいつが俺に攻撃を仕掛けてきたとしても、最初は他のクラスにもいた喧嘩っ早い連中と同様にチョークを投げるだけで許したがな。


 ……そしてソフィアの他にももう1人俺を睨んでいる女生徒がいる。彼女は退学処分になったガリエルの取り巻きであるロッフと付き合っていたらしい。


 彼氏が退学処分となって俺が憎いようだ。ガリエルと仲が良かった生徒がどれだけいるのかわからないが、その辺りからも恨まれている可能性はある。


 ちなみにエリーザはベルンとメリアの件には一度も加担していなかった。


 さすがにエリーザがベルンとメリアをいじめていた黒幕とか言われたら面倒だから、少し安心したぞ。まあ、もしも黒幕だったとしたら、たとえ第3王女であっても必ず責任は取らせるつもりだったがな。


「さて、この授業についてだが、やはり防衛魔術を使用した実戦演習を必要とする者もいるだろうし、予定通り実施しようと思う。ただし、実戦演習に参加するかは各自の自由にすることとした。演習場での授業と座学の授業を交互に行うので、演習が必要ない者はこの教室で自習とする」


 以前にエリーザから提案のあったことだが、確かに優秀な護衛のいる者や模擬戦や実戦演習を必要としない者もいる。


 それに痛みは10分の1になるとはいえ、魔術を実際に使用することもあって多少は危険だし、やる気のまったくない生徒に必要はないという判断だ。


 少し甘いかもしれないが、確かに研究職を目指す者もいるだろうし、実戦演習が不要な者もいることは事実だ。


 そう考えると、元の世界であったように自身で必要な教科を選べる選択制の授業はありだな。またアノンに相談してみるか。


「自習をしている者も欠席扱いにはしない。ただし、学期末の試験では防衛魔術を使用した試験も予定通り行う。そこでの成績は演習を受けていない生徒と区別する気はないので、そのつもりでいてくれ」


 この学園は前期と後期に分かれていて、学期末には全教科の試験がある。当然防衛魔術の試験は座学だけでなく魔術を使った実戦形式の試験がある。そっちの試験は普段演習の授業に出ていた方が有利になるわけだ。


 この授業を捨てて授業の半分を自習に当てるのも各生徒の自由だ。もちろん試験の成績が悪かったら、たとえ第3王女であったとしても、容赦なく最低評価をつけるつもりである。


 まあ、エリーザは学園の入試がトップだったらしいから、そんなことはないと思うがな。


「演習の内容も魔物との戦闘以外にも護身術を中心に教えていくつもりだから、君たちにも十分学ぶ価値はあると思う。それではこのあと演習を希望する者は演習場へ移動してくれ。ちなみに授業時間の途中から演習場へ来てもらっても構わないぞ」


 だが、やはり以前にも言っていた通り、エリーザは演習が不要で自習をするらしい。


 そうなると予想通りと言うべきか、他の生徒もエリーザに倣いこの教室から動こうとはしなかった。




「……ふむ、やはり来ないか」


 授業が終了したが、結局演習場に来たSクラスの生徒はいなかった。


 元々Sクラスは第3王女のエリーザと侯爵家のガリエルに追従する者がほとんどで、ガリエルとその取り巻き5名が退学した今、クラス全員がエリーザと同じ行動を取ったようだ。


 俺がガリエルを退学にしたと考えていそうなエリーザは最初は参加してくれるのではと思ったが、そこまで甘くはなかったようだな。


 ふむ、俺の動向を探っている可能性もあるか。ガリエルとはそれほど仲がよさそうなそぶりは見せていなかったから、その意趣返しというわけではないだろう。


「一度くらいは参加してほしかったが、こればかりは仕方がない」


 もちろんSクラスと同様に他のクラスも同じようにするつもりだ。Sクラスだけ特別扱いするつもりはない。


 とはいえ、他のクラスでは1人も来ないということはないだろう。男爵家の5男とかなら、家を継がずに領地を守る騎士になったり、冒険者を選ぶ者も多いに違いない。


 それに一番最初に演習の授業をした時の生徒たちの反応は悪くなかったから、少なくとも半数以上は参加してくれるはずだ。まあ、こればかりは実際に明日の授業になってみないとわからないがな。






 放課後。


 今日から俺用の研究室として、小さな1室が与えられた。黒板と10人くらいしか入れない小さな部屋だが十分である。後ほど俺好みの研究用の道具を持ち込むとしよう。


「シリル、先日の件はとても助かった。本当に感謝する」


 そして本日の放課後、先日と同じようにシリルから質問があるということで俺の研究室に来てもらった。俺もベルンとメリアの件でお礼を言いたかったからちょうどいい。


「私の方こそお礼を言わせてください。まさかギーク先生が本当に侯爵家の者を退学処分にしてメリアさんを救ってくれるとは思ってもいませんでした」


 俺の礼に対してシリルの方からも頭を下げてくれた。


 やはりシリルはあいつらのいじめを知っていて、それを止めたかったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る