第16話 質問
「さて、それでは今日の授業を始める」
「「「………………」」」
ふむ、当たり前だが空気が非常に重い。
というのも、このSクラスの人数は元々15人だったのだが、本日付けでそのうちの5人が退学処分となったので、10人まで一気に減ってしまった。
この学園の授業をする教室は元の世界でいうと大学の教室のように長く連なった椅子へ各自で自由に選んで座るようになっている。そのため、小学校のように各自の机という物はない。もしも各自の机がなくなったら、一気に5つの席が空になりガランとした教室になっていただろうな。
「ギーク教諭、ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、どうぞ」
開始早々にこのSクラスで一番の発言力を持つ、この国の第3王女であるエリーザが手を挙げた。
この学年で唯一の侯爵家であるガリエルが退学処分となったから、この学年の発言権はこれまで以上に彼女が持つことになるだろう。
「……本日付でマルセーノ侯爵家のガリエル殿および他4名が退学処分となりました。まずその情報につきましては正しいのでしょうか?」
「ふむ、授業には関係のないことだが、まあいいだろう。その情報については掲示されていた通りだ。他の生徒への暴力行為および魔術の悪用による理由によって退学処分となった。その行為は悪質かつ継続的に行われていたため、停学処分を挟まずに一発で退学処分というわけだ」
「「「………………」」」
ざわつくSクラスの生徒たち。
おそらく侯爵家の者が退学処分となったため、信じられないと言った様子だ。
「……その件につきまして、その後ガリエル殿がマルセーノ侯爵家を勘当され、国外追放された件にはギーク教諭が関わっているという情報を耳にしたのですが、それは本当のことでしょうか?」
ふむ、大手商会に俺の名を使って通達をしたが、その詳細は他言しないようにも伝えていあった。多少はそのことが他の者に漏れるとは思っていたが、本当に情報が早い。
マルセーノ侯爵家当主がその条件をのんだことは昨日の夜に決まったことなのにな。さすがこの国の王族といったところだろうか。
「その件についてはマルセーノ侯爵家の中での決定なので、俺は知らんし何も言えない。ただ、彼を退学処分に処したのは俺で間違いないということだけは伝えておこう」
さらにざわつくSクラスの生徒。まあ、臨時教師が侯爵家や伯爵家の生徒を退学処分に処したと言われたらそりゃ驚くか。
ベルンとメリアの家族の職を奪おうとしてたことに対しては大手商会にギルの名前で条件を出したこととは別の伝手でバレないように潰したから、そちらに注目が集まることはないだろう。
むしろ、俺に報復行動をしようとして国外追放になったかもと広まった方があの2人に注目がいかずにすむ。
「そんなわけで、もしもガリエルのような愚かな行為をしている者がいたら、今すぐ止めることを進言しよう。あるいは現在同様の行為を他の者から受けている者がいるならば、悪いようにはしないから俺に相談してほしい」
さすがに侯爵家の生徒が処分されたとなれば、他の生徒も多少は相談しやすくなるだろう。
言い方は悪いが、ガリエルは見せしめとなってくれた。いじめをしたり、魔術を悪用すると容赦なく罰が与えられるという前例は大きな抑止力ともなる。
「さて、質問は以上でいいか?」
「……ありがとうございます。もうひとつ質問なのですが、ギーク教諭はこの学園に来る前まではどのような仕事をされていましたか?」
ふむ、その質問をするということは、すでに俺の経歴についても調べられているのかもしれない。昨日の今日で王族の諜報部は本当に優秀だな。
もっとも、俺が大賢者であるということまでは辿り着けないだろう。というのも、俺は学園を卒業してからはずっとひとりで研究を進めてきたからな。
その間は非常に少人数としか関わりを持っていないから、それ以降の俺の経歴を調べるのは難しい。ギークという架空の人物は流れ者の魔術師を学園長のアノンがスカウトしてきたとなっているので、その足取りを掴むのも不可能だろう。そもそもそんな人間はいないわけだしな。
「すまないが、それはプライベートな質問なので答えられない」
「なっ!? 貴様、姫様の質問にはすべて答えろ!」
「答える義務はないな。それと、クソガキ。俺のことは形だけでもいいから先生と呼べと言っているだろう」
エリーザの隣に座っていた護衛兼メイドのソフィアが立ちあがって叫ぶが、俺はそれを退けた。
「貴様、臨時教師風情が調子に乗って……」
そう言いながら両手を後ろに回すソフィア。もしかすると武器を取り出そうとしているのかもしれない。
俺がガリエルを退学処分にしたと知ってその行動は度胸があるというか、むしろただの無謀な行為だと思うが。
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