第18話 勇気のある行為


「臨時教師ではあるが、コネは持っているからな。とはいえ、俺はあの時メリアのSOSには気付けなかった。2人を救えたのはシリルのおかげだ。本当に感謝している」


「……感謝する必要はありませんよ。私は彼女が苦しんでいることを知っていたのに何もできませんでした。そんな私は傍観していた人たちと同じ、ただの卑怯者です」


「そんなことは絶対にない。ガリエルは侯爵家だったし、家に迷惑が掛かるかも思うのも当然だ。そんな中で臨時教師の俺を信じてそのことを教えてくれたのはとても勇気のある行為だ!」


 誰かがいじめを受けているということを告発するのは非常に勇気が必要な行動だ。下手をすれば自分が報復行為を受けることになるからな。相手は侯爵家だし、権威を振りかざしてくるようなやつだった。


 元の世界でいじめを告発するよりもこの世界で告発する方か遥かに勇気のある行為である。臨時教師である俺のことを信頼してくれた彼女には最大限の敬意を表したい。彼女にはひとつ大きな借りができてしまったな。


「……そう言っていただけると、少しだけ私も救われます。この上でお願いするのは非常に厚かましいのですが、今後ガリエル殿がメリアかその家族に何か圧力をかけることが予想されます。もしも先生のコネというものが使えるのでしたら、彼女を気にかけていただけないでしょうか? もちろん微力ではありますが、ラクエル子爵家も動こうと思います」


「ああ、それについては安心していい。すぐに分かることだが、ガリエルはマルセーノ侯爵家を勘当されて国外追放されることが決まった」


「………………は?」


 シリルがポカンとした表情を浮かべている。整った顔が台無しだが、それほど衝撃的だったのだろう。


 さすがに第3王女であるエリーザほどの情報収集能力はなかったみたいだな。


「あの馬鹿はすぐに俺をクビにしようとして、ベルンとメリアの親の職場に圧力をかけてこようとしたからな。その報いとしてそうさせてもらった。その結果を見れば他の4人も大人しくなるだろうから、これ以上シリルが心配する必要はないと思うぞ」


「……ガチですか?」


「ガチだ」


 口調も変わっている。それほど衝撃的だったのか。


「ギーク先生はいったい……いえ、前にそれは言いましたね。本当に私の想像以上でした。今回の件で先生のポイントが90ポイント上昇しました」


「相変わらず何のポイントなんだよ……」


「秘密です」


 以前にも5ポイント上昇したけれど、今回はだいぶ一気に上昇したな。100ポイントになったら、何かいいことでもあるのか?


「ポイントはよくわからんが、これで多少は俺のことも信頼してくれただろ。もしも同じようなことをしている馬鹿な連中がいたらまた教えてくれ」


「はい、その際はまた相談させてください。今のところはあれほど愚かなことをしている連中は他には知りませんが」


 どうやら他にシリルが知っている他のいじめはないようだ。


「実に結構。さて、質問はまた魔道具のことか?」


「はい。またよろしくお願いします。メリアの件は解決したようですし、ギーク先生の魔導具に関する知識は本当に素晴らしいです。迷惑でなければ、これから放課後は毎日お願いしたいのですが?」


「勉強熱心なのは素晴らしいことだが、毎日か……」


「先生は以前に使える教師は利用しろと言っておりました。遠慮なく利用させてもらいます」


「……その姿勢も大いに結構。まあ、俺も17時までは勤務時間だし、時間内は教師の務めは果たすつもりだ。ただ、毎日ずっとシリルにだけに教えられるわけじゃないからな」


「えっ……?」


 コン、コン


「おっ、ちょうど来たみたいだな。入っていいぞ」


「失礼します」


「し、失礼します! すみません、掃除が遅くなっちゃいました。ベルンさんとはさっきちょうどそこで会って――あれっ、シリルちゃん!?」


「……ベルンさんにメリア。どうしておふたりがこちらに?」


 部屋の扉を開けて入ってきたのは細身でメガネをかけた男子生徒のベルンと青みがかったショートカットの小柄なメリアだ。どうやらシリルとメリアは知らないという仲ではなさそうだな。


 それもあって俺にメリアのことを教えてくれたのだろう。


「2人とも放課後は魔術の勉強をしたいそうだ。ちょうど俺が放課後はこの部屋を借りることができるようになったから、これからは3人一緒に教えることになるからな」


「………………」


 ベルンとメリアは平民特待生で非常にやる気のある生徒だ。昨日の件もあって、2人から魔術のことを俺に教えてほしいと言われたので快く了承したわけだ。魔術にやる気のある生徒は大歓迎である。


「……マイナス120ポイントですね」


「なんでだよ!?」


 まさかのマイナスポイントだった。一体どういう判断基準なんだよ……。


 というか、100ポイントが最高じゃないんだな。


「冗談ですが、それくらいの気分ですよ、はあ……」


 シリルは俺に向かってため息をついたあと、ベルンの方を向いた。


「ベルンさん、ラクエル=シリルと申します。私もギーク先生にいろいろと教わる予定ですので、これからよろしくお願いします」


「は、はい! ベルンと申します。シリルさん、こちらこそよろしくお願いします!」


 ベルンはCクラスだし、ベルンとシリルは初対面のようだ。謎のポイントが大幅に下がったとはいえ、2人を嫌っているというわけではなさそうだ。


 ふむ、みんな仲良くしてくれそうで何よりである。

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