第42話 放課後の実戦演習


「さて、それでは放課後の実戦演習を行う」


 週末の本日の授業も無事に終了し、放課後に演習場の一部を借りて1年生の全クラスの希望者に参加してもらっている。


 今週は学園外に出て魔物との戦闘訓練を行ったこともあって、いつもの勉強会以外の生徒も参加していた。参加している者の多くは魔物との戦闘経験があった者ばかりだったので、この学園の卒業後はそういった職に就きたいのだろう。


 反対にSクラスの参加者はエリーザとソフィアを除くと男子生徒1人だけだった。やはりSクラスの者は身分や実力のある生徒が多いので、将来戦闘と関わりのない職に就く者が多いのかもしれない。


 学園外の実戦演習にもこの生徒しか希望者がいなかったため、Aクラスと合同で行った。元々Aクラスは比較的おとなしい生徒が多いこともあって、特に問題は起きなかった。


 とはいえ、今ここにはエリーザとソフィアも参加しているからどうなるかはわからないところだ。


「いつもの防衛魔術の授業のように課題なんかはない。各自で好きな魔術を練習したり、各々で模擬戦などをしたり、それを観戦してもいい。危険な魔術を使う際や模擬戦を行う際はフィールド内で行うので、俺に申告するように」


 この演習場内には例の怪我をしないフィールドが2つあるが、借りることができたのは1つだけだ。当然ながらこの学園で学んでいるのは1年生の4クラスだけではないし、2年生からは部活のような活動もあって、放課後にこの演習場を使う人もいる。


 フィールド内を分割して、模擬戦をする場所と危険だったり大きな魔術を練習する一角に分けて使用する予定だ。人がフィールドに多く入る分、戦闘不能になった際のランプはわかりにくくなるが、それは我慢してもらおう。




「ギーク先生、こちらの魔術が上手く発動しないのですが……」


「ふむ、魔術の構成式が間違っているようだな。魔力は問題ないようだから、正しく構成すれば発動するはずだ」


「は、はい!」


 普段の授業では課題があるのと、生徒の人数が多いこともあって、自由に好きな魔術を学べないことも多いだろうからな。この時間に好きな魔術や試したい魔術を学んでもらうとしよう。


「やはりメリアの魔術は上手ですね」


「そ、そうかなあ~」


 シリルとメリアは演習場の一部で大きな魔術の練習をしている。普段の勉強会では俺の研究室が狭いこともあって、大きな魔術の練習はできない。2人とも実戦演習の勉強会の方に参加するか悩んでいたようだが、先日の魔物との実戦を経験して参加することを決めたようだ。


 エリーザとソフィア、ベルンも参加していて俺との模擬戦を希望しているが、先に生徒の質問に答えているので、少しの間待ってもらっている。


 今日参加している生徒は全員で15名ほどだ。防衛魔術と基礎魔術の授業を受けて、多少は生徒の方も俺のことを認めてくれたらしい。やはりこの学園に入っただけあって、純粋に魔術を学びたい生徒は多かったようだな。


「エリーザ第三王女様、カーライル伯爵家のゲイルと申します。どうか私と模擬戦をしていただけないでしょうか?」


 そんな中ゲイルがエリーザの方へ進み、右手を身体に添えて恭しく頭を下げた。


 さすがに普段から貴族だ平民だと言うだけあって、第三王女であるエリーザに対しては相応の態度を取っているようで少しほっとした。


 俺と全然態度が違うのはだいたい予想していたぞ……


「ふん、姫様と手合わせするなど10年早い! それならばまずは私が相手をしてやろう」


 そして当然ながらそこへ割り込むようにソフィアが前に出てくる。ゲイルの後ろにいるハゼンとクネルはどうしたらいいのか分からずにオロオロしているようだ。


 まあ、ゲイルのやつは王族としてのエリーザと接点を作りたいというよりも、学年主席であるエリーザと純粋に戦ってみたいという気持ちだろうな。


 普段の授業ではSクラスの生徒とは接点がないし、ゲイルのやつは戦闘能力に限っていえば現状Bクラスでは1番だから、この機会に挑戦してみたいのだろう。


「ありがとうございます。Sクラスであるソフィア様の胸を借りられて光栄でございます」


 ソフィアの方にも恭しく礼をするゲイル。ソフィアも戦闘能力の面ではSクラスの上位だし、ゲイルもいい経験になるだろう。


 ……それにしても、本当にあいつはいつも俺に食って掛かってくるやつと同一人物なのだろうか?


「ソフィア、下がってください。ゲイルさん、私でよろしければお相手させていただきます」


「本当ですか! 光栄でございます!」


「姫様!?」


「大丈夫ですよ、ソフィア。……シリルさんとメリアさんからうかがっていたギーク教諭に対して無礼な口を利いていたのはこの方ですね」


「ひ、姫様……」


「いえ、何でもありません」


 ……エリーザのやつは大丈夫だろうか?


 シリルとメリアからその話を聞いたエリーザは憤慨していた。ゲイルの口の悪さはともかく、最近の授業は真面目に受けるようになったから、エリーザが気にする必要はないと言い含めておいたんだがな……


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