第43話 生徒達の実力


「それではこれより模擬戦を始める。お互いに礼」


 演習場のフィールドの中にはエリーザとゲイルが対峙して礼をする。エリーザはいつも通りに、ゲイルはいつもの俺に対しての礼よりも深々と礼をする。


 生徒同士の初めての模擬戦ということもあって、質問の時間は一時中断して、俺が審判を務めて他の生徒にも見学してもらう。若干2人がやり過ぎないか心配だったこともあるが、戦闘能力に関しては2人とも特に優れているので、2人の戦闘を見学するのはいい勉強になる。


 俺が言わなくとも、他の生徒も普段接点のないSクラスのエリーザの戦闘に興味があるようだ。


「それでは……開始!」


「フィジカルアップ! ライトニングバレット!」


 俺の開始の合図と同時にゲイルが身体能力強化の魔術を発動させつつ、雷の魔術を構成する。


 的を絞らせずに高速で動き回りつつ、得意の雷の魔術で先手を取った。ゲイルも俺のアドバイスだけは取り入れているようで、魔術の構成速度も早くなったし、最初よりもしっかりと成長している。


 対するエリーザの方は基本である身体能力強化の魔術を使用せずに開始時点から一歩も動いていない。


 ゲイルの放ったライトニングバレットが5つほどエリーザに向かう。


「………………」


「んなっ!?」


 エリーザが無言で右手を左から右に振るうと、半透明の防衛魔術の壁がエリーザを包み込み、ゲイルのライトニングバレットをすべて遮断した。


「ヒビが入ってしまいましたか。やはりギーク教諭との差はまだ遥かに遠いですね」


 ……いや、確かにヒビが入ってしまったが、あの防御魔術でゲイルの魔術を防いだだけでも実に素晴らしい。


 無詠唱の魔術かつ、俺が普段やっているように指を弾いて魔術の発動キーにする方法をすでに取り入れて実戦に使える時点で、その才能は同世代の者よりも頭ひとつ抜けている。


 もちろん毎日の放課後の勉強会で熱心に努力して学んでいたこともあったが、これは明らかに才能の力が大きい。


 ちなみに最初は俺と同じように指を弾くことを魔術の発動キーにしようとしていたようだが、エリーザはうまく指を鳴らすことができなかった。別に音が鳴らなくても発動キーにはできるのだが、どうもしっくりこなかったようなので、腕を振るうことを発動キーにしたようだ。


「……ライトニングランス!」


 ゲイルは瞬時に切り替えて、より一撃の威力が高い魔術を構成する。確かにあの威力なら先ほどのエリーザの防御魔術で防ぐのは厳しいだろう。


 ゲイルも相変わらず戦闘面でのセンスは素晴らしいものだ。


「……ストーンウォール! ファイヤーストーム!」


 エリーザも先ほどの防御魔術では防ぐことができないと判断し、詠唱破棄による土の魔術による盾を出してゲイルの攻撃を防ぎ、ゲイルに対して火の魔術で反撃を仕掛ける。


「くっ!」


 かなりの大きさの火柱だったが、身体能力強化の魔術によってスピードの上がったゲイルはその攻撃をかわす。


「ウインドカッター! ウォーターボール!」


 続けてエリーザが風の魔術と水の魔術でゲイルを追撃する。


「くっ、なんという魔術だ!?」


 様々な属性の魔術が次々とゲイルを襲う。相変わらずエリーザの魔術はすさまじいな……


 エリーザがSクラスの実戦演習へ参加するようになって俺が模擬戦の相手をしたのだが、彼女はどの属性の魔術も万遍なく使用でき、なによりも彼女の魔力の総量に驚いたものだ。


 魔術を使用するには魔力を使用する。当然連続で魔術を使用したり、同時に魔術を使用すると魔力を一気に消費することとなるのだが、エリーザはその総量がずば抜けていた。常人ではあれほどの威力の魔術を連続で使用することは難しいだろう。


「ぐっ!」


 防御に専念していたゲイルがエリーザの魔術に被弾し始めた。


 いくら身体能力強化の魔術を使っているとはいえ、あれだけ様々な魔術を連続で使用されたらかわし続けるのは厳しいだろうな。


 先日も馬車に乗っている際に不意打ちではなく、開けた場所で真正面から戦っていれば、一流の襲撃者であろうとエリーザの相手ではなかったのかもしれない。


 ブーーーーッ!


「くそっ!」


 ゲイルがエリーザの魔術に何度か被弾したところで、戦闘不能の合図を告げるブザーが鳴った。10分の1とはいえ痛みはあるが、それよりも悔しさの方が勝っているような顔をしている。


「そこまでだ。ふむ、双方実に見事だったぞ。エリーザは様々な属性の魔術をあれだけ早く、連続構成できたことは実に素晴らしい」


「ありがとうございます、ギーク教諭にそう言っていただけて光栄です」


「ゲイルもあれだけの魔術を身体能力の魔術と最低限の防御魔術で防いだのは実に見事だった。落ち込む必要はまったくないぞ」


「………………はい」


 エリーザの前だからか、負けたことがショックだったのかはわからないが、俺の言葉に素直にうなずくゲイル。


 エリーザが一歩も動いていなかったこともショックだったのかもしれないが、あれがエリーザの戦法だ。


 動いて的を絞らせないことよりも、圧倒的な魔力量を武器に魔術を構成する速度と威力を最優先にしている。彼女の場合は護衛やソフィアもいるため、あの戦法の方があっているだろう。


 ゲイルの方も言葉通り、まったく落ち込む必要はない内容だった。どちらかというと見学していた他の生徒が今の模擬戦を見てやる気を喪失しないかの方が問題かもしれない……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る