第44話 模擬戦の結果


「……よし、今日はここまでとする。基本的には毎週この時間に同じように実戦演習の勉強会をするので、気が向いたらぜひまた参加してくれ」


「「「はい!」」」


 実にいい返事である。


 やはり授業で指定された魔術を学ぶことも大事だが、自分の好きな魔術や学びたい魔術を学ぶことも良いことだな。苦手なことを学ぶことと同じくらい長所を伸ばすことも大事である。


「ギーク先生、ありがとうございました。とっても勉強になりました!」


「ギーク先生、さようなら!」


「ああ、気を付けて帰るんだぞ」


 ふむ、こうやって生徒から声を掛けられるのもいいものだ。やはり生徒の方もまともで実力のある教師であれば、それなりの態度で接してくれるらしい。今までがどれだけ酷かったんだと言う話だがな。


 模擬戦でエリーザに負けたゲイルが少し心配だったが、むしろ今まで以上にやる気になって、他の生徒やクネルとハゼンと模擬戦を行っていた。俺と模擬戦をするのもよいが同年代の生徒と模擬戦をすることも良い経験となる。口が悪いのと貴族至上主義さえなければやる気のあるまともな生徒なんだよな。


 他の生徒もエリーザとゲイルの模擬戦を見て、やる気を失うこともなく、むしろ今まで以上にやる気が出たようだ。非常に良い傾向である。このまま来週も同様の勉強会を続けるとしよう。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 2日間の休日を挟んで平日初日の放課後。


 この休日の2日間、1日はいつもの研究にあてたが、もう1日は来週からこの学園に来る俺の古い友人と会ってきた。マナティが懲戒処分となったため、学園へ新たに教師が入るのは問題がなくなったからな。


 それと先日のように学園外での実戦演習に向けた場所の下見をしてきた。万一にも生徒たちに危険が及ばないよう、こういったことも大事なのである。これについては休日手当などは出ないが、先日の犯罪組織を潰した時の休日手当はちゃんともらったから良しとしよう。


 アノンのやつもようやくエリーザの誘拐事件の処理が終わったらしい。エリーザの進言があったおかげか、多少の減給処分くらいで済んだのは不幸中の幸いだろう。


「それにしても先週のエリーザさんの魔術は本当にすごかったですね」


「と、とってもすごかったです!」


「ありがとうございます、シリルさん、メリアさん」


 そして今日はいつものように5人の生徒が俺の研究室に集まって、先日のゲイルとの模擬戦のことについて話している。


 やはり初めての全クラス合同ということと、エリーザとゲイルの模擬戦は他の生徒にも刺激となったみたいだ。


「シリルさんとメリアさんの魔術も素晴らしかったです。機会がありましたら、ぜひお手合わせ願いたいですね」


「とんでもないです。やはり私は戦闘がそれほど得意ではないですね。とはいえ、護身術を学ぶために今後も参加をしたいと思っておりますが」


 シリルは実技よりも座学の方が得意なようだ。入学試験もそちらのほうは満点に近いようだったが、実技がそれほど高くなかったため、Sクラスではなかったようだ。


「わ、私も全然です……」


 メリアは平民特待生ということもあって、実技と座学ともに秀でているのだが、如何せんその内気な性格が対魔物や対人戦では足を引っ張っている。入学試験は的相手だったから良かったが、実戦だとなかなか厳しいようだな。


「ソフィアさんもすごく強かったです。とても勉強になりました」


「私は姫様の護衛として日々鍛錬を行っているからな。だが、ベルンもとても強かったぞ」


「ありがとうございます。ぜひまたお手合わせをお願いしますね!」


「ああ、もちろんだ。私もいい鍛錬になるから、こちらこそよろしく頼む」


 ベルンはソフィアに模擬戦を申し込んで戦った結果、こちらはソフィアに軍配が上がった。


 さすがにエリーザの護衛をしているというだけあって、ソフィアはだいぶ実戦経験が豊富らしい。2人ともこの魔術学園では珍しく、ベルンは両手剣でソフィアは両手にナイフを持って魔術と近接を合わせる戦闘スタイルだったため、お互いに学ぶことは多かったようだ。


 もちろん模擬戦では演習場にある木製の武器で戦っていたぞ。常に整備はされているが、万一怪我を無効化する魔道具に不備があったら大変だ。


 なんだかんだでこの勉強会のメンバーも普通に話せるようになってなによりだ。どうしても仕方がないことだが、最初はみんな第三王女のエリーザやピリピリと護衛をしていたソフィアに委縮していたからな。


 生徒同士が身分に関係なく共に勉学へ励む様子は見ていて良いものである。まだ1学年だけだが、多少は以前よりもマシな学園になってきただろう。




「今週もありがとうございました」


「ギーク先生、さようなら!」


「また明日もよろしくお願いします」


「ああ、気を付けて帰るように」


 エリーザとソフィアは習い事があるため早めに帰り、17時となったので3人も帰宅した。


 さて、俺も明日の授業の準備はできたし、今日は寮へ帰るとしよう。


 コンコンッ


「どうぞ」


 荷物をまとめていたところで、この研究室に来訪者があった。

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